第11話 「無理をしない人」


三枝みことは、ギルドのカウンター裏で書類を整理していた。

夕方は、探索者の出入りが一番多い。


「……あ」


入口を見て、小さく声が出る。

竹本ゆうじだった。


今日は一人。

装備は軽めで、歩き方が落ち着いている。


「お疲れさまです」


声をかけると、少し驚いた顔をした。


「今日は、静かでした」


それだけ言って、報告を済ませる。

無駄がない。


書類に目を落としながら、みことは考える。

彼は、いつも同じだ。


強がらない。

疲れているときは、素直に休む。

無理な予定を入れない。


探索者としては、珍しい。


他の探索者たちは、成果を誇りたがる。

深い階層、派手なドロップ。

そういう話が多い。


竹本は、そうじゃない。


「三層までで帰りました」


それだけで、十分だと言う。


坂倉が、後ろから声をかけてきた。


「今日も無事?」


「ええ。たぶん、問題なしです」


坂倉は、竹本の背中を見て言う。


「あの人、危険察知がうまい」


「スキル?」


「たぶん、性格」


みことは、思わず笑った。


ギルド内を見渡す。

ランクEに上がって、調子を崩す人も多い。

焦って、怪我をして戻ってくる。


竹本は違う。


「探索者って、もっとガツガツしてる人が向いてると思ってました」


「生き残るなら、違う」


坂倉の言葉は、重かった。


書類を片付けながら、みことは思う。

彼は、探索者というより、生活者だ。


だからこそ、続く。


「竹本さん」


帰り際、声をかける。


「無理、してないですよね?」


「はい。してないです」


即答だった。


その言葉に、嘘はない。


「それなら、いいです」


彼は軽く会釈し、ギルドを出ていく。


その背中は、静かだ。

でも、不安定じゃない。


「……不思議な人」


強くなりたい人は、たくさんいる。

生きやすくなりたい人は、少ない。


みことは、彼の背中が人混みに消えるまで、少しだけ見送った。

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