第12話 「その使い方は、想定外」
きっかけは、どうでもいい疑問だった。
「……これ、組み合わせたらどうなるんだ?」
竹本ゆうじは、休日の昼、自宅のリビングで腕を組んでいた。
テーブルの上には、マグカップとメモ帳。
対象は、中二病スキルで最近引いた二つ。
《クイックリカバー》
《セーフティゾーン》
どちらも生活向き。
どちらも戦闘では地味。
「同時に使ったら、どうなるんだろ」
誰に見せるでもない実験だ。
失敗しても、困るのは自分だけ。
まず、《セーフティゾーン》。
リビングの一角に、半透明の膜のようなものが広がる。
敵対存在を遠ざける安全空間。
「……ゴキブリも入らないかな」
どうでもいい確認をしつつ、次。
《クイックリカバー》。
体が、じんわりと温まる。
「……あ」
妙なことに気づいた。
空間の中が、やけに快適だ。
エアコンを切っているのに、寒くない。
逆に暑くもない。
「もしかして……」
試しに、ソファで横になる。
??すぐ眠くなった。
気づいたら、三十分ほど寝ていたらしい。
目覚めは、異様にすっきりしている。
「……昼寝特化空間?」
思わず声が出た。
次の実験。
《セーフティゾーン》+《ヒールミスト》。
回復用の霧が、ふわっと広がる。
「……湿度、ちょうどいい」
喉が潤う。
肌も、なんとなく調子がいい。
「加湿器、いらないな」
完全に生活家電の代替だ。
さらに欲が出る。
《サイレンスボイス》。
音を消すスキル。
発動した瞬間、外の車の音が消えた。
冷蔵庫の稼働音も、時計の秒針も聞こえない。
「……静かすぎる」
少し怖くなって、すぐ解除。
「使いどころ、選ぶな」
夕方、ギルドに顔を出す。
探索の予定はない。
カウンターでみことに声をかけられる。
「今日は潜らないんですか?」
「はい。ちょっと実験してまして」
内容を話すと、みことは一瞬黙り込んだ。
「……それ、探索者スキルの使い方ですか?」
「生活寄りです」
「でしょうね」
坂倉も加わる。
「昼寝空間?」
「はい」
「……欲しい」
真顔だった。
「ギルドに設置できませんかね」
「私物です」
三人で、しばらく笑う。
「竹本さんのスキル、方向性おかしいですね」
「元からです」
帰り道、ゆうじは考える。
強くなるスキルじゃない。
でも、確実に生活を助けている。
「中二病、悪くないな」
家に戻り、もう
風呂上がりの体が、さらに楽になる。
今日も、ダンジョンには行っていない。
それでも、満足感はあった。
「……明日、仕事だし」
スキルを解除し、電気を消す。
静かで、無理のない夜。
それが、今の自分には一番だった。
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