第15話 たんさく

「……次は、皆と探索しようと思う」


 配信を始めて、わたしはそう切り出した。

 洞窟の入口付近。光量は足りているし、足場も悪くない。


「……前回は、その……事故だった」

「……今日は、進む」


 言い切ってから、少しだけ間を置く。


「……あと、この身の能力についても……説明しておいた方が、いいかもしれない」


 視線がある。

 数字は見ない。でも、分かる。


「……この身の力は、“傷”に反応する」

「……与え、与えられ、共有され……移動にまで、及ぶ」


 自分で言っていて、ややこしい。


「……つまり、制御が、難しい」


 だから。


「……慎重に、進む」


 そう言って、わたしは一歩、踏み出した。


 ――止まる。


「……これは……元からの損傷だ」


 壁に走る細い亀裂を指さす。


「……こちらも、そうだ」

「……これも……」


 また一歩。

 また止まる。


「……この床の割れは……たぶん……」


 コメントが、流れ始める。


 ・全然進んでない

 ・説明長い

 ・まだそこ?


 胸が、少しだけざわつく。


「……確認は、大事だ」


 自分に言い聞かせるみたいに続ける。


「……これは、この身のではない」

「……壊してはいない」


 ・牛歩すぎる

 ・鑑定配信かな?

 ・くどい


 ……くどい。


 分かってる。

 分かってるけど。


「……進んでいる」


 声が、小さい。


 ・進んでないってw

 ・どうしようって顔してる


 ……どうしよう。


 内心で、完全にその通りだった。


 進みたい。

 でも、壊したくない。

 見られている。


 その三つが、絡まって、解けない。


「……」


 気づいたときには、床の傷に、指が触れていた。


 ――あ。


「……っ」


 視界が、歪む。


「……移動……しちゃった……」


 洞窟。

 また洞窟。


 でも、知らない。


「……ここ……どこ……?」


 声が、明らかに上ずる。


 ・移動スキルあるよね

 ・事故?

 ・迷子じゃん


 心臓が、早鐘を打つ。


 裂脈は、戻れない。

 行き先も、選べない。


 ……どうする。


 焦りの中で、ひとつだけ浮かぶ。


 雷。

 端末。

 人。


「……雷貫なら……」


 わたしは、躊躇ってから、自分に向けて流した。


「……雷貫」


 びり、と痺れが走る。


「……っ……///」


 痛みは弱い。

 でも、身体が強張る。


 ・何してんの?

 ・自分に雷は草

 ・頭おかしくなってない?


 震える手で、痺れた場所に触れる。


 祈るみたいに。


 視界が、引き延ばされる。


 次の瞬間。


 灯り。

 人影。

 声。


「うわっ!?」


 誰かのすぐ近くに、わたしは立っていた。


「……すまない」


 コメントが、一斉に流れる。


 ・人のとこ行った

 ・自傷してワープしてる人にしか見えん

 ・表情おかしくない?


 ……。


 否定できなかった。


 胸の奥が、じんと熱い。

 怖い。

 でも、安心する。


「……戻れた……」


 足は、まだ震えている。


 でも、人がいる。

 光がある。


「……今日は……ここまでにする」


 端末に向かって、小さく息を整える。


「……色々の説明は……また、次に」


 ・次も事故りそう

 ・乙

 ・探索とは


 配信を切る。


 画面が暗くなって、洞窟の音だけが残る。


 ……次は。


 次こそは、ちゃんと。


 わたしはそう思いながら、

 包帯を押さえて、ゆっくり歩き出した。


 …見られるのって、やばい。




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