第16話 「元の速さ」


月曜の朝。

竹本ゆうじは、目覚ましが鳴る前に目を覚ました。


体が、軽い。

理由は単純で、ちゃんと休んだからだ。


朝食を取り、いつもより少し丁寧に身支度をする。

会社では、先週のミスを自然に取り戻すように仕事が進んだ。


「調子戻った?」


同僚にそう言われ、曖昧に笑う。


水曜日。

定時で上がり、久しぶりにギルドへ向かう。


「今日は、潜ります」


みことにそう告げると、彼女は少し安心した顔をした。


「無理は?」


「しません」


即答だった。


ランクEダンジョン。

目標は三層まで。


一層目。

足取りが、自然だ。


モンスターの動きが、以前と同じ速さに見える。

それだけで、十分だった。


中二病スキルが発動する。


《発生スキル:生活集中(ライフ・フォーカス)》

一定時間、無駄な思考を減らし、目の前の行動精度を上げる能力。

戦闘向きではないが、探索にはちょうどいい。


二層目。

素材回収を丁寧に行う。

欲張らない。


小さなダメージは受けるが、想定内。

呼吸が乱れない。


「……これだ」


三層目。

無理はせず、区切りのいいところで引き返す。


帰還。

ギルドの空気が、少し懐かしい。


「動き、戻りましたね」


みことが言う。


「整えました」


それだけで通じる。


報告を終え、休憩スペースで水を飲む。

坂倉が、向かいに座った。


「顔、いいな」


「休みました」


「それが一番強い」


坂倉は、それ以上何も言わなかった。


週末。

探索は一日だけ。

もう一日は、完全に休む。


部屋で本を読み、簡単な料理を作る。

夜は、よく眠れる。


次の探索でも、同じペース。

成果は派手じゃないが、安定している。


レアドロップは出なかった。

それでも、不満はなかった。


「続いてる」


それが、今の成果だ。


帰り道、夕焼けを見上げる。

速くも遅くもない、ちょうどいい歩幅。


竹本ゆうじは、自分の“元の速さ”を思い出していた。

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