第12話 謝罪配信

 少しだけ、時間を使った。


 ダンジョンの奥。

 人の気配がない場所。


 わたしは岩壁の前に立って、包帯越しに自分を見下ろしていた。


 ……何を言えばいいんだろう。


 さっきまで、あんなに必死だったのに。

 少し落ち着いた途端、頭が真っ白になる。


 戦闘の時は、考えなくていい。

 怖くても、身体が先に動く。


 でも。


 言葉は、違う。


 間違えたら、全部そのまま伝わる。

 逃げ場がない。


「……素のわたしだと……」


 小さく、呟く。


 多分、誰も見てくれない。


 普通に話して。

 普通に謝って。


 それで終わり。


 それは……嫌だ。


 怖いけど。

 迷惑もかけたけど。


 それでも、見てほしい。


 だから。


 演じる。


 いつも通り。

 いや、いつもよりちゃんと。


 厨二病。


 この身。

 この肉体。

 傷と共に在る存在。


 その“設定”の中で、

 ちゃんとしたことを言う。


 それなら。


 逃げじゃない。


 わたしは包帯を軽く引き直した。


 胸元。

 首元。

 血の滲み。


 目立つけど、隠さない。


 髪に手を伸ばす。


 灰色の地毛。

 毛先の紅。


 乱れていた部分を、指で整える。

 軽く撫でて、位置を決める。


 ……よし。


 片目だけ露出した包帯も、ずれていない。


 これでいい。


 端末を手に取る。


 配信アプリ。

 設定画面。


 タイトル入力欄を見て、少しだけ悩む。


 ……謝るんだし。


 変に飾らなくていい。


 指を動かす。


 「謝罪配信」


 ……ひどいタイトル。


 でも、正直だ。


 音声チェック。

 映像チェック。


 画面に映る自分は、相変わらず包帯だらけで、

 どう見ても怪しい。


 でも。


 今さら、いい。


 深呼吸を一つ。


 心臓が、うるさい。


 戦闘より、緊張する。


 開始ボタンの上で、指が止まる。


 逃げたくなる。


 でも。


 みんなを傷つけたまま、黙るのは違う。


 寂しいからって、壊すのも違う。


「……」


 包帯の奥で、唇を噛む。


 キャラは、崩さない。


 崩さないつもり。


 できてるかは……知らない。


 でも。


 言葉は、ちゃんとする。


 それだけは、決めた。


 指に、力を入れる。


 タップ音。


 画面が切り替わる。


 配信開始。


 赤いランプが、灯った。


 ……始まってしまった。


 わたしは、端末を見つめたまま、

 一瞬だけ固まる。


 そして。


 演じるように、息を吸った。


 この身は。


 ――話す。




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