第8話 せんとう

 雷貫。


 本来は、配信端末や記録端末に電気を共有するためのスキルだ。

 ダンジョン内では通信の安定化や、映像の欠損防止に使われる。


 戦闘に使えなくはないけれど、威力は低い。

 痺れる。

 動きが止まる。

 それだけ。


 致命傷には、ならない。


 ……でも。


 雷は、人が集まる。


 端末を使っている人。

 配信している人。

 雷貫を使っている人。


 全部、同じだ。


 なら。


 雷貫で、自分に“雷の痕跡”を作ればいい。


 わたしは、少しだけ躊躇ってから、自分の腕に向けて雷貫を起動した。


 びりっ。


「……っ」


 一瞬、身体が跳ねる。

 筋肉が言うことを聞かなくなる。


 痛い。

 でも――


 痺れが、残る。


 じんわりと、内側に広がる感覚。


 ……これ。


 ちょっと、気持ちいい。


 だめだ。

 考える前に、裂脈ノ傷に意識を向ける。


 雷の痕跡が、脈として広がる。


 一本じゃない。

 何本も。


 密だ。


 人が多い。


 行き先は選べない。

 でも、分かる。


 ここは――


 人が集まる場所だ。


 意識を預けた瞬間、視界が引き延ばされる。

 雷が走るみたいに、感覚が跳ぶ。


 次の瞬間。


 光。

 音。

 声。


「――え?」


「なに今の!」


 わたしは、人の輪の中心に立っていた。


 配信端末。

 雷貫の発光。

 複数の視線。


 ……多い。


 ものすごく、多い。


 一斉に、見られている。


 包帯。

 血。

 片目。


 心臓が、跳ねる。


 だめ。

 顔が。


 とろけそうになる。


 必死に、仮面を貼り付ける。


 でも。


 注目。

 視線。

 期待。


 胸の奥が、熱くなる。


 ――この身は。


 被与ノ傷が、応える。


 空気が、ざわりと歪んだ。


 床に走る無数の裂傷。

 壁が、悲鳴みたいな音を立てる。


「……っ!?」


「やば、何これ!」


 人の身体にも、同じように傷が浮かぶ。


 切られるわけじゃない。

 でも、全身に、傷。


 耐えきれず、倒れる人。

 悲鳴。

 混乱。


 ……あ。


 やりすぎた。


 そう思ったのに。


 見られている。


 その事実が、頭を焼く。


 被与ノ傷が、さらに広がる。


 地形が、崩れる。


「下がれ!」


 低く、通る声。


 人波が割れた。


 前に出てきたのは、一人の参加者だった。


 落ち着いた動き。

 迷いのない視線。


 雷貫が、彼の周囲に集まっている。


 ……あ。


 この人。


 有名な。


 大手参加者。


 配信越しに、見たことがある。


 その人が、わたしを見る。


 恐怖じゃない。

 興奮でもない。


 判断の目。


「……止める」


 短く、そう言った。


 周囲の惨状を見て、

 わたしを見て。


「これ以上は、させない」


 被与ノ傷が、ざわりと疼く。


 怖い。

 でも。


 ちゃんと、向き合われている。


 初めて。


 胸の奥が、ぞくりと震えた。


 ――この身は。


 戦闘が、始まる。




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