第6話 堂々巡り
松島が、45歳まで勤めてきた会社を、まるで、青天の霹靂としてリストラされることになったが、なんとか新しい会社で、しかも、
「今までの経験を生かした職に就くことができた」
というのは、ありがたいことだった。
「新たな気持ちいで、心機一転」
ということで、
「気分は新入社員」
ということであったが、実際には、
「デザインの経験とスキルを活かしての再就職」
ということになったので、会社内では、かなり専門的な会話が飛び交っているので、その会話に、積極的に参加していた。
本来であれば、
「まだまだ新入社員」
ということで、遠慮すべきところがあるのだろうが、実際に平均年齢から考えると、45歳という、松島の年齢は、
「結構高いところにある」
といってもいいだろう。
もちろん、
「途中入社ということで、自分よりも若い連中が、先輩ということになるのだから、お互いにやりにくい」
というのは当たり前のことである。
ただ、
「幸か不幸か」
松島は、年齢よりも若く見られることが多かった。
へたをすれば、
「45歳という年齢なのに、見る人によっては、30代に見える」
という人も結構いて、その中でも、
「完全にお世辞だろう」
とは思いながら、
「30代前半でも行けますよ」
という人もいるくらいだ。
確かに、自分でも、
「30代くらいであれば、鏡を見てそう思うかも知れないな」
と感じていた。
しかし、
「30代前半」
というと、、
「おべんちゃらにしか感じない」
と思っていたが、
「そうでもないかも?」
と感じたのは、会社で、
「桐生和子」
と意識しだしたからかも知れない。
というのは、最初の頃は、
「まるで娘くらいの年だ」
ということで、いくら、以前好きだった女性の面影を想像させるとは言っても、
「意識してはいけない」
と、自分を制するくらいになっていた。
しかし、
「意識しないようにする」
という意識が、逆に、
「彼女からの視線」
というものを浴びるという感覚になってきたのは、どういうことであろうか?
というのは、
「他の人よりも、視線を感じる機会が多い」
ということであったり、
「視線が熱い」
と感じるのだが、その二つは結局、
「同じことなのかも知れない」
と思うのだった。
というのは、
「視線の数が多い」
ということで、一度浴びた視線の熱さが冷え切らないうちに、さらに浴びるということになるわけで、当然、身体には、
「彼女からの視線」
というものが強く浴びせられると感じるということだからである。
だから、その熱さが、幅と高さを作ることで、次第に、視線というものの大きさが、銃口になってくるといってもいいだろう。
そもそも、
「人から受ける視線」
というものは、その圧力によって、大きなや熱さが左右されるということになる。
「圧力というものは、感じる人の影響もかなり強い」
ということで、
「受け取り方」
が問題になるというものだ。
へたに勘違いをすると、その影響は、二人の関係にも結び付いてきて、
「そこで、すれ違う」
ということであればまだいいが、悪い方に勘違いとして、
「本来であれば、すれ違うはずのものが間違って結びついてしまうということになると、結果別れなければいけなくなった時、相当なエネルギーの消耗を覚悟しないといけない」
ということになるだろう。
松島は、それを、元女房のさつきとも、かつて、
「愛し合っていた」
と思い込んでいた。吉谷洋子とでも経験しているのであった。
だから、桐生和子に対しても。警戒はしながらも、
「こんな思いをまたするというのは、それだけ自分がまだ若いということになるのかな?」
ということで、見た目の若さだけではないものが、自分にも残っているということで、
「まだまだ俺も老け込む都市ではない」
と考えた。
ちょうど、
「転職」
という新たな転機ということになるのだ。
そう思えば、
「桐生和子から浴びせられる視線」
というのは、
「自分をまだ若いと感じさせる力になっている」
ということで、
「仕事面に関しても、ありがたいことだ」
といえるのであった。
もちろん、女の子の中には、
「年上に憧れる」
という人もいるだろうし、中には、
「ファザコン」
のような、
「年上に対して、父親の背中を見ている」
という感覚の人もいるだろう。
松島も、自分ではまだまだ若いと思っていながら、若い女の子から、
「父親のような存在」
と思われるというのは、どこかくすぐったい気持ちがして、男女関係というよりも、
「心地よさ」
ということで、何か、
「気持ちの余裕のようなものがもてる」
と感じさせてくれるのだった。
「若い男性が、中年女性に憧れる」
というのも、普通にあるのだろうが、松島が若かった頃は、
「年上にはほとんど興味はなかった」
といってもいい。
もちろん、2,3歳上というくらいであれば、
「ほぼ誤差の範囲」
ということで、気にするほとではなかったといってもいいだろう。
「その証拠に、今までで一番好きだった」
と思っている、
「吉谷洋子」
という女性は、実際には、
「2歳年上」
ということであった。
ただ、その清楚さと、肌のきめ細かさというところから、とても年上という意識はなく、23歳だったが、
「学生服が似合う」
といってもいいくらいだったのだ。
考えてみれば、
「今までに好きになった人」
というのは何人もいたが、この年になるまで、
「一目惚れというと、吉谷洋子だけだったな」
と感じるのだ。
それは、
「一番好きだという意識があるから、一目惚れだった」
と思うのか、それとも、
「一目惚れだったという事実があることから、一番好きだった女性だ」
という意識があるのか、自分でも分からない。
しかし、
「一番好きだった」
という感情と、
「一目惚れだった」
ということは、
「切っても切り離せないことだ」
と思うのだが、それが、
「自分だけにいえることなのか?」
それとも、
「他の人も同じことが言えるのか?」
ということは、自分でもよく分かっていないのであった。
桐生和子という女性は、
「松島のことを意識している」
ということではあるのだが、必要以上に意識しているということでもなさそうだった。
「気が付けば、目が合っていた」
ということが多いということで、最初はそこまでの意識はなかったのだが、
「きっと彼女の意識しているだろう」
という感じから、
「徐々に意識が高まってきた」
と感じるのであった。
若い頃であれば、
「一気に燃え上がる感情」
というものがあった。
それが、
「最初に洋子に感じた一目惚れ」
というものだったはずである。
しかし、今回は、徐々にくすぶってきたといえることであるが、なぜか、
「昔味わった感覚と同じだ」
と感じたのだ。
それが、
「一目惚れ」
ということであったが、実際には、そうではなかった。
ということから、
「ああ、そうか、昔の洋子にイメージが似ていることから、そう思ったのかも知れないな」
と思ったのだ。
そう思うと、
「昔、洋子に対して一目惚れだったと思ったが、実際には、徐々に燃え上がってきたのかも知れないな」
とも感じた。
というのは、洋子と付き合い始めた時、かなりいろいろあったような気がするというのを思い出したからだった。
付き合い始める前から、
「付き合い始めてもいい」
と思った次の日に、
「やっぱりあなたとは難しいかも知れないわ」
と、相手に言われ、それこそ、想定外のことを言われたことで、
「なんでそんなことを言われなければならないのか?」
という、言われたことに対して、自分の狼狽が、想像以上なのは、
「相手が悪い」
と思ったことからであった。
それでも、必死に相手に食い下がるかのような態度は、余計に、
「俺は彼女をこんなにも愛している」
という感覚に結びつけることになる。
それが、
「相手の作戦ではないか?」
とまで考えたこともあったが、すぐにうち消した。
それは、完全に、自分が相手の術中に嵌っているからだった。
相手に対して、疑念を持ちながら、さらに術中に嵌るというのは、自分のプライドが許さないということになるからではないだろうか?
それを考えると、
「自分がいかに付き合っていけるか?」
ということがどういうことなのかが、結局は、
「本当に自分のことが分かっているのか?」
ということにつながっていくのであった。
これが、まだ若い頃で、
「一度も結婚したことがない」
ということであれば、もっとぐいぐい行ったかも知れない。
しかし、
「一度結婚に失敗し」
さらに、
「彼女のイメージと類似した女性とは、かつて破局を迎えた」
ということを考えれば、
「自分から積極的に」
とはいけないと思った。
もし、彼女が、年上に対して、
「その包容力」
であったり、
「余裕を見せる態度」
であったりすれば、積極的な態度は、
「逆効果だ」
といえるだろう。
それを考えると、
「年上というものにあこがれを持つ」
ということは、
「父親を見ている」
と考えると、自分の父親の背中を思い出してみたが、
「女の子から見る父親の心境が分からない」
ということである以上、父親を演出するという考えは、あくまでも無意識に出てくるというものであり、意識をしてしまうと。
「交わることのない平行線」
ということで、結局、
「彼女が求めるものがどこにあるのか?」
ということになり、結局は、
「五里霧中に入り込んでしまって、迷路の中を、さまようことになるのではないか?」
と感じるのであった。
そういえば、思い出してみれば、洋子という女性は、母子家庭ということであった。
松島が付き合い始める前に、洋子は、別の男性と付き合っていたという話を聞いたのが、
「最初に付き合い始める前の、彼女の毎日のように、豹変していた時」
だったのだ。
「なるほど、そういうことか?」
と思ったのは、
「自分と付き合うということに、積極的になれなかったのは、その直近で、付き合っていた人と別れることになったからだ」
ということであろう。
当然のごとく、
「また破局を迎えれば、今度こそ立ち直れないかも知れない」
という思いがよぎったのではないだろうか。
しかも、松島が配属されてきた時、その時のまわりの人がどこか、
「俺と、洋子を結び付けよう」
という空気があったということを思い出したからだった。
「洋子に対して、前の傷を忘れて、新しい恋に生きてもらおう」
ということで、松島をけしかけたとすれば、それだけ、まわりの人が、
「洋子のことを心配している」
ということになるわけで、
「まわりから慕われている」
ということになるだろう。
ただ、話を聞いてみると、
「結構別れ際というのは、会社を巻き込む形で、大事になった」
といってもいいくらいだったという。
それを考えての、
「新しい恋」
というのを、まわりも考えたのではないだろうか。
そうでなければ、
「洋子は、立ち直れない」
とでも考えたのかも知れない。
だから、洋子自身も、
「このまま、あなたと付き合っても大丈夫なのかしら?」
と考えるというもので、洋子とすれば、
「もう恋なんてできない」
ということになるであろう。
ただ、ここまでは、まわりの人が何とかできても、ここから先は、
「自分にしかできないこと」
ということで、必死になって、相手の話を聞いて、大丈夫だということを思わせるしかないと思っていたのだ。
そこで、次第に気持ちが二人の間で落ち着いてきて、いよいよ、
「二人は公然に付き合っている」
という、
「安定期」
というものに入ると、やっと、精神的にも落ち着いてきた。
しかし、一つ大きな問題としてあったのが、
「洋子には結婚願望が強かった」
ということであった。
彼女は、どちらかというと、古風な考え方を持っている人であり、
「お父さんが、洋子が小学生の時に亡くなった」
ということもあり、
「一人で育ててくれた母親に対しても、早く結婚して安心させてあげたい」
という気持ちに溢れていたという。
その思いが結局。
「結婚を焦る」
という気持ちにしたのであった。
実際に、前に付き合っている人とも、
「結婚寸前までいった」
ということであったが、詳しい理由に関しては分からなかったが、結局、
「結婚にはどこかで支障が起こった」
ということから、
「二人は破局」
ということになったのだという。
同じように、松島の方も、
「結婚を考えている」
ということで、親に紹介するまではよかったのだが、
「結婚」
という具体的な話には、松島の両親は踏み込もうとしないということであった。
親とすれば、
「相手の女性がどうの」
ということではなく、
「まだお前は会社に入ってすぐの新入社員ではないか、結婚などというのは、まだ早い」
ということであった。
ただ、どうしても、洋子の気持ちや、母親の思いを考えると、
「俺が親を説得しないといけない」
と考えたのだが、どうも、松島の親とすれば、
「息子が相手の方に洗脳されている」
と感じたようだ。
もっとも、松島の説得として、あくまでも相手の立場を優先して話をして、まるで、自分の考えが、相手の立場に左右されているかのように見えていたのではないかと後から思えば感じるのだ。
もちろん、その頃は若さに任せて突っ走っていたということで、そんな子供を親は、
「危険だ」
と感じたのだろう。
それは分からなくもない。
しかし、実際には、自分の親以外のまわりから見れば、
「あの松島という男は、自分の親も説得できない」
ということで、それまでのひいき目で見てくれていた人が、
「あいつは頼りない」
というレッテルを貼られてしまったことで、
「次第に二人の間に亀裂が入る」
ということになってきたのだ。
松島とすれば、
「最初に、彼女が自信がないといっていたものを、自分に任せろといって説得した」
ということを考えると、松島自身、
「あの時のような気持ちに戻りたくはない」
という思いと、
「洋子と結婚できなければ、一生後悔する」
ということになると感じたのだった。
松島がその時感じたのが、
「俺は四面楚歌になってしまった」
という感情である。
まわりと、自分の親に挟まれて、ジレンマの状態になってしまったということで、
「孤立無援だ」
と思っていた。
本来であれば、誰よりも信じてついてきてくれていないといけないはずの洋子が、
「精神が不安定になり、別れたい」
と言いだしたりすることで、またしても、付き合い始めを彷彿される状態になってくるのであった。
だからこそ、
「また同じところに戻ってきた」
ということから、
「同じところをグルグル回っているという、堂々巡りを繰り返してしまっているのではないか?」
と感じるのであった。
そう思ってしまうと、
「時間だけがいたずらに過ぎていく」
ということで、
「まだまだ人生は長い」
ということを、忘れてしまい、自分が目の前のことだけしか見ていないということを分かっていないのであった。
そもそも、そのことを懸念していたのが、自分の両親だったのではないか。
とはいえ、堂々巡りを繰り返すということで、
「目の前しか見えていない」
という松島に、その理屈が分かるわけはないということであった。
結局、そんな状態が、膠着してくることになると、今度は、まわりが相手にしないようになり、二人で話をしていても、すれ違いというものが激しくなってきた。
これは、
「後で感じることになる、夫婦間のすれ違い」
というものに近いのだろうが、
「夫婦間でも分からなかったことが、この時の自分に分かるはずもない」
ということで、結局は、
「我慢という意味での堪忍袋の緒がきれた彼女から、最後通牒を突き付けられることで、いやがうえにも別れる」
ということになったのだ。
それが、
「彼女に対しての見合いの話」
ということであり、実際に、
「見合いしてから、数か月で、婚約する」
ということになり、彼女は会社を辞めていくということになったのだ。
松島とすれば、
「本当に身を切られるような思いであったが、結果としては、これが一番良かったのではないか?」
とも考えられたのだ。
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