第13話 ごめんなさい
配信をつけた。
画面は静かで、わたしはしばらく何も言えずにカメラを見つめていた。
誰もいないかもしれない。
でも、もう切るわけにはいかない。
喉が鳴る。
……落ち着け。
今日は、ちゃんと話す日だ。
少しだけ姿勢を正す。
演じる。いつも通りに。
「……この身は、包葬 四裂という」
声が、思ったより軽い。
あ、と思う。軽すぎる。
画面の端で、文字が流れた。
・こわ
短い。
感情が分からない。
でも、それだけで分かる。
見られている。
「……今日は」
一拍。
「謝りたくて、来た」
言った瞬間、胸の奥がきゅっと縮んだ。
これ、ちゃんと謝れてるかな。
言い方、変じゃないかな。
・聞こえてる
・謝罪?
頭の中で、昨日のことが浮かぶ。
ひび割れた床。
逃げる人。
怖がった顔。
――あ。
急に、息が詰まった。
「……その……」
言葉を続けようとして、止まる。
喉の奥が、熱い。
振り返って説明しようとしただけなのに。
「……わたし……」
出た。
今の、完全に素だ。
・今、わたしって言った?
慌てて、言い直そうとする。
「……この、身は……」
だめだ。
頭が、うまく切り替わらない。
さっきまで考えていた言葉が、全部遠くなる。
代わりに、感情だけが近づいてくる。
怖かったこと。
嫌だったこと。
でも、嬉しかったこと。
ごちゃまぜになって、胸に溢れる。
「……ちゃんと……」
声が震えた。
「ちゃんと、謝ろうと……」
・声やばくない?
・泣いてる?
息が、乱れる。
鼻の奥が、つんとする。
泣くつもりじゃなかった。
本当に。
「……えっと……」
そこで、声が裏返った。
あ、これ――。
啜る音が、勝手に出る。
止めようとして、止まらない。
「……この身は……この身は……」
同じ言葉を、何度も探す。
見つからない。
・あ、ほんとに泣いてる
・落ち着け
涙が落ちる。
一粒、二粒。すぐに、分からなくなる。
演じる余裕なんて、もうない。
「……あー、……」
小さく漏れた声が、配信に乗った。
その瞬間、床のどこかで、ぱき、と音がした。
気づいたときには、壁に細い傷が走っている。
床にも、ひび。
・え、今の音なに
・背景、割れてない?
……また。
わたしは泣きながら、首を振る。
「……ちが……今日は……」
違う。
今日は、壊す日じゃない。
でも、泣いている。
見られている。
その自覚が、決定打だった。
胸が、ぎゅっと締め付けられる。
・配信切った方がよくない?
・これ大丈夫なやつ?
傷が、増える。
静かに、確実に。
「……ごめ……」
最後まで言えなかった。
震える手で端末を掴む。
画面が滲んで、よく見えない。
もう、無理だ。
配信を切った。
音もなく、画面が暗くなる。
その場に座り込んで、
わたしはしばらく、泣き続けた。
あとから思えば、
あのとき、どれくらい見られていたのかは分からない。
ただ。
気持ちが溢れたのは、
確かだった。
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