第7話 さいど!

 拠点までは、歩いて戻った。


 足は重い。

 視界も、ところどころ滲む。

 それでも、止まらなかった。


 拠点の照明が見えた瞬間、ざわめきが走る。


「……ちょっと、待ってください!」


 運営の声。

 慌てた足音。


 わたしが立ち止まると、数人が一斉に集まってきた。

 スーツ、腕章、端末。

 全員、わたしの全身を見ている。


 包帯。

 血。

 滲んだ赤。


「……救護班、すぐ!」


「いや、待て、この状態……」


 言葉が噛み合っていない。


 運営の一人が、意を決したように口を開いた。


「あなた、このまま続行するのは──」


 わたしは、首を振った。


 小さく。

 でも、はっきりと。


「……構いません。」


 視線が集まる。


 包帯の下で、息を吸う。


「この身体は」


 一拍。


「……傷と、共にあるので」


 それだけ言った。


 運営は、言葉を失ったまま、端末を見下ろす。

 救護班が近づいてくる。


 その瞬間だった。


 力が、抜けた。


 足元が揺れて、

 世界が、すとんと落ちる。


 ――あ。


 ここまで、か。


 そう思ったところで、意識が途切れた。




 ◇


 次に目を開けたとき、天井は白かった。


 医務室。


 機械音。

 消毒の匂い。


 わたしは、ゆっくり瞬きをする。


「……起きましたね」


 医療スタッフが、すぐ横にいた。

 表情は、困っている。


「包帯ですが」


 淡々とした声。


「剥がそうとしました」

「ですが、動きませんでした」


 それだけ。


 考えてから思った。


 血糊がバレたら恥ずかしい…


 見られなくてよかった…


 わたしは、静かに頷いた。


「……もし中身を見ていたら、」


 ──死んでいたことでしょう。


「命が、守られた」


 小さく、満足そうに言う。


 ……えへ///


 完全に、でまかせだ。


 冷めた視線が痛気持ちいい

 

 医療スタッフは、それ以上何も言わず、記録端末を操作し始めた。

 否定も、肯定も、しない。


 それが、余計にそれっぽい。


 わたしは、ベッドから降りた。

 足は、動く。


 痛みは、ない。

 傷は、ある。


 それでいい。


 医務室の出口に向かいながら、心臓が少し早くなる。


 ……また、行ける。


 また、見られる。

 また、起きる。


 わたしは、包帯を押さえて、歩き出した。


 ──この身は。


 傷と共に、征く。


 再び、ダンジョンへ。




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