第29話 意図せぬ影響の現場


竹本ゆうじは、朝のギルドで軽くストレッチをしていた。


昨日の研修会で、自分のスローライフ探索が後輩たちの


安全基準として認識されてしまったことは、


まだ少し戸惑いを感じる。


だが、ギルドからの依頼は待ってくれない。


「ゆうじさん、今日のランクE中層探索、


 同行お願いできますか?」


声をかけたのは、斉藤実だった。


後輩たちの自主判断を尊重しつつ、


安全確保のために竹本を指名したのだという。


竹本は軽くうなずく。「わかった。じゃあ準備するか。」


集合地点には、昨日の研修会に参加した後輩たち――


小林翔太と佐藤明日香――も来ていた。


二人は昨日の話をしっかり心に刻んでいる様子だ。


「ゆうじさん、今日は教えてもらったこと、


 活かします!」小林が元気に宣言する。


「ええ、でも、無理はしないでくれよ。」竹本は微笑みながら注意を促す。


中層の入口に到着すると、空気が少し重く、


地下特有の湿った匂いが漂う。


竹本は何気なく足元を確認し、微かな違和感を感じた。


特に危険はないが、直感として「少し不自然だ」と感じる。


小林はその様子を見て、昨日の研修会の言葉を思い出した。


「違和感を感じたら、無理せず撤退する……」


「先輩、ちょっと止まった方がいいかもしれません!」小林が声をかける。


竹本は振り向き、驚いた。


「おお……お前が言うとは思わなかった。」


「ゆうじさんのやり方を参考にしてますから!」


竹本は苦笑しながらも、少し安心した。


後輩たちが自分の意図せぬ影響で、


安全意識を身につけ始めていたのだ。


探索を進める中で、わずかに崩れやすい地形に差し掛かった。


竹本は一歩踏み出す前に足元を確認する。


小林は昨日の注意を思い出し、先を急がずゆっくり進む。


明日香も慎重に周囲を観察しながら進む。


「ゆうじさん、ここは少し危険かもしれません。


 迂回ルートにしましょう。」小林が提案する。


竹本は少し驚きつつも、頷く。


「いい判断だ。昨日の研修が役立ったな。」


その後も、小さな落とし穴や揺れる岩棚を避けつつ探索を続ける。


竹本はあくまで自分のペースを守りつつ、


後輩たちの自主判断を見守る。


中層の小部屋に到着すると、珍しい鉱石が光を反射していた。


普段なら竹本は手を出さないが、


小林が慎重に観察し、安全を確認した上で少し採取した。


「やった……無事です!」小林が笑顔を見せる。


竹本も微笑みながら応じた。


「こうして無事に収穫できるのも、注意深く進んだお前の成果だ。」


探索を終え、ギルドに戻ると、後輩たちは興奮を抑えきれず、


今日の成果と学びを報告書にまとめ始めた。


竹本は静かにそれを見守る。


自分が意図せず“指標”として扱われたことが、


現場で具体的に成果に結びついた瞬間だった。


「ゆうじさん、ありがとうございました!」明日香が元気に言う。


「うん、でもお前たち自身の判断が一番大事だぞ。」竹本は柔らかく返す。


窓の外に冬の光が差し込み、ギルドの雑踏の中で、


竹本は静かに一息ついた。


意図せず影響を与えてしまったが、


後輩たちの成長を目の当たりにできたことに、


ほんの少し誇らしさを感じる。


「まあ……これも、スローライフ探索者としての


 役目なのかもしれないな。」竹本は小さくつぶやき、


今日もまた穏やかな探索の日々を始めるのだった。

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