第4話 糸と意志
はぁ……なんでこうなった。
フラストレーションと諦めが混ざった気持ちで、スマホを取り出してとしての設定を始めた。全部準備ができているか確認しながら、目の前にデジタルのホログラフィックパネルが現れた。「フィジカル」とか「エネルギー」とか、数字が並んでいる統計が表示されている。まるでRPGのメニューを見ているみたいだけど、プレイの仕方すら分からないゲームだった。
画面の下には「スキル」というボタンがあった。使える技は一つだけみたいだけど、今はそれを分析している暇なんてない。
相手の傲慢な男子は一秒も黙らなかった。嘲笑と優越感が混ざった声が響く。
「なぁ、オレ本気で分かんねーんだけどさ、お前らFクラスって何で存在してんの?このアカデミーのスペースの無駄じゃん。お前みたいな奴はここにいるべきじゃねーんだよ。未来もねぇし、プライドもねぇ」
言葉がイライラさせ始めた。心臓が強く打っているのを感じて、顔に熱が上がってくる。無視しようとしたけど、その最後のフレーズは我慢できなかった。気づいたら、口が開いて言葉が自動的に出ていた。
「じゃあ教えてくれよ、賢いさん。何クラスなんだ?」
男子は一瞬黙り込んで、嘲笑の笑みが消えた。怒りの表情に変わる。
「――あぁ?今なんつった?」
「だから。何クラスなんだって」
顎の筋肉が緊張しながら、イライラした口調で答えた。
「Aクラスじゃねーかもしんねーけどよ、オレはまだCクラスだ。まだ上がるチャンスはあんだよ」
小さな笑いが漏れてしまった。緊張と挑戦が混ざったような笑いだ。
「じゃあ、全力で来いよ」
そう言って、彼の目を真っ直ぐ見た。
自分でも信じられない。こんなに挑発的になるなんて。だから、もっと無茶なことを思いついた。この傲慢な男子を怖がらせるために。
「全ポイント賭けろよ」
男子は一瞬呆然として、目を細めながら本気で言っているのか見極めようとしていた。それから、人生で聞いた中で一番バカげたことを聞いたかのように爆笑した。
「ははっ!冗談だろ?」
髪を後ろに撫でつけながら落ち着こうとしている。
「お前みてーな奴相手に全部賭けるって?ありえねぇ!」
「――どうした?」思いがけない自信が湧いてきて、遮った。
「Fクラスの僕みたいな奴に負けるのが怖いのか?」
笑いが一気に消えて、厳しい表情になった。言葉が認めたくないほど彼を傷つけたみたいだ。
「怖い?」攻撃的な口調で繰り返した。
「笑わせんな。当たり前だろ、全ポイント賭けてやるよ」
男子はスマホを取り出して画面で金額を調整し、持っている20ポイント全てを賭けに入れた。
「ほらよ、オレのポイントだ。やろうぜ」
ホログラフィックの画面がすぐに変わって、賭けられている総額が表示された。40ポイント。金属的な声がデジタルフィールドに再び響いた。
「ポイント確認」
傲慢な男子は腕を組んで、嘲笑の口調で言った。
「お前みてーなクズには勿体ねーけどよ、このバトルの残酷さってもんを教えてやるよ」
男子は傲慢に笑いながら、すでに勝者だと思っているかのように姿勢を整えた。空気の中の緊張感がほとんど触れられるほどだった。呼吸が速くなっているのを感じて、手が少し震えている。勝たなきゃいけない。ポイントのためだけじゃなく、この男子と他の皆に、Fクラスの人間でもどんな挑戦でも立ち向かえることを証明するために。
金属的な声が響いた。
「バトルスタート!」
周囲の全てが変わった。もうアカデミーの廊下にはいない。仮想環境が平原に移動させた。全てが緑の野原だった。
スキルはどこだ?
手を見たけど、何も持っていない。何で戦えばいいんだ?防御に使えるものを必死に探しながら。輝く剣とか、神秘的な弓矢とか、槍でもいい、何か壮大なものを期待していた。でも手には何もなかった。何も。
それとも……もしかして補助系のスキルなのか?
考える時間もなく、男子が目の前に現れた。戦う準備ができている。スピードが驚くほど速くて、右手に短剣が輝いていた。動きが機敏で直接的で、昨日授業が始まったばかりなのに経験があるのが分かる。
短剣で繰り出される斬撃を避けられるような気がした。この仮想空間では体が軽くて柔軟になっているみたいだ。
「どうした、Fクラス!見せてみろよ、お前の力をよ!」
短剣が脇腹をかすめたけど、胸に突然の焼けるような痛みを感じた。下を見ると、制服に切り傷があって、ダメージを示す赤い光が点滅していた。
「それだけか?」笑いながら次の攻撃の準備をしている。
考えずに、その瞬間にできる唯一のことをした。走り始めた。
計画が必要だった。走るだけでは数秒しか稼げない。何かしなければ何も勝ち取れない。走りながら、また手を見た。何か、何でもいいから見つかることを期待して。
その時、感じた。
指に何かが絡まっている。糸だった。細くて、ほとんど見えないけど、確かにそこにあった。
糸のようなものが……奇妙だけど、これが今の僕の唯一の選択肢だ。深く息を吸って、走りながらこの力の使い方を理解しようとする。糸は指の動きに合わせて動いている。まるで手の延長みたいに。試しに横に動かしてみると、驚いたことに従ってくれた。
これが僕のスキル……か。
安堵と混乱が入り混じる。でも、試している時間なんてない。あの傲慢な男子はもう背後に迫っていて、距離をどんどん詰めてくる。
「いつまでも逃げられると思うなよ、Fクラスが!」
そう叫びながら、また短剣で攻撃してきた。今度はかろうじて避けられた。横に回転しながら、無意識に手を動かす。糸が伸びた。反射のように。そのうちの一本が彼の腕をかすめた。
奴は一瞬止まって、驚いた顔で自分の腕を見た。
「何だこりゃ……?」
デジタルの肌に残った薄い痕を確かめている。
その混乱を利用して距離を取り、この糸をどうやってもっと効果的に使えるか考え始める。手を上げて指を動かしてみる。糸が反応して、伸びたり縮んだりする。まるで生きているみたいだ。
もしかしたら、これを使えるかもしれない。
そう思いながら戦う準備をする。
奴はすぐに立ち直って、今度はもっと攻撃的に突っ込んできた。でも今は計画がある。走ってくる彼の前方の地面に糸を一本投げた。足がそれに触れた瞬間、糸が張って、奴は躓いて地面に倒れた。
「何だこれは!?」
すぐに立ち上がりながら叫ぶ。
答えない。代わりに、もう一度糸を奴に向けて動かして、捕まえようとする。でも今度は準備ができていて、簡単に糸を避けて、短剣を構えて突進してくる。
短剣の刃が顔の近くを危険なほど通り過ぎるのを感じながら、後ろに下がって、必死に糸を動かして距離を保つ。
「たかが糸ごときでオレを止められると思ってんのか!?」
そう叫びながら、胴体に向けて直接斬りかかってくる。
咄嗟に糸を前で交差させた。驚いたことに、短剣が止まった。糸は思っていたより頑丈みたいだ。でも衝撃で後ろに押されて、バランスを崩しそうになった。
奴は数歩下がって、苛立ちと好奇心が混じった目でこちらを見ている。
もっと何か必要だ……。
呼吸を落ち着かせようとしながら考える。糸は役に立つけど、使い方が全然わからない。
奴はまたニヤリと笑って、攻撃の機会を探して動き始めた。一秒ごとにプレッシャーが増していく。勝ち方がわからないゲームをしているみたいだ。
早く何か考えないと……。
指の間で糸が動いている。次の一手の準備は整っている。
できるだけ距離を取りながら、奴が苛立った目で追ってくる。いつまでも逃げられないのはわかってる。でもこの糸をどう使うか、早く考えないと。
走りながら気づく。糸は動きに反応してる。まるで意志の延長みたいに。
奴はついに我慢の限界が来たらしい。
「いつまで腰抜けみたいに逃げてんだよ!」
そう叫びながら、短剣を前にして突っ込んでくる。
彼の焦りを利用して、慎重に指を動かす。糸が伸びて、周囲に軽く絡まる。一本が彼の腕をかすめて、攻撃の精度が落ちた。辛うじて避けて、さらに後退する。
「そんな手が二度も通用すると思うなよ!」
怒鳴りながらまた突進してくる。
今度は逃げなかった。素早く指を動かして、糸を目の前で網のように絡ませる。奴は真っ直ぐ攻撃しようとしたけど、短剣が糸に引っかかった。一瞬、彼の顔に混乱が浮かぶのが見えた。
あの日、ひめかを守れなかった……今度は違う!
力いっぱい引っ張ると、糸が短剣を手から引き剥がして地面に落とした。奴の自信に満ちた表情が完全に消えて、怒りと驚きに変わった。
「――Fクラスの力なんて……所詮ゴミじゃねえか!」
そう叫びながら素手で突っ込んでくる。
今度は下がらなかった。糸を正確に動かして、奴の足を囲む。反応する前に糸が張って、躓いて地面に倒れた。
その隙に、腕と胴体にもっと糸を巻き付ける。解こうとしてるけど、糸は見た目以上に頑丈だ。バトルで初めて、完全に主導権を握った。
「――これで終わりだと思うなよ!」
必死に逃れようとしながら叫ぶ。
深く息を吸って、全力で引っ張る。完全に動けなくなった。
全身の力を込めて叫んだ。
「Fクラスの価値、今見せてやる!」
全ての糸を一度に引っ張った。糸が全部あの傲慢な奴に絡まって――
金属的な声がデジタルフィールドに響いた。
「ウィナー:ウェバー・アレン」
信じられなかった。勝った。これは運だけ? それとも本当に才能があるのか……? 何が起きたのか理解しようとしながら考える。
デジタルフィールドが消えて、アカデミーの廊下に戻ってきた。まだ指に糸が絡まっているような感覚が残っている震える手を見る。
男子は奴は苦労しながら立ち上がって、怒りと屈辱で顔を真っ赤にしている。取り巻きたちが立つのを手伝ってるけど、こっちを睨みつけてくる。
「まだ終わっちゃいねえからな、聞いてんのか!?」去りながら言う。
「このポイント、絶対取り返してやる。また来る。二倍、三倍、ゼロになるまで何度でも奪ってやるからな!」
その脅しが頭の中で響いてる。でも不思議と怖くない。安心してる。このアカデミーに来て初めて、チャンスがあるって感じた。
画面の通知を見る。
『+40ポイント』
やり遂げた……信じられない。勝った。でも、バトルで感じた感覚を思い出す。ほぼ透明だけど青く光っていた糸。この廊下の仮想空間から全く違う場所に変わったバトルフィールド。全てが信じられないくらい凄かった。
やったよ、ひめか……やっと君を乗り越えて、前に進めるかもしれない。
控えめな笑顔を浮かべながら、アカデミーの学食に向かって歩き出す。このストレスの後は、何か食べないと。
* * *
(高遠完士)
Cクラス。
本来なら、オレの実力で最低でもBクラスには入れるはずだった。でも、現実は違う。Cクラス……しかもこのアカデミーのルールを考えると、この位置は全然安全じゃない。このまま負け続ければ、最下位のFクラスまで落ちる。
そんなの絶対に嫌だ。
でも、ルールに文句を言っても仕方ない。受け入れるしかない。このアカデミーでは、デジタルバトルが全て。ポイントが全て。何も疑問に思わず、ただ戦い続けて勝つだけだ。
初日の午後、戦う相手を探して、すぐにEクラスの奴と戦うことになった。Eクラス……Fクラスの次に弱いクラス。大したことない。
勝った瞬間、そいつは悔しさで泣きながら逃げていった。
バトルを見ていた二人の男子が近づいてきた。
「なあお前、もっと楽にポイントを稼ぐ方法があるぜ」
それから、三人で一緒に戦い続けた。負けることなくポイントを稼ぎ、ついに60ポイントに到達した。
そして、あの二人が言った。
「Fクラスの奴らを狙え。あいつらは底辺の負け犬だ。まともに戦うことすらできねえだろ?」
まあ、その通りだ。Fクラスにいる奴らなんてゴミ同然だろう。
翌朝、Fクラスの教室を見張って、誰が出入りするか観察した。ほとんどが女子だったが、男子が一人いた。
こいつが、Fクラスで一番弱い奴に違いない。当然、ポイントは持っているはずだ。普通、Fクラスの相手に勝っても得るものはない。でも──
デジタルバトルの時間になると、Fクラスの奴が教室から出てくるのを待ち伏せた。階段で囲んで──
そして、そいつと対面したとき……まるで捕食者から逃げようとするネズミのようだった。
でも……
目の前の奴を見て、思わず疑問が湧いた。
こいつ、本当にFクラスの生徒か?
まるで上から見下ろすような態度をとっている。暗い青みがかった髪、疲れたような黄色い目。姿勢からは何も読み取れない。本当に変な奴だ。
思わず歯を食いしばった。
Fクラスの生徒だぞ。オレより下にいるはずの奴が、こんな風に話しかけてくるなんてありえない。
こいつは全ポイントを賭けろと言ってきたが、オレはバカじゃない。だから初期の20ポイントしか持ってないふりをして、それを賭けた。
どうでもいい。勝てば40ポイント手に入る。負ける可能性なんて考える必要もない。
この戦い、絶対に勝つ。
それだけだ。
バトルが始まった。
負けるわけがなかった。
でも……
なんで……!
Fクラスの生徒なのに、なんでオレより強いんだ……?
ありえない。Cクラスのオレが負けるなんて、そんなのありえない!
あのFクラスの奴に勝てなかった……なぜだ?何が起きた?
あいつは糸のようなものを使って──オレにダメージを与えて──短剣を奪い取って──オレの動きを見抜いて──
一体、あいつは何者なんだ?
結局、負けた。
でも、この怒りは消えない。もっとポイントを稼いで、そしてもう一度あいつにバトルを挑む。持っているもの全てを奪い取る。
あいつの名前は知らない。でも、知る必要もない。Fクラスの奴だ。
絶対に追いかける。
一度の敗北でプライドが傷つくとは思わなかった。でも、これはFクラスの奴に負けたから、こんなに苦い敗北なんだ。
たぶん、昨日の連勝に目が眩んで、だから負けたんだ。それしかない。
でも、一つだけはっきりしている。
あのFクラスの奴を、絶対に許さない。
* * *
(アレン)
アカデミーの食堂に着いた。生徒たちで溢れていて、みんな違う表情や態度をしていた。リラックスしている者もいれば、戦略について議論している者もいる。ただ食事を楽しんでいる者もいた。
デジタルスクリーンに映し出されたメニューを見た。価格は様々だ。基本的な選択肢は1ポイントから5ポイント、豪華な料理になると20ポイント、30ポイントにまで達する。あまり使いすぎたくなかったから、シンプルな1ポイントのサンドイッチと、幸いにも無料の水を選んだ。
隅のテーブルを見つけて座り、食事を始めた。味は特別なものではなかったけど、僕にとっては勝利の味がした。
サンドイッチを噛んでいると、背後に気配を感じた。振り向かなくても誰だかわかった。
「ねえ、アレンくん!」
霧崎さんの声だ。いつも通りエネルギーに満ち溢れている。
霧崎さんが目の前に座り、何か秘密を発見したかのように微笑んでいた。
「あたし、あなたのバトル見たわよ」
テーブルに肘をついて、じっと見つめてくる。
口に入れたサンドイッチが喉に詰まった。急いで水を飲んで、なんとか飲み込んだ。そしてようやく気づいた――霧崎さんが目の前にいることに。緊張が一気に押し寄せてきて、手が震えて水を少しこぼしてしまった。
彼女はまだ気づいていないようだった。今、どれだけ緊張しているか。
「初めてのバトルにしちゃ悪くなかったわよ。Cクラスの人に勝ったんでしょ?すごいじゃない!」
視線を下げた。何を言えばいいのかわからない。いや、わかったとしても無理だ。彼女と話すことなんて、顔も見られない、言葉も形にできない。だから何を考えても意味がない。
しかし霧崎さんは、沈黙を楽しんでいるようだった。
「あなた、すっごくミステリアスよね〜」
ただ聞いていた。目を合わせずに。手に汗をかいて、心臓が激しく鳴っている。
彼女は続けた。
「こんなに静かな人があんなスキル使えるなんて思わなかったわ!」
彼女を見なくても、諦める気配はない。そこに座って、会話を……いや、僕に何か言葉でも発させたいのか?それとも意味のない音でも?いやいや、まさか前に考えたみたいに、僕を召使い候補として試してるとか?――そんなバカな……!ああ!誰か助けてくれ……。
「ねえねえ、何か言ってよ〜」
来た!もう要求を始めている。崖っぷちに立たされた気分だ。
母さん、ごめん。でも女性への恐怖を乗り越えるのは無理だと思う。バトルで感じたあれは無駄だった。ひめかのことがまだ記憶に深く残っている。あの罪悪感、自分の馬鹿げた行動で女性を傷つけることへの恐怖……もうそんなことは嫌だ……嫌なんだ。
沈黙が続いていると、霧崎さんが突然、遊び心のある口調で言った。
「ねえアレンくん、あたしとデジタルバトルしない?」
その質問に驚いた。目を見開いて彼女を見た。
霧崎さんはただ微笑んで、答えを待っていた。
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