第20話 「正しさの置き場所」


その日は、朝からギルドが少しざわついていた。


原因は、ランクEダンジョンの報酬精算。

探索者の一人が、金額が合わないと言い出した。


「昨日より、少なくないですか?」


声は大きくないが、譲らない。


対応しているのは、新人の受付だった。

三枝みことは、少し離れた位置で様子を見ている。


竹本ゆうじは、報告を終え、帰ろうとして足を止めた。


「規定では、この金額になります」


新人の声が、わずかに揺れる。


「でも、前はもっともらえた」


「それは、素材の等級が――」


話が、噛み合っていない。


坂倉が、ゆうじの隣に立った。


「巻き込まれるぞ」


「もう、巻き込まれてます」


二人の会話は、聞こえていない。


探索者の視線が、ふと、ゆうじに向く。


「あなた、昨日同じダンジョンだったでしょ」


突然、話を振られた。


「はい」


「同じくらいの素材、出た?」


一瞬、考える。


「量は、少なめでした」


正直に答えた。


探索者は、眉をひそめる。


「じゃあ、やっぱり――」


「昨日は、天候補正がかかってました」


みことが、静かに口を挟む。


「湿度が高くて、保存状態が落ちやすかった。

その分、査定が下がっています」


説明は、簡潔だった。


探索者は黙り込む。


「……知らなかった」


「掲示、出てました」


新人が、少しだけ強く言った。


空気が、張りつめる。


ゆうじは、一歩引いた。


ここから先は、自分の役割じゃない。


「確認できてよかったですね」


そう言って、話を終わらせる。


探索者は、しばらく考えてから頷いた。


「……悪かった」


それだけで、場は収まった。


人が散り、ざわめきが戻る。


「助かりました」


新人が、頭を下げる。


「僕は、何も」


本当だった。


みことが、ゆうじを見る。


「無理に首、突っ込まなかったですね」


「必要なところまで、です」


坂倉が、鼻で笑う。


「正義感が薄いのは、長所だ」


「薄いんですか」


「自分の分だけ、ちゃんと使う」


それは、悪くない。


帰り際、みことが声をかける。


「トラブル、苦手ですか?」


「はい」


「でも、逃げませんね」


ゆうじは少し考える。


「逃げるほど、大きくなかったので」


みことは、納得したように笑った。


ギルドを出る。

外は、いつもと変わらない。


正しいことは、時々、重たい。

全部を背負わなくていい。


置き場所を間違えなければ、それでいい。


竹本ゆうじは、静かな足取りで家路についた。

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