第26話 違和感を軽視した後輩探索者の小さな失敗
竹本ゆうじは、ギルドの掲示板を眺めながら小さくため息をついた。
今日は珍しく、後輩探索者の指導役を任されていた。
後輩の名前は小林翔太、まだ探索者ランクは低く、経験も浅い。
だが、その熱意は誰にも負けないほどだった。
「ゆうじさん、今日の依頼、ちょっと面白そうです。
ランクEの中層探索です!」
小林は目を輝かせながら声を弾ませた。
竹本は軽く微笑んで応じた。
「うん、でも油断は禁物だ。
昨日の報告で、中層に少し奇妙な変化があるらしい。
違和感を感じたら、無理せず戻るんだぞ。」
小林はうなずいた。
「はい!でも、ちょっと見てみたいです。
面白そうな発見があるかも。」
竹本は内心で苦笑した。
後輩の探求心は尊いが、スローライフ探索者としては、
無理に危険を取る必要はない。
二人はギルドの装備倉庫で準備を整えた。
竹本は自分の装備を点検しつつ、小林にも軽くアドバイスする。
「防具は動きやすさ重視でいい。
武器も重すぎない方がいい。
レアドロップは焦らず確認してから拾うこと。」
「はい、ゆうじさん!」
二人はランクEダンジョンの入口へと向かった。
ランクEは層数が10まであり、
ゆうじは過去に何度も潜ったことがあるが、
中層の環境は日によって微妙に変わる。
今日は少し風が湿り、
地下特有の金属の匂いが鼻をついた。
「ここだな。まずは慎重に進む。」
竹本は前を歩きながら、
注意深く足元を観察した。
小林もついてくるが、
その目は周囲よりも先を急ぐ。
三層目に差し掛かった頃、
竹本は違和感を覚えた。
微かな音、空気の流れの変化、
ほんのわずかな光の揺らぎ??。
「……翔太、少し止まろうか。」
「え? こんなとこですか? 何もないですよ。」
「違和感は目に見えないものだ。
無視して進むと、後で痛い目を見る。」
しかし小林は首を横に振った。
「いや、大丈夫です!ちょっと探索してみます。」
竹本は言葉を飲み込んだ。
後輩の自主性も大事だ。
少しだけ様子を見ることにした。
小林は興奮気味に先へ進む。
すると、暗闇の向こうでわずかに光るものがあった。
宝箱だ。
普通の探索者なら手を伸ばすところだが、
竹本の中二病スキル「直感冴醒(アンチリスク)」
が微かに反応していた。
危険を察知する能力だ。
「翔太、ちょっと待て!」
「え、どうしてですか?」
しかし遅かった。
小林が宝箱を開けると、
同時に小さな落とし穴が作動した。
足元が抜け、彼は軽く転倒しただけで済んだが、
地面に張り付いていた鋭利な岩角に腕を擦ってしまった。
小さな傷が血をにじませる。
竹本はすぐに駆け寄り、応急処置をした。
「見ろ、違和感を無視するとこうなる。
探索者は目に見えないものも感じ取らないといけないんだ。」
小林は痛みと恥ずかしさで顔を赤くした。
「す、すみません……でも、ちょっとだけ……」
竹本は肩を叩き、微笑む。
「大丈夫だ。怪我は軽い。
今日はここで撤退しよう。
経験も学びも得たしな。」
二人は慎重に入口まで戻りながら、会話を交わす。
「ゆうじさん、違和感って、どうやって見つけるんですか?」
「直感だな。俺はスキルのおかげで察知できるけど、
最終的には自分の感覚を信じるしかない。」
「なるほど……でも、ちょっと怖いですね」
「怖がるのは悪くない。
怖いからこそ、安全に進む工夫が生まれるんだ。」
ギルドに戻ると、竹本は小林の手当てを簡単に済ませ、
探索報告を書き込む。
小林はまだ興奮冷めやらぬ様子で、次の層に挑戦する夢を語っていた。
竹本は心の中で、後輩が少しずつ「探索者としての勘」を
身につけていくことを喜んだ。
しかし、焦らず、スローライフ探索者としての姿勢を忘れないように、
自分も慎重に導く決意を固めた。
今日の小さな失敗は、
彼らにとっての大切な経験値となる。
竹本はギルドの窓から外を眺める。
冬の光が静かに差し込み、
彼の心に穏やかな満足感が広がった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます