第2話 「少し丈夫な靴と、少しだけの自信」


翌朝、竹本ゆうじは目覚ましより少し早く目を覚ました。

体が軽い。筋肉痛は、ほとんどない。


「……あれ?」


昨日はダンジョンに潜ったはずだ。

三層までとはいえ、探索は探索。普通なら多少は疲れが残る。


洗面台で顔を洗い、鏡を見る。

特別変わった様子はない。だが、どこか調子がいい。


ギルドでもらった説明を思い出す。

ダンジョンに潜ることで、身体能力が少しずつ底上げされる。

数値として見えないため、実感しにくいが、確実に影響は出る――そう言われていた。


「……ほんとなんだな」


会社へ向かう足取りが、わずかに軽い。

駅の階段を上るとき、息が切れにくいことにも気づいた。


仕事はいつも通り。

資料作成、会議、メール対応。

ただ、集中力が長く続く。目の疲れも少ない。


定時になると、ゆうじはきっちり席を立った。


「今日も行くか……無理しない範囲で」


ギルドに立ち寄ると、昨日の手袋について説明を受けた。


「簡易耐衝撃グローブですね。ランクFだと、当たりの部類ですよ」


攻撃力が上がる武器ではないが、防御力が少し上がる。

防御力とは、ダメージを減らす力のことだ。

派手さはないが、初心者にはありがたい。


装備を着け替え、ランクFダンジョンへ。


二層目。

ゴブリンが一体、こちらに気づいた。


「……来るなよ」


そう思った瞬間、スキルが発動する。


《ストーンバレット》


手のひらほどの石が高速で飛び、ゴブリンの肩に当たる。

よろめいた隙に、短剣で一撃。


思ったより、落ち着いて対処できた。

昨日より、動きに余裕がある。


三層目では、二体同時に出たが、距離を取りながら戦えた。

《セーフティゾーン》が発動し、一瞬だけ安全な空間ができる。


「……便利すぎないか」


中二病スキル、名前はどうかと思うが、実用性は高い。


四層目で、今日は引き返す。

無理はしない。それがルールだ。


帰還後、ドロップ品を確認する。


・丈夫な探索靴

・銅貨数枚


探索靴は、足首をしっかり守るタイプだった。

防御力が上がり、疲れにくくなるらしい。


「靴、地味に大事だよな」


ギルドのベンチで、靴を履き替える。

フィット感がいい。


帰り道、商店街に寄り、総菜を買う。

今日はコロッケとサラダ。


家に帰り、シャワーを浴びる。

体を拭きながら、また気づく。


疲労が、昨日より少ない。


「……ちょっとずつ、か」


一気に強くなる必要はない。

目立たなくていい。

生きやすくなれば、それでいい。


ベッドに横になり、明日の予定を考える。

仕事、定時退社、余裕があればダンジョン。


それだけで、十分だった。

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