第24話 「音が、少ない」


その日は、予定通りだった。


仕事は定時で終わり、軽く食事を済ませてからギルドへ向かう。

ランクEダンジョン。最下層まで行く予定だが、無理はしない。


「今日は、五層まで?」


みことに聞かれ、頷く。


「様子がよければ」


「お気をつけて」


その言葉に、いつもより気持ちを整える。


一層、二層。

問題はない。


三層目で、中二病スキルが発動する。


《発生スキル:環境同調(エンバイロ・アライン)》

周囲の環境変化に対する違和感を感じ取りやすくなる感覚補助能力。

戦闘力には直結しないが、探索向きだ。


四層目。

そこで、気づいた。


音が、少ない。


足音はする。

呼吸音も、問題ない。


だが、ダンジョン特有の「反響」が弱い。

壁に吸われるように、音が消える。


「……静かすぎる」


モンスターは、いる。

数も、配置も、いつも通りだ。


倒した後の残響が、短い。


五層目。

最下層。


空間が、広い。

それ自体は、よくある。


だが、空気が動いていない。

風の流れが、感じられない。


中二病スキルが、もう一つ発動する。


《発生スキル:違和感保持(ディスソナンス・ホールド)》

感じ取った違和感を一時的に明確化し、忘れにくくする能力。


危険ではない。

だが、自然でもない。


「今日は……ここまでだな」


探索を切り上げる。

素材は十分。

レアは出ていない。


帰還時、ゲートの光が、ほんの一瞬だけ遅れた。

気のせいとも言える程度。


ギルドに戻り、報告する。


「異常、というほどではありません」


そう前置きしてから、説明した。


音が吸われること。

空気が動かないこと。

帰還ゲートの遅れ。


みことは、メモを取りながら眉をひそめる。


「他にも、似た報告が少しあります」


「事故は?」


「ありません。今のところ」


坂倉が、腕を組む。


「ランクEだ。大事になる前に、止まるのが正解だな」


「しばらく、様子見ですね」


「そうだな」


派手な事件にはならない。

だが、無視していい違和感でもない。


「深追いしなくて、よかったです」


みことが言う。


「はい」


それだけで、十分だった。


帰り道。

夜は、静かだ。


今日の違和感は、答えを求めていない。

ただ、「覚えておけ」と言っている。


ダンジョンは、変わる。

人に気づかれない速度で。


竹本ゆうじは、自分の感覚を信じることにした。


速く進まない。

だが、見落とさない。


それが、今の自分の探索だった。

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