第10話 「一人で歩く距離」
今日は、一人だ。
竹本ゆうじは探索者ギルド東湾支部の前で、少しだけ立ち止まった。
合同探索が嫌だったわけではない。
坂倉も、みことも、信頼できる。
だが、一人で潜る時間は、また別の意味を持つ。
「三層まで」
声に出して決める。
それだけで、迷いはなくなった。
ランクEダンジョンの入口をくぐる。
空気はやはり重いが、前ほど緊張しない。
一層目。
足音が、自分の分だけ響く。
《マジックアイ》
索敵用のスキルだ。
周囲の気配が、ぼんやりと浮かび上がる。
敵は、少し先に一体。
ゴブリン。
距離を保ち、影鉄のナイフを構える。
動きは自然だった。
《ストーンバレット》
石弾が当たり、ゴブリンが怯む。
近づく前に、もう一発。
戦闘は短い。
呼吸も乱れない。
「……悪くない」
二層目へ進む。
通路は広く、見通しがいい。
ここで、ふと気づく。
自分の歩幅が安定している。
足音も、無駄がない。
以前は、常に周囲を気にしていた。
今は、必要な分だけを見る。
二層目の敵はスライム。
数は二体。
《ウィンドカッター》
風の刃が、一直線に走る。
残った一体を、ナイフで処理。
「……楽、ではないけど」
苦しくもない。
三層目。
ここが、今日の終点だ。
小さな部屋で、宝箱を見つける。
罠を確認し、開ける。
中身は、革製の腕当て。
防御力が少し上がる。
「地味だな」
だが、悪くない。
その場で装備し、軽く腕を振る。
動きに支障はない。
《クイックリカバー》
帰還前に、発動してみる。
体の奥が、ゆっくり温まる。
「……やっぱり、便利だ」
予定通り、引き返す。
それ以上、奥へは行かない。
ギルドに戻ると、受付が顔を上げた。
「お一人でした?」
「はい。静かでした」
「それが一番です」
帰り道、夜の街を歩く。
人の声、車の音。
ダンジョンの中とは、まるで違う。
「一人も、悪くないな」
強くなるために潜っているわけじゃない。
生活を壊さないために、潜っている。
その距離感が、今の自分には合っている。
部屋に戻り、装備を外す。
腕当てを棚に置く。
「また、次の余裕がある日に」
電気を消し、静かな夜に身を委ねた。
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