第9話 「役に立つかどうかは、使い方次第」
その日は、軽く一層だけ潜るつもりだった。
仕事帰りで、体調は悪くない。
だが、無理をするほどの余裕でもない。
「一層だけなら」
そう自分に言い聞かせ、ランクFダンジョンの入口をくぐる。
敵は出ない。
静かな通路。
「……まあ、こういう日もある」
歩いていると、スキルが勝手に反応した。
中二病スキルは、たまにこういうことがある。
《セーフティゾーン》
半径数メートルの安全空間が展開される。
敵が寄ってこない。
「……今、いらない」
苦笑しつつ、歩き続ける。
宝箱もないまま、一層を一周。
帰ろうとした、その時。
ふっと、視界が切り替わった。
《クイックリカバー》
自然回復促進。
疲労が、ゆっくり抜けていく感覚。
「……これ、ダンジョンじゃなくても?」
試しに、そのまま帰還する。
ギルドで休憩していると、坂倉が声をかけてきた。
「今日は早いですね」
「変なスキルが出まして」
説明すると、坂倉は考え込んだ。
「それ、日常向きですよ」
「ですよね」
帰り道、歩きながら実感する。
足のだるさが、いつもより早く消える。
家に着いても、疲れていない。
むしろ、体が温かい。
「風呂、後でいいか」
洗濯を回し、夕飯を作る余裕がある。
野菜を切る手が、軽い。
食後、ソファで少し横になる。
眠気が来ない。
「……これは、使える」
翌朝。
目覚めがいい。
通勤電車でも、立っていられる。
会社でも、集中が切れない。
昼休み、スマホでスキル履歴を確認する。
《クイックリカバー》
使用回数:1
持続時間:不明
「曖昧だな」
だが、十分だった。
夜、もう一度だけ試す。
帰宅後、意識してスキルを発動。
《クイックリカバー》
じんわりと、体が楽になる。
「……ダンジョン、行かなくてもいい日が増えそうだな」
強さを求めるスキルじゃない。
でも、生活が確実に良くなる。
中二病。
名前はどうかと思うが、当たりはある。
「悪くない」
ゆうじは、湯気の立つマグカップを手に、静かな夜を過ごした。
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