第3話
時速二百キロで大宮家の姫である、大宮なのかを全力で轢いた
何の運命のいたずらか――五体満足な大宮なのか、彼女の行き先とちょうど同じ長道駆奈。
ふたりは、暗くなりかける群馬民主共和国の支配下に置かれた埼玉連合王国の土地をバイクで走っていた。
いまここは、十年前は『
ご当地大戦争時には、『
同じくして「東秩父国、秩父郡ニ属スナリ。コレ、侵攻許サン」と、秩父市から国家を樹立した『秩父共和国』はそれを許さず、『東秩父侵攻戦争』が勃発。
多大な犠牲を払い、秩父共和国は東秩父国を奪取。
だが、双方ともに疲弊したところを埼玉連合王国が武力行使をちらつかせ、結果的に両国は埼玉連合王国に併合されることになってしまった。
これらの経緯を含め、他国ではこの戦いを『横取り味噌ポテト』という蔑称で名付けている。
ああだこうだしてるうち、駆奈となのかは秩父温泉に浸かり始めた。
夜になっているが、まだ朝日が昇るまでは時間はある。関所を突破するにしても、深夜を狙う方がよいと考えた。それに、なのかの身も清めようというのもあった。
入浴施設に入る際、なのかは自身の身柄がバレないように髪をぐしゃぐしゃにしてどうにかやり過ごし、今はふたりは温泉に浸かりながら話し合っている。
露天風呂で並びながら、星輝く夜空を見ながら――。
「ここから一時間なのね、
なのかがそう尋ねると、駆奈は肯定した。
「うん、深夜の三時に行くならその一時間前に行けばふつうに行ける、渋滞とかもない。でも、なのか様はどうして国外に? 次期女王って話なんですよね?」
なのかは目線だけ駆奈に移したあと、また夜空を見た。
「ワタシは父の人形じゃないのよ。サトイモ紛争で父が失脚し、この国は二つの大国によって分割された。だけど、埼玉国民の国民性は簡単に塗り替えられるものじゃない。東京大帝国と群馬民主が自己の都合を押し付けたとて、民は生きてここにいるのよ――決めるのは国民自身、決して権勢ではない。人が人をもって、人を決めるべきよ」
「でも、埼玉国民はなのか様を求めてるんじゃないんですか? 施設のテレビで世論調査やってましたけど、王家の支持率だと大宮家のなのか様が六十パーセント越えてましたし、ポスターもその辺に貼られてましたし、『大宮家の誇る、知と美とお嬢様――大宮なのか』とか」
「アレは父のプロパガンダ。大宮家の力で、いろいろやってるのよ。まあ、それは浦和家と与野家も変わらないけど。――一度〝王〟になったら、次は王にはなれない。これがこの国の憲法。だから父はワタシを王座に就かせて、また権威を振るいたいのよ――大きなおもちゃをもらった、子どもみたいにね」
間をおいて駆奈は気を遣うように聞いた。この話の中で、彼女の芯の強さを感じたこそのものだった。
「なのか様なら、その……お父上……さま? の言うこと聞かなくてもいいんじゃないかと。お強いですし、なのか様。なんか身体の方も丈夫ですし」
駆奈のジョークはなのかにも少々効いたようで、笑みがこぼれていた。だが、その笑みも彼女が駆奈の問いに答えていくなかで、少しずつ減っていくのだった。
「ありがとう、褒め言葉として認識しとく。自分が強い方の人間だってことはワタシだって理解はしてる――身体のほうもね、あと権力も。でもね、怖いのよ。ワタシが女王になったとき、どこかでワタシ自身がその権威に溺れてしまうじゃないかって。昔の父は好き、今は嫌い。だけど途中で父が変わったのかといえば、変わってない気がする。ワタシが気づいてなかっただけ、あるいは最初からそうだった――答えは一生わからないと思う。だから、ワタシはここを出たい。ここを出て、ワタシが〝ひとりの人〟ということを自身に
なのかの決意は明瞭なものだった。「やっぱり強い人だ」というのを改めて駆奈は認識した。
駆奈は拳を強く握り、なのかに伝える。
「任せてください、なのか様。あなた様を甲府公国まで私がしっかり『配達』させますから」
「ええ、お願いね。それとワタシのことは、なのかでいい。ここを出たらワタシもただの人よ」
駆奈は首を横に振る。
「埼玉連合王国の中ですから、まだなのか様です。私は
胸に手を当て飛車配達人としての誇りをみせる駆奈を見て、なのかは笑みを見せた。
「いい心がけ、ワタシをなのかって呼ぶのが楽しみ――けど、アンタはワタシをひき殺そうとしたあげく、逃げようとしたことは忘れないから。ここを出たら覚悟しなさいよ」
なのかの笑みにはもう一つの黒い顔が薄っすらと出ていた。
駆奈も誇りのある表情のなかで、「あっ、これ私、終わったー!」という言葉を頭の中で投げつけていた。
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