カリゴ

水辺に浮かぶ、遊郭のような屋敷。

三日月と、屋敷が水面に反射し、鴨が飛ぶ。

その屋敷、鬼釈迦邸。

そして、その中心部、

燕亭にて。

 

「燕様。

私の娘が、!

気が狂ってしまったのです、!

どうか、どうか、

お助け下さい」

 

そう咽び泣きながら、縋り付く女。


「もちろん。

私の信者の子なら、信者同然だ。

その子をここに連れてきなさい。」


 そう静かに言う。

 

「ありがとうございます」


 そういい少し経つと、

高校生くらいの女の子を連れてき、

 

「燕様。

この子を、どうか、どうかぁ」

 

と泣きすがる。

 

「お母さん!

私は、普通だよ!

能楽燕、!

お母さんを、元に戻して、!

あの優しかった、

 

いっつも一緒に遊んで、

買い物に行って、!

 

前のお母さんに戻して、!」

 

といがり、叫び、訴える娘。

 

「あんた、!

燕様になんてことぉ、!

申し訳御座いません、!」

 

 そういい深く土下座する女。

その女に優しく、


「大丈夫だよ。

きっと、 

他の世界に晒されてしまったんだよ。

元に戻るためには、

清潔な鬼釈迦の使徒に仕えさせれば

元に戻るさ。」

 

そう言った教祖。

能楽燕は、

 

「そうだ、

元に戻るまで私達の元で預かろうか?」

 

と美しい笑みを魅せた。

すると、パッと顔を明るくした女。

 

「いいのですか?

娘を、娘をどうか、どうか、

よろしくお願いします」

 

そう言い、

涙を流しながら畳に額をつけ

再び深い土下座をした。

 

「お母さん!

私は、

私は普通だよ?!

お母さん!」

 

そう叫びながら問いかける娘を尻目に女は、


「ありがとうございます。」


 とだけ言い、部屋を後にした。

 

「お母さん。」

 

そう言った娘のか細い声は、


男女のうるさい声、 

色っけある女の声、

酒と煙草の臭さに

 

掻き消された。

 

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