第5話 「何もしないという選択」
その日は、最初から決めていた。
竹本ゆうじは、ダンジョンに行かない。
目覚ましを止め、二度寝をして、起きたのは九時過ぎ。
平日の朝とは、空気がまるで違う。
「……たまには、いいか」
洗濯機を回し、コーヒーを淹れる。
テレビでは、朝の情報番組が流れていた。
ダンジョン特集。
新しく見つかったランクBの入口や、高額取引されるレア素材。
派手な映像が続く。
「大変そうだな」
他人事のように思える自分に、少し驚く。
朝食はトーストと目玉焼き。
焦がさないよう、じっくり焼く。
食後、昨日手に入れたナイフを取り出す。
使わない日でも、手入れはする。
刃の感触を確かめ、布で拭く。
特別な技術はない。
ただ、丁寧に。
「今日は、使わないからな」
昼前、近所のスーパーへ出かける。
特売の野菜を買い、ついでに惣菜コーナーを覗く。
コロッケが安い。
昨日も食べた気がするが、気にしない。
午後は、何もしない時間。
ソファに寝転び、スマホを眺める。
ギルドの掲示板アプリに、通知が来ていた。
ランクE同行募集。
締切、今日。
一瞬、指が止まる。
「……今回は、見送り」
通知を消す。
夕方、少し散歩に出る。
公園では、子どもが走り回っていた。
遠くに、ダンジョンの入口が見える。
以前なら、気になって仕方なかった。
今は、そうでもない。
「ちゃんと休むのも、大事だな」
夜、風呂にゆっくり浸かる。
肩の力が抜けていく。
布団に入る前、明日の予定を確認する。
仕事。定時。
それだけ。
強くなりたい気持ちは、ないわけじゃない。
でも、急ぐ必要はない。
今日、何もしていない。
それが、悪くない。
ゆうじは電気を消し、目を閉じた。
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