第10話 たまらない
……落ち着けおちつけおちつけ…
無理だ。
心臓が、まだうるさい。
人の往来から外れたところに腰を下ろして、わたしは深呼吸を繰り返していた。
見られた。
知れた。
覚えられた。
配信。
コメント。
ざわめき。
有名な参加者が動いて、運営が慌てて、周りが一気に色を変えた。
……えへぇ///
思い出すだけで、口元が緩む。
だって。
あんなに人がいて。
あんなに視線があって。
わたしは、そこに居た。
ちゃんと。
空気じゃなかった。
包帯越しに、胸の奥がじんわり熱くなる。
最高だ。
本当に。
……でも。
ふと、思い出す。
コメント。
参加者の声。
ざわめきの中の単語。
──包帯。
──あの包帯の人。
──入口で見たやつ。
名前は。
出てこない。
「……そっか」
小さく、呟く。
この格好だと。
この状態だと。
どうしても、わたしは“包帯”になる。
包帯の人。
包帯のやつ。
包帯が来た。
それはそれで、悪くない。
分かりやすいし。
覚えやすいし。
でも。
……ちょっとだけ。
ちょっとだけ、寂しい。
この身は、包帯だけじゃないのにな。
包帯の下で、ちゃんと考えて。
ちゃんと怖がって。
ちゃんと嬉しくなってる。
なのに。
他人の配信だと。
わたしは、映るだけだ。
話さない。
説明しない。
勝手に切り取られて、勝手に呼ばれる。
……あ。
そこで、気づく。
自分の声が、ない。
他人の画面の中では。
他人の言葉の中では。
わたしは、現象だ。
包帯の現象。
傷の現象。
よく分からない何か。
端末を、手に取る。
見慣れた表示。
配信アプリ。
開始ボタンが、そこにある。
雷貫。
端末。
環境は、揃っている。
……自分で、配信するか。
思った瞬間、ぞくりとした。
だめだ。
絶対、だめだ。
話したら。
見られたら。
被与が、どうなるか分からない。
今より、もっと酷くなるかもしれない。
運営に止められるかもしれない。
誰かを巻き込むかもしれない。
……やばい。
分かってる。
でも。
名前を、呼ばれたい。
包帯じゃなくて。
何かじゃなくて。
わたしとして。
端末の画面を見つめたまま、指を動かさずにいる。
押さない。
でも、消さない。
「……まぁ」
小さく、笑う。
「考えるだけなら、タダだよね」
今じゃない。
でも、いつか。
その可能性だけを胸にしまって、わたしは端末を伏せた。
心臓は、まだ早い。
でも。
次は、少し違う形で。
この身は、
見られるかもしれない。
そう思いながら、
わたしは包帯を整えた。
えへへ…
悪くない。
ぜ、全然、悪くない…///
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