第16話 せつめい!
拠点から再度出発し、わたしは端末を持ったまま、洞窟の中でぼんやり立ち尽くしていた。
湿った空気。
遠くで水が落ちる音。
なのに、目に入ってくるのは画面とコメント欄ばかり。
……ずっと、こんな感じだ。
「……三日目にして、やることが無いな」
ぽろっと零れた本音に、自分で少し引く。
参加すること。
目立つこと。
消えないこと。
そこまでは、出来た。
出来たけど――。
「……で、ダンジョンで何してんだ、わたし」
少し考えて、ようやく辿り着く。
「……今後を考えるなら……強さより、使い方だな」
逃げないために、配信で言っておこう。
人の前で。
後戻りできない場所で。
配信、開始。
「……先日も、途中で切れてしまって、すまない」
一拍。
咳払い一つ。
「この身は、包葬 四裂という」
「……今日は、集った問いに答えを述べる」
コメントが、すぐに流れ出す。
・まずその見た目はなんなの?
・包帯どうした
・怪我?
・普通に怖い
「……順に答える」
注目されているという事実に、口の中が乾く。
嬉しいけど、嬉しいのがバレるとまずい。
「ま、まず……この姿についてだ」
「……ダンジョン内では、解けない」
「状態として、固定されている」
包帯に指が触れる。
・じゃあずっとそれ?
・外出ても?
・不便じゃない?
・暑そう
「外では、外す」
「ここでは、外れない」
淡々と答えたつもりだが、
・今ちょっと緩んでない?
・包帯ずれてるぞ
・巻き直せ
「……」
一瞬、黙る。
「……後で、直す」
次。
「次に、スキルについて」
少しだけ間を取る。
「直接、姿を見られた場合……無意識に発動すると考えてもらっていい」
「視線が条件だ」
「故意の発動も出来るが……難しい」
・見なければいい?
・目逸らせば安全?
・サングラス最強説
「……理論上はな」
「だが、完全ではない」
正直に言う。
「次は、移動スキルについて」
「……現状、ランダム性が高い」
「意図した場所へは、使えない」
・事故じゃん
・ギャンブル移動
・使えないスキルでは
「……否定はしない」
肩が少し落ちる。
「……雷貫について」
「端末への電力供給が本来の用途だ」
「人の傍へ移動したのは、副次的な結果だ」
・じゃあ強くない?
・雷なのに?
・思ってたのと違う
「……強そうに見えるだけだ」
別のコメントが流れる。
・みんな貫系伸ばすよね
「そうだな」
その流れを拾う。
「多くの参加者は、初期の貫系をそのまま強化、発展させると聞く」
「使い慣れると……身体に染み付くらしい」
少し、視線を落とす。
「……この身には」
「もう……別のものが、染み付いている」
・不穏
・何染み付いたんだよ
「だから、まずは癒貫から慣れる」
「仮に傷付けた際……対処出来るようにする」
・回復優先えらい
・意外と真面目
・事故前提なの草
「……必要なことだ」
わたしは洞窟の壁に寄りかかり、検証を始めた。
殴貫。
鈍い衝撃。
雷貫。
痺れ。
・なにしてんの?
・自分殴るな
・こわ
この姿も見られていると思うと、胸の奥がむず痒い。
「……っ」
そして、癒貫。
痛みは引く。
痕は残る。
「……と、このように」
「回復はするが、消えない」
・説明しながら殴るな
・冷静すぎる
それを何度か繰り返した、その時。
感覚が、変わった。
自傷から回復までの一連が、ひとつにまとまる。
脳内表示が、静かに更新される。
――優癒ノ傷。
「……スキルが、増えた」
・お?
・新スキル?
・効果は?
「……この場での効果は、無い」
「他のスキルが……止まる、らしい」
直後、身体から力が抜けた。
脚が震え、腰が崩れる。
呼吸が乱れ、視界が揺れる。
「……っ」
包帯がわずかにずれて、
口元から舌が覗く。
「ん゛…///」
・ちょ
・大丈夫?
・息荒いぞ
・包帯!包帯!
安全だ。
……けど、まずい。
身体が、変に安心しきっている。
包帯も、少し緩い。
コメントの中に、ひとつ。
・これ教育に悪くない?
――スン。
わたしは即座に、優癒ノ傷を解除した。
呼吸を整える。
姿勢を正す。
包帯を軽く押さえる。
「……解除する」
……こういう配信は、良くない。
「以上が、現状だ」
「質問には……概ね、答えたと思う」
水を飲み、端末を見る。
「……付き合ってくれて、感謝する」
「……他になにか、ある?」
・自己紹介して
・もっとスキル見たい
・ポイント狙わないの?
・思ったより普通
「……」
配信って、難しい。
なんでも、してしまいそうになるし、
コメントも、多すぎて迷う。
「……どうしよう……」
小さく呟いた声は、
しっかりマイクに拾われていた。
・無理しないで
・頑張れ
・次も見る
……情けないな。
でも、言葉はわたしの支えになる。
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