第22話 「拾わない選択」
その日は、風が弱かった。
ダンジョン前の簡易テントが、ほとんど揺れていない。
竹本ゆうじは、装備を確認してから中に入った。
ランクE。予定は三層まで。
一層目。
動きは鈍く、想定通り。
素材も平均的だ。
中二病スキルが発動する。
《発生スキル:拾得最適化(ピック・チューニング)》
視界に入る物品の価値を大まかに把握し、回収の優先度を整える生活向き能力。
鑑定ではないが、目安にはなる。
二層目。
通路の奥、倒れた瓦礫の影で、光が反射した。
「……?」
近づくと、小さな箱がある。
刻印は、見慣れない。
《推定:レア等級》
久しぶりだった。
手を伸ばしかけて、止める。
箱の周囲。
床に、薄い線が走っている。
「罠……か」
直接的な攻撃罠ではない。
おそらく、警報か、封鎖。
三層に続く通路の手前だ。
発動すれば、戻れなくなる可能性がある。
深呼吸する。
「……今日は、二層まで」
予定は、変えていない。
箱を開ければ、装備更新のチャンスだ。
攻撃力の高い短剣か、防御補正のある具足か。
だが、今日は一人だ。
中二病スキルが、もう一つ発動する。
《発生スキル:撤退補正(リターン・バイアス)》
引き返す判断をした際、行動の迷いを減らす精神補助能力。
静かに、箱から離れる。
マーキングだけして、位置を記録。
写真も撮る。
「拾わない」
その選択に、後悔はなかった。
帰還。
ギルドで報告する。
「レア、出ました?」
みことが聞く。
「見つけました。でも、触ってません」
一瞬、驚いた顔。
「……理由は?」
「一人だったので」
坂倉が、後ろで頷いた。
「正解」
みことは、少し考えてから笑った。
「それ、珍しい報告です」
「持ち帰れない成果も、成果です」
坂倉が言う。
「次に繋がる」
後日。
坂倉と二人で、再訪した。
罠は解除できた。
箱の中身は、短剣。
《風切(かざきり)》
軽量で、振り抜きが速い。
攻撃力は高くないが、疲労を溜めにくい特性がある。
「……生活向きだな」
坂倉が言う。
「はい」
派手さはない。
だが、今の自分に合っている。
装備を更新する。
少しだけ、楽になる。
「一人で取らなかったの、偉いな」
「欲しかったですけど」
「欲しいまま、帰れるのが強い」
帰り道。
夕焼けが、静かだった。
レアドロップは、確かに嬉しい。
でも、それ以上に、判断が揺れなかったことが嬉しかった。
拾わない選択も、前に進む一歩だ。
竹本ゆうじは、新しい短剣の重さを確かめながら、元の速さで歩いた。
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