第27話 ギルド内での対応方針が決まる回


翌朝、竹本ゆうじはギルドの広間で軽く伸びをした。


昨日の出来事――小林翔太の小さな失敗――が、


ギルド内で少し話題になっていることは知っていた。


ランクEの中層で起きたちょっとした事故ではあるが、


後輩探索者の安全管理という点で、


上層部の目に留まったのだ。


「ゆうじさん、おはようございます!」


声をかけてきたのは、同じくランクE探索者の先輩で、


ギルド内部では信頼の厚い斉藤実(さいとう みのる)だ。


実は冷静かつ理論派で、トラブル時には的確な判断で場をまとめる。


「おはよう、実さん。今日はどうしたんですか?」


「昨日の件で、ギルド内部会議があるんです。


 あなたも出席をお願いされています。」


竹本はうなずき、会議室へ向かった。


会議室には支部長の高橋薫(たかはし かおる)をはじめ、


数名のランクE以上の探索者が集まっていた。


空気はやや緊張している。竹本は、肩の力を抜きつつ席に着いた。


「昨日の中層探索での事故についてです。」


高橋支部長が静かに切り出す。


「小林翔太が宝箱の開錠中に軽度の負傷をしました。


 幸い命に関わるものではありません。

 

 しかし、再発防止のため、

 

 ギルドとして方針を決める必要があります。」


一瞬、会議室が沈黙する。


竹本は手を挙げた。


「支部長、今回の件は小林の好奇心もありますが、


 やはり違和感を無視したことが原因です。

 

 僕も指導者として、

 

 もう少し事前に注意を促せたと思っています。」


斉藤が頷き、付け加えた。


「個人の判断だけで進めることが危険であるのは確かです。


ですが、探索者には自主性も必要です。


ギルドの規制を強化するだけでは、


成長の機会を奪うことになります。」


「そうですね。」高橋支部長はメモを取りながら考え込む。


「では、安全管理のガイドラインを設けることを提案します。


例えば、ランクE以上の中層探索では、必ず指導者が同行すること。


違和感を感じたら即撤退が義務、探索後には簡単な報告書提出。


これを義務化します。」


竹本は内心でうなずいた。


過度な制限ではなく、


最低限の安全策として十分だ。


「加えて、今回のような軽度の事故は、


ギルド内で共有することも重要です。」


斉藤が意見を補足する。


「情報の共有は、後輩だけでなく全探索者の安全意識を高めます。


軽視できない小さな失敗ほど、学びになるのです。」


高橋支部長はうなずき、決定事項としてまとめた。


「では決定です。中層以上の探索には指導者同伴、


違和感を無視しない、事故発生時は速やかに報告、


情報は全探索者に共有。これで安全管理方針とします。」


竹本はほっと息をついた。


「では、指導者としての立場も、


もう少し明確になりますね。」


「ええ。ゆうじさんには小林の面倒も見てもらいます。」


支部長は笑みを浮かべた。


会議後、竹本は小林を呼び、


昨日の件について穏やかに話した。


「昨日は怪我して痛かっただろう?」


小林は少し肩をすくめ、恥ずかしそうに答える。


「はい……でも、次はもっと気をつけます。」


「大事なのは、違和感を無視しないことと、


報告を怠らないこと。これが守れるようになれば、


君の探索はもっと安全になる。」


小林はうなずき、真剣な表情を見せた。


「はい、ゆうじさん。次は必ず守ります!」


竹本は微笑んだ。小さな失敗も、


こうして指導とルールで補強されれば、


探索者としての成長につながる。


外に出ると、冬の朝の光がギルドの窓を通して差し込んでいた。


竹本は、日常と探索がほどよく交わるこの環境を、


静かにありがたく思った。ギルドの方針も固まり、


後輩たちの安全が守られる――そんな小さな安心感が、


彼の心に温かく広がった。

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