第25話 「外から見る、内側」


「……見学、ですか?」


三枝みことは、少しだけ言葉を選んだ。


「はい。潜らない前提で」


竹本ゆうじは、はっきりと言う。


ランクEダンジョン。

入口付近と一層のみ。

戦闘は、必要最低限。


「ギルドとしても、把握しておきたくて」


正式な業務ではない。

だが、上司の許可は取ってある。


装備は、軽装。

防具も最低限だ。


「危なそうなら、すぐ戻ります」


「……それ、探索者の台詞ですね」


みことは、少し笑った。


ダンジョン内部。

入口の空気に、みことは目を見張る。


「音が……」


「少ないでしょう」


「報告で読むのと、違いますね」


一層目。

ゆうじは、前を歩く。


モンスターが出る前に、立ち止まる。


「ここで待ってください」


短く、わかりやすい。


戦闘は、静かに終わる。

派手なスキルは使わない。


中二病スキルが、控えめに発動する。


《発生スキル:安全補助(セーフティ・マージン)》

同行者がいる場合、無理な行動を抑制する精神補助能力。


「……静かですね」


「はい。倒した後も」


みことは、壁に手を当てる。


「反響が、吸われる感じ」


「そうです」


二人は、それ以上進まない。


入口へ戻る途中、みことが言った。


「現場を見ると、判断の理由がわかります」


「よかったです」


「潜らない勇気、ですね」


ゆうじは首を振る。


「潜らない判断です」


言葉の違いに、みことは頷いた。


外に出ると、空気が動いているのがはっきりわかる。


「……戻ってきた、って感じがします」


「それが、基準です」


ギルドに戻り、簡単な共有を行う。


「危険ではありません」


みことがまとめる。


「でも、変化はあります」


その言い方が、以前より落ち着いていた。


「見学、してよかったです」


「はい」


「次は、どうします?」


「しばらく、様子見です」


即答だった。


みことは、少し笑う。


「それ、ギルドとしても助かります」


距離を保つ。

深追いしない。


現場を知ることで、その判断が軽くなる。


みことは、探索者ではない。

だが、現場を知らない受付でも、もうなかった。


ギルドの灯りの下で、二人は静かに頷き合った。

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