第3話 Fクラス、初陣
アラームの音が小さな部屋に響き渡る。狭いけど、まあ十分快適な空間だ。でも、どこか牢屋みたいに感じてしまう。渋々腕を伸ばしてアラームを止めた。
二日目か……Fクラス……クラスメイト……
疲れと不安が混ざり合った気持ちで、枕で顔を覆った。また四人の女子と顔を合わせなきゃいけないなんて、ベッドの中に消えてしまいたい。
昨日、最初のホームルームの後、早めに解散になって、これから三年間を過ごす「我が家」となる場所を案内された。いや、三年間もつかどうかも分からないけど……。簡単にまとめると、アカデミーから寮まで一本道が続いている。このアカデミーでは全生徒が寮生活をするのが規則らしい。親も知っていたらしいけど、黙ったまま僕には教えてくれなかった。だから聞いても何も教えてくれなかったんだな。
他にもキャンプ場みたいなエリアがあったり、夏になったら楽しめそうなプールみたいな場所もあった。周りには緑も多いけど、危険な野生動物はいないらしい。まだアカデミーの全てを見たわけじゃないけど、そういう娯楽施設を楽しむ時間なんて来るとも思えない。
重いため息をついて、無理やりベッドから出た。足を引きずるようにバスルームへ向かう。冷たい水で顔を洗って、少し頭をすっきりさせる。鏡に映った自分を見る。髪はぐちゃぐちゃで、クマがいつもより濃い。
急いで準備を済ませて、クローゼットに向かい制服を取り出した。ダークブルーのジャケットとグレーのチェック柄パンツ。まあ、普通の制服だけど、Fクラスっていう、アカデミー最底辺のクラスに所属してることを思い出させる。
ネクタイを直しながら、ふと考えてしまった。
あの子たち、僕のことどう思ってるんだろう……きっと負け犬だって思ってるんだろうな……
リュックを掴んで、深呼吸してから部屋を出た。
寮の廊下では、他の生徒たちが授業に向かう準備をしている声が聞こえる。楽しそうに話してる奴もいれば、グループで歩いてる奴もいる。僕は、いつも通り距離を保つ方を選んだ。
アカデミーの本館までの道は静かだったけど、頭の中は全然落ち着いてない。昨日は最悪だった。自己紹介の時、名前を言うのがやっとで、その後霧崎さんが、あの外向的な性格で、なぜか僕に近づいてきた。可能性としては……馬鹿にするため?それとも、何か召使いみたいなのが欲しいとか?考えすぎかもしれないけど、気になって仕方ない。霧崎さんが僕に話しかける理由って何なんだろう。
Fクラスの扉の前で立ち止まった。深呼吸する。
今日は違う。今日は……黙って、目立たず、気づかれないように過ごす。
そう思いながらドアを開けると、最初に目に入ったのは、もう教室に来ていた霧崎さんだった。彼女がこっちを見て、満面の笑みで声をかけてくる。
「おはよう、アレンくん!今日も楽しい一日になりそうね!」
目立たない計画が数秒で崩れ落ちた。まだ教室の入口に立ってるだけなのに、この距離なら何とか返事できるかもしれない。
「あ、あ、ああ……そうだね……」
緊張してないように答えたつもりだけど、声が上ずってるのは明らかだった。遠くにいるのに、彼女を見るだけでこうなってしまう。
でも待って!今気づいた!
霧崎さん、昨日と同じ席に座ってない。今日は僕の席の真横に座ってる……絶対何か企んでる。でも何を?考えれば考えるほど動揺して、もう歩くこともできない。視線は床に固定されたまま。
彼女が僕がまだ入口で固まってることに気づいた。
「どうしたの?なんでそこに立ったままなの?」
その質問に反応した。答える代わりに、これ以上問題を起こさないようにしないと。他の空いてる席を見た。変わろうと思えばいくらでもある。でも、そんなことしたら霧崎さんはどう思うだろう?悲しむ?怒る?彼女の善意を拒んだら、僕が悪者になる?もしかして、彼女はただそこに座りたいだけで、僕が離れることで彼女を落ち込ませてしまうかも?
深く考える前に、衝動のまま、ゆっくりと席へ歩き出した。昨日まで隣は空席だったのに、今は彼女が座っている。まるで自分の領域を踏み込まれたみたいに感じる。ドサッと椅子に腰を落とした瞬間、彼女の視線がこっちに向いているのが分かった。
ああああ!誰か助けて……。
でも霧崎さんは僕の不快感に全く気づいてない様子だった。
「ねえ、なんでそんなに無口なの?女の子が怖いとか、なーんてね」
明らかに冗談のトーンだったけど、その言葉に内心震えた。だって、当たってるから。
「ち、ち、違……うよ……」
答えようとしたけど、言葉が詰まった。霧崎さんは僕の反応を見て楽しんでるみたいだった。
彼女がさらにからかう前に、アイアンハートさんがいつもの攻撃的な視線で教室に入ってきた。
「ちっ。霧崎、もう変なやつをいじめてんのか?」
自分の席に歩いていきながら言って、座った。
「いじめてないわよ、ただ居心地良くしてあげようと思ってるだけ」
霧崎さんが無邪気なトーンで答えたけど、その笑顔は別のことを示唆してる。
「ほっといてやれよ。昨日、自己紹介するだけで死にそうになってたじゃねえか」
アイアンハートさんが腕を組んで椅子に寄りかかりながら付け加えた。
「だからこそよ!話しかけなかったら、どうやって慣れるのよ?」
霧崎さんが反論する間、僕は自分の席で消えようとしていた。
ハサウェイさんが少し後に到着して、明るく礼儀正しい笑顔でみんなに挨拶した。
「皆さん、おはようございます!今日も一日頑張りましょうね」
リュックを机の横に置きながら言った。
黒神さんが最後に入ってきた。予想通り、一言も発さず。いつもの距離を置いた雰囲気で自分の席に座り、会話を完全に無視してる。そういえば、彼女はほとんど存在感がない。僕以外、誰も気づいてないみたいだ。
四人の女子を観察しながら、圧倒されずにはいられなかった。みんなこんなに違うのに、僕はどうやって馴染めばいいんだろう。
教室のドアが勢いよく開いて、古橋先生が昨日見せたのと同じエネルギーで入ってきた。よく見ると、先生は眼鏡をかけていて、髪をポニーテールにまとめている。他に特別目立つ特徴はなさそうだ。
「おはよう、みんな!席についてね」
古橋先生の声でクラスが静まり返った。デジタルボードの前に立った先生が何かを準備し始める。今度は何を説明するんだろう?
「さてさて、今日はクラスの委員長を決めようと思うの」
一瞬、胸が締め付けられるような不安が走った。でもすぐに落ち着きを取り戻す。自分が候補に挙がるなんてあり得ない。
「でもね、問題があってさ。このクラスはまだ五人しかいないのよ。だから申し訳ないんだけど、生徒が増えるまでは、誰か一人がクラスの役職全部を担当することになるわ」
思わず息を呑んだ。それは…とんでもない責任じゃないか。委員に選ばれた人は一体どうなってしまうんだろう。
「無駄な投票は避けたいから、直接聞くわね。クラスの委員長を引き受けたい人はいる?一人で全部担当することになるけど」
しばらく沈黙が続いた。誰も手を挙げない。当然だ。そんな重荷を背負いたい人なんて――
「はい!」
ハサウェイさんが手を挙げた。
驚いた。彼女は本当に勇敢だ。昨日もデジタルバトルで真っ先に飛び込んでいったのは彼女だった。
「本当にいいの、ハサウェイさん?」
「はい!お願いします、先生!」
心から楽しそうに見える。委員長になることに、本当にワクワクしているみたいだ。
「わかったわ!異議がなければ、ハサウェイさんがクラス委員長ね。みんな、拍手してあげて」
他の皆と一緒に拍手をする。問題は思ったより早く解決した。自分に直接関係がなくて、正直ホッとした。
でも、安心したのも束の間だった。古橋先生がデジタルボードに素早く何かを書き始める。
「さて、次は『デジタルバトルの自由時間』についてよ」
は?
嫌な予感がした。これから始まることは、絶対に心地いいものじゃない。
「昨日も言ったけど、ポイントを稼ぐ主な方法はデジタルバトルなの」
先生が教室の壁の時計を見ながら微笑む。
「毎日、決まった時間にアカデミー全体でバトルの時間があるわ。誰かに挑戦してポイントを稼げる時間ね。これは授業時間内だけど、それ以外の時間でもバトルは可能よ」
凍りついた。
つまり…毎日、決まった時間にアカデミー中の生徒が教室を出て、相手を探してバトルする。しかも授業外でも挑戦できる。毎日、バトルの波が押し寄せてくる可能性があるってことか。
喉が渇いた。必死に緊張を抑え込む。
「みんな、スマホを出して。設定の仕方を教えるわね」
先生がバトルの設定方法、ポイントの管理、挑戦相手の選び方を説明していく。
「ポイントをどう使うか、どんな決断をするかは君たちに任せるわ。アカデミーは事態が制御不能にならない限り介入しないから」
少し軽い口調で、先生は最後にこう言った。
「今日はこれで終わりね。頑張って、みんな。頑張らないとダメよ?」
説明が終わると同時に、チャイムが鳴り響いた。重く、機械的な音。まるでアカデミーのデジタル環境と同期しているかのようだ。
古橋先生は荷物をまとめると、振り返ることもなく教室を出て行った。空気に不確かな何かが残された。
その沈黙を破ったのは――
アイアンハートさんが席から立ち上がった。その表情は、いつもより遥かに険しい。
彼女の足音が静まり返った教室に響く。まっすぐハサウェイさんの方へ向かっていく。
そして、彼女の目の前で立ち止まった。
「あんたに挑戦する、ハサウェイ!」
その声は荒く、断固としていた。感情の欠片もない冷たい眼差し。
ハサウェイさんが驚いて顔を上げる。
なぜだ?どうしてアイアンハートさんがハサウェイさんに挑戦するんだ?理由がまったく分からない。でも、事実としてデジタルバトルを仕掛けようとしている。
霧崎さんが席を立ち、二人のところへ歩いていく。
ハサウェイさんが何か聞こうとしたが、アイアンハートさんはそれを遮った。
「本気よ。10ポイント欲しいの。断るのは無しだからね」
ハサウェイさんが眉をひそめる。緊張した状況だが、彼女は挑戦を受ける準備ができているように見えた。
霧崎さんと黒神さんが静かに見守っている。
僕は座ったまま、ただ驚きと恐れが入り混じった感情を抱えていた。アイアンハートさんの口調と表情は、これまで見せていたものとはまったく違う。
このアカデミーは、人の意外な一面を引き出すんだな。
ハサウェイさんがようやく沈黙を破り、自信に満ちた小さな微笑みを浮かべた。
「分かりました、アイアンハートさん。わたしと戦いたいのなら構いません。でも、簡単には勝てないと思いますよ」
「いいわ!審判が必要ね。誰かやってくれる?」
霧崎さんがとても心配そうな顔をしている。黒神さんはもう二人を見てもいない。
そして自分は――できるだけ椅子に沈み込むように体を低くした。見つからないように。審判なんて絶対にやりたくない。近づきたくもない。
でも驚いたことに、霧崎さんが審判を引き受けると言った。
教室の空気が張り詰めた。
二人がスマホの画面を操作すると、デジタルフィールドが展開された。青い光と格子状の線が全員を包み込む。けれど、バトルフィールドはアイアンハートさん、ハサウェイさん、霧崎さんだけを仮想空間に閉じ込めた。
前回と同じように、フィールドの前にスクリーンが現れる。仮想空間の中の動きが全てクリアに見える。
ただし、音声は聞こえない。このスクリーンは映像だけを映し出している。
* * *
(りん)
金属的な声が響いた。
「通常バトル確定。賭けポイント:20」
目の前のバーチャルパネルを見つめる。賭けられるポイントについての情報が表示されていた。
どうやらアヤさんとエリザさん、それぞれ10ポイントを賭けるみたい。合計で20ポイント。あの金属的な声が説明してくれた通り、勝者は自分が賭けた分を取り戻すだけじゃなくて、倍になって返ってくるってことよね。
本当に公平なシステムなのかな?
疑問はあったけど、これがこのアカデミーのルールなんだから仕方ないわね。
もう一度パネルを見る。バーチャルパネルには色んな情報が表示されていて、うっかり変なところを触りたくないって思っちゃう。
『バトル:ノーマル』
『賭けポイント:20』
アヤさんとエリザさんの名前も表示されてる。それだけじゃなくて、二人の現在の身体状態まで――!?
このバーチャルシステム、一体どういう仕組みで動いてるのかしら。論理的に考えても分からないわよ。いつの間にアカデミーはあたし達の情報をこんなに集めたの?
ううん、今はそんなこと考えてる場合じゃないわね!
アヤさんとエリザさんのバトルに集中しなきゃ。バーチャルパネルにスタートボタンが現れたから。
エリザさんとアヤさんの前からボードが消えて、また金属的な声が聞こえた。
「バトルスタート!」
周りの景色が一瞬で変わった!教室が消えて、今は広い野原が広がってる。遠くには木々が見える。すごいよね、テクノロジーがここまでデジタルフィールドを再現できるなんて!でも、今はそんなこと考えてる場合じゃない。あたしはこのバトルの審判なんだから、ちゃんと集中しなきゃ!
アヤさんがエリザさんに向かって走り出した。最初の一撃を狙ってる!でもエリザさんは自然な動きでそれを避けた。エリザさんの金属の拳が地面を叩くと、ドシンって振動が伝わってきた。アヤさんは後ろに跳んで距離を取った。
その瞬間、アヤさんの手に何かが現れた。スキルだ!鎖が彼女の手に浮かんでる。
エリザさんは自信ありげな表情で言った。
「鎖ですか?本当に?特別なものには見えませんわね」
アヤさんの顔が怒りで歪んだけど、何も言わなかった。でも、その目が決意で光ってた。鎖が素早く動き始めて、エリザさんに向かって伸びていく。横に跳んで最初の攻撃を避けた。でも、アヤさんは休む暇を与えない。鎖が方向を変えて、まるで生きてるみたいにエリザさんを追いかけた。
エリザさんは素早く反応して、グローブで鎖を防いだ。ガキン、ガキンって音が響く。本物の打撃みたいな重い音だった。
「それだけですか、アイアンハートさん?もっと強いと思っていましたわ」
エリザさんの雰囲気が変わってた。さっきまで真面目で優しそうだったのに、バトルに入ったら別人みたい。何かが目覚めたような感じ。ポイントが賭かってるから?この アカデミーじゃポイントはすごく大事だし、もっと激しくなって、さっきまでの丁寧な態度を捨てるのも普通なのかな。
アヤさんは歯を食いしばって後退した。鎖は絶え間なくエリザさんを攻撃してるけど、全然当たらない。激しいバトルなのに、エリザさんが優勢に見える。動きが正確で、全ての攻撃を簡単に避けたり防いだりしてる。
あたしは審判として全部をしっかり見てた。何か問題が起きたら止めなきゃいけないけど、正直、何が正しくて何が間違ってるのか、よく分かってないんだよね。目の前のバーチャルパネルにいろんな情報が表示されてるけど、これ全部何を意味してるのかな?
エリザさんが今のところバトルを支配してる。そう思ったけど、アヤさんは一度も止まってない。ずっと反撃を続けてる。でも、アヤさんの表情に何かがある。絶望してない。むしろ、計算してるみたい。
突然、アヤさんが戦略を変えた。鎖で直接攻撃する代わりに、バトルフィールドの周りに鎖を広げ始めた。鎖がデジタルの地面に固定されて、エリザさんの周りにパターンを作ってる。
「何をしているのですか?」
エリザさんが困惑した様子で言った。鎖が自分に向かってこないから。
アヤさんがついに口を開いた。その声は確固としてた。
「これよ」
手を動かすと、鎖が引き締まって、罠みたいにエリザさんの周りを閉じた。エリザさんは避けようとしたけど、鎖が速すぎた。一本が腕を捕まえて、もう一本が脚に絡みついた。反応する前に、完全に動けなくなってた。
「そんな!」
エリザさんが叫んで、鎖から逃れようとしてる。
アヤさんがゆっくり近づいてきた。鎖が進むにつれて、もっときつく締まってる。
「もう動けないでしょ。ここで終わりよ」
エリザさんが叫んで、グローブの力で鎖を壊そうとしたけど、鎖は壊れない。最後に、アヤさんが片手を上げて最後の攻撃を放った。鎖の一本がエリザさんの胸を直撃して、地面に倒れさせた。
あたしのバーチャルパネルに警告メッセージが現れて、「押す」って書いてあるボタンが一つだけあった。だから押した。
金属的な声が響いた。
「ウィナー:アイアンハート・アヤ。獲得ポイント:20」
デジタルフィールドが消え始めて、みんな普通の教室に戻った。アヤさんは立ったまま、深く息をしてる。鎖が消えていった。エリザさんはまだ地面にいて、悔しそうに地面を叩いてから立ち上がった。
「信じられませんわ」
エリザさんは本当にショックを受けてるみたい。アヤさんを怒りと尊敬が混ざった目で見てる。
「負けました…でも、よくやりましたわね。その戦略は見事でした」
アヤさんはすぐには答えなかった。ただスマホをしまって、顔がいつもの表情に戻った。
「いいバトルだったわ」
あたしは笑顔で近づいた。
「エリザさん、アヤさん、まさかの勝利だったね!すっごく素敵だったよ!」
二人の間に憎しみはない気がする。むしろ、これが良い友情の始まりかな。Fクラスは5人しかいないんだから、みんなで仲良くした方がいいよね。それがこのクラスのために実現したいことなんだ!
* * *
(アレン)
自分の席から、彼女たちが簡単に話している様子を眺めていた。もうあんなに自然に会話できるんだ。話しかけることもできない。友達にもなれない。彼女たちにとって、僕は何者でもない。
このデジタルバトル・システムは、ゲームなんかじゃない。見た目よりずっと深刻なものだ。
彼女たちが集中して話し込んでいて、黒神さんの姿もほとんど周りからは見えなくなっているのを確認した。今なら誰にも気づかれずに教室を出られるかもしれない。
女子しかいないクラスで、聞いてはいけない話を聞いてしまうような問題は避けたい。ゆっくりと歩き出す。誰も気づいていないようだ。ドアを静かに開けて、音を立てないように外へ出た。誰も僕の退出に気づかなかった。
廊下に出ると、空気が変わった。教室の中は空調が効いているけど、廊下は違う。それに、騒がしい音が聞こえてくる。もしかして、今も生徒たちがバトルをしているのかもしれない。
そういえば、先生はデジタルバトルの時間だって言ってたけど、自由時間みたいなものでもあるのかな。
廊下を歩き続けると、いくつかのデジタルフィールドが展開されていて、何人かの生徒がバトルをしていた。
教室を出られて安心した。クラスメイトの視線や、あの緊張した雰囲気から離れられた。でも、もちろん、この安心は長く続かなかった。
角を曲がった瞬間、三人の男子が道を塞いでいた。
中央にいる奴の態度は、傲慢さそのものだった。真っ直ぐな姿勢と、あの自信満々な笑み。無視するのは不可能だ。両脇にいる二人は取り巻きのようで、廊下が自分たちのものだとでも言いたげに周りを見回している。制服は乱れていて、手にはスマホを握りしめて、それを見せびらかすように光らせている。
中央の男子が一歩前に出て、軽蔑するような目で僕を見下ろしてきた。
「おい、お前」
優越感に満ちた声で、近づいてくる。
「Fクラスだろ?」
すぐには答えなかった。心臓の鼓動が速くなり、頭の中で必死に出口を探す。一体何が目的なんだ?緊張を表に出さないようにしなければ。
「――あ?何だよ、喋れねえのか?」
首を傾げて、僕の沈黙を嘲笑うように続ける。
「そうだよな。Fクラスなんて全員役立たずだもんな。立ってるのがやっとなんじゃねえの?ハハッ」
取り巻きたちが大笑いする。まるで最高のジョークを聞いたかのように。
無視して通り過ぎようとしたけど、男子は腕を組んで道を塞いだ。
「よく聞けよ、新入り。オレ様がお前にデジタルバトルを挑んでやる。今すぐ、ここでな!」
目を見開いた。バトル?ここで?まだこの戦いがどう機能するのかもよく分かっていないのに、いきなり挑戦されるなんて。
「――どうした?ビビってんのか?」
さらに嘲笑的な口調で続ける。よく見ると、この男子は典型的な学校のいじめっ子というより、僕より背が低くて、髪型から良家の出身だと分かる。
「あぁ、そうか。Fクラスには度胸なんてねえもんな!」
後ろの連中が囃し立てて、皮肉なコメントを投げかける。彼らの笑い声が廊下に響き渡り、一瞬、自分がとても小さく、取るに足らない存在のように感じた。
でも、ここでのルールは分かっている。挑戦を受けないという選択肢はない。それは社会的な敗北宣言と同じだ。
視線を落として、状況の重さを感じた。
「聞けよ、Fクラス!お前を片付けたら、次はFクラスの奴ら全員を狙ってやるからな!」
その言葉を聞いた瞬間、胸に痛みが走った。クラスメイトたち――彼女たち全員のことが頭に浮かんだ。なぜか分からないけど、この傲慢な男子から彼女たちを守らなければいけないような気がした。こんな奴が彼女たちに何かしたら、と考えたくもない。
よく分からない。彼女たちは僕の状況を知らない。この傲慕な男子のことも知らない。それなのに、影から彼女たちを守りたいと思っている。なぜこんな気持ちになるのか、自分でも分からない。でも、そう感じてしまう。
選択肢なんてない。歯を食いしばりながら、震える手でポケットからスマホを取り出した。
「分かった。受けて立つ」
男子は満足そうに大きく笑った。
「そうこなくっちゃな!覚悟しろよ、Fクラス。これがお前の最初で最後のバトルになるからな!」
そう言いながら、携帯を取り出してデジタルフィールドを設定し始めた。周囲の光が点滅し始め、廊下の雰囲気がゆっくりと変化していく。壁が消えて、青い背景にグリッド線が視界の果てまで広がっていく。
これは本物だ。足元の床が微かに震えるのを感じた。手のひらに汗が滲み、呼吸が速くなる。これは単なるゲームじゃない。初めてのバトルだ。勝つために必要なものが自分にあるのか、分からない。
目の前の男子がもう一度笑って、指を突きつけてきた。
「全部失う覚悟はできてるか?Fクラス」
金属的な声が空中に響いた。
「バトルタイプを選択してください」
両者がどんなバトルをするか決めるための指示のようだ。
「ノーマルバトルでいいか?Fクラス」
「それでいい」
取り巻きの一人が手を挙げて宣言した。
「オレが審判をやってやるよ」
驚きはない。最初から分かっていたことだ。
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