第8話:リアの求婚者

 聖アルテミス女学院の放課後。夕陽が教室の隅々に、血のような赤黒い影を落としていた。リア・ド・ラ・ヴァリエールの自室。そこは常に、冷徹な秩序と、一塵の曇りもない美学によって守られた聖域であるはずだった。だが今、その静寂は、リア自身が放つ、目に見えるほどの「殺気」によって無惨に切り裂かれていた。


「……汚らわしい」


 リアの低い、地を這うような声が響く。彼女の指先には、ヴァリエール公爵家の家紋が刻まれた封蝋が引き千切られ、無惨に丸められた一通の書簡が握られていた。それは、王都でも有数の権勢を誇る侯爵家の嫡男から届けられた、執拗極まりない「求婚書」であった。


 リアの父である公爵は、家門の更なる繁栄と、王家への忠誠の証として、この縁談を「一度は前向きに検討せよ」と、暗黙の、だが絶対的な命令を添えて送り込んできたのだ。


「男。……あの、野蛮で、不潔で、獣のような熱を撒き散らす生き物」


 リアの脳裏に、かつて社交界の夜会で、下卑た欲望を隠しもせずに自分を見つめていた男たちの視線が蘇る。彼らの脂ぎった掌、酒の臭いが混じった重苦しい吐息。そして何より、自分の中に、あの太く醜い『異物』が侵入し、内側を噛み回し、己の聖域を汚泥で塗り潰していく光景を想像しただけで、リアの喉の奥からは酸っぱい液がせり上がってきた。


「……っ、う、ぅ……っ」


 リアは口元を押さえ、激しい吐き気に身をよじった。彼女は、いまだ男性を知らない。その純潔は、単なる道徳心ではなく、男性という存在そのものに対する『生理的な嫌悪』によって守られてきた鉄壁の要塞だった。その要塞が、家門という名の圧力によって、外側から崩されようとしている。


(……嫌。……絶対に、嫌。……あの不潔なモノを、私の中に受け入れるくらいなら……。……いっそ、この身体を焼き尽くしてしまった方がマシだわ)


 リアの碧眼が、狂気的な光を帯びて歪む。その時、部屋の扉がノックされ、三人の影が近づいてくる気配がした。ノア、ルナ、ミナ。四人でハナを共有し、共に愉悦を分かち合ってきた「共犯者」たちだ。


「リアちゃん? なんだか、すごい殺気が漏れているけれど……どうかしたのかしら?」


 ノアの、いつもの甘い、だが全てを見透かすような声が扉越しに響く。


「……リア様。心拍数と血圧の異常な上昇を感知しました。……検分を」


 ミナの事務的な声が続く。


「リア! ハナと遊ぶ時間でしょ? 早く開けなさいよ!」


 ルナの我慢のならない叫び。


 だが、リアの返答は、彼女たちの予想を裏切る、絶望的な拒絶だった。


「――来るな」


 リアの声は、絶対零度の氷点下を突き抜けていた。


「……今夜は、誰も、一歩たりともこの部屋に足を踏み入れるな。……ノア、ルナ、ミナ。……貴様らもだ。……今夜のハナは、私が独りで、私のやり方で『調教』する。……異論は認めない」


「あら……。それは少し、独り占めが過ぎるのではないかしら?」


 ノアの声から微かに笑みが消える。


「……構わん。……今夜だけは、私の『怒り』を邪魔させるな。……さもなくば、貴様らもろとも、ここで斬り伏せるわよ」


 リアが放ったのは、単なるわがままではない。それは、追い詰められた獣が、自らの聖域を守るために牙を剥く、本物の「狂乱」の宣言だった。扉の向こうで、三人が息を呑む気配がする。リアの異様な気配に、さしもの彼女たちも、今夜は引くべきだと判断したのだろう。


「……分かったわ。……でも、リアちゃん。……ハナちゃんを、あまり『壊しすぎない』ようにね?」


 ノアの不穏な一言を最後に、三人の気配が回廊の奥へと消えていった。



 ◆



 扉の外で、ハナ・シュタインベルグは、自身の心臓が肋骨を突き破るのではないかというほどの激動に震えていた。彼女の腕は、今やリアの細いが鋼のように強い指先によって、皮膚が白くなるほどに締め上げられている。


「……り、りあ……さま……?」


 ハナが見上げたリアの顔には、かつての「誇り高き騎士」の面影は微塵もなかった。そこにいたのは、自身の高潔さを汚されることへの恐怖と、そのストレスをすべて「弱者」へぶつけようとする、暴君としての素顔だった。


「黙れ、特待生。……貴様は、私のために存在する『器』だろう?」


 リアは、ハナを部屋の中へと乱暴に引きずり込むと、重厚なマホガニーの扉を閉め、二重の錠をかけた。


 カチリ、カチリ。その無機質な音は、ハナにとって、この世界からの完全な「隔離」と、これから始まる「無慈悲な蹂躙」を告げる鐘の音だった。


 部屋の中には、夕陽の残照だけが入り込み、リアの影がハナを覆うように巨大に伸びている。


「……男たちが、私に触れようとしている。……汚らわしい指を、私に向けようとしている。……想像するだけで、全身の血液が沸騰して、貴様を切り刻んでしまいたくなるくらい」


 リアは、自身の机の上に置かれた一振りの「乗馬鞭」を手に取った。それは、昨夜までの「共有」の遊びでは一度も使われなかった、本物の加虐の道具。


「ひ……っ、あ、あぁ……っ! リア様……! お願いです、やめて……! 怖い……怖いです……っ!」


 ハナは反射的に後退りし、扉に背中を打ち付けた。涙が溢れ、全身が小刻みに震える。これまでの共有生活で、ハナは「痛みを伴う快楽」には慣らされてきた。だが、今目の前にいるリアが発しているのは、そんな「遊び」ではない。自分という存在を、男への嫌悪感を払拭するための「供物」として、徹底的に、再起不能なまでに破壊しようとする、本物の加虐心だった。


「逃げるなと言ったはずよ。……ハナ。……貴様が、男たちの身代わりになるのよ。……私のこの、やり場のない怒りと、吐き気を……貴様の肉体にすべて流し込んで、私が『清らか』であると、再定義させてちょうだい」


 リアが一歩、近づく。鞭の先端が、床を叩いて不気味な音を立てる。


(……あ、ああ……っ! 解釈違い……なんて、もう言えない……っ! リア様が、自分の『純潔』を守るために、私を獣みたいに犯そうとしてる……っ! 怖い、死ぬほど怖いのに……リア様のその、狂った瞳に射抜かれるだけで……腰の奥が、勝手に、熱くなって……っ!)


 ハナは、その場に膝から崩れ落ちた。絶望的な恐怖。そして、その恐怖を糧にして燃え上がる、最悪の背徳感。


 リアの私室という閉ざされた聖域で、今、一人の少女の自我を粉砕するための、最も凄惨で甘美な「独占」の幕が上がった。



 ◆



 二重に施錠された密室。夕闇が部屋を支配し、ただ一筋、窓から差し込む月光のような冷たい光が、リアの握りしめる乗馬鞭の黒いしなりを強調していた。


「……あ、あ……りあ、さま……っ、おねがい……ゆるして……っ」


 ハナは床に這いつくばり、リアの靴先に縋り付こうとした。だが、リアはそのハナの肩を、乗馬用のブーツを履いた足で無慈悲に踏みつけ、床へと押し潰した。


「許して? ……何をかしら。私は今、最高に気分が悪いのよ、ハナ。……あの不潔な男たちが、私のこの内側を覗き込み、土足で踏み荒らそうとしている。……その汚泥を、私は今すぐ、別の『熱』で上書きしなければならないの」


 ヒュン、という空気を切り裂く鋭い音。直後、パチンッという、肉が爆ぜるような凄惨な衝撃がハナの背中を走った。


「あ、がぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」


 ハナの叫びが、防音の施された厚い壁に跳ね返る。制服の薄い生地の上から、リアの鞭が正確に、そして容赦なくハナの肌を捉えた。焼けるような、あるいは骨まで達するような激痛。ハナの身体は海老のように跳ね、涙と鼻水が床に散った。


「嫌、やめて……っ、痛い……痛いよぉ……っ!」


「いいえ、やめないわ。……痛いでしょう? でも、その痛みこそが、今の私とあなたの絆なのよ。……男たちの不潔な愛撫よりも、私のこの『純粋な暴力』の方が、ずっと清らかだと思わない……?」


 リアは、冷徹な仮面をかなぐり捨て、恍惚とした狂気の笑みを浮かべていた。二度、三度。鞭が振るわれるたびに、ハナの制服は裂け、その下から赤紫色の生々しいミミズ腫れが浮き上がる。ハナは必死に逃げようと、四つん這いで這いずるが、リアはその豊かな黒髪を容赦なく掴み上げ、無理やり自分の方へと引き戻した。


「……逃がさない。……貴様は今夜、私の『吐き気』をすべて受け止めるゴミ箱なのよ」


 リアはハナの髪を掴んだまま、彼女を強引にソファへと放り投げた。ハナの衣服はもはやボロ布と化し、その白い柔肌には、リアの「怒り」の証である無数の紅い線が刻まれている。


 リアは、自身のブラウスのボタンを二つ、三つと外した。その隙間から見える鎖骨は、怒りと興奮で激しく上下している。彼女は、怯えきって震えるハナの脚を、左右に力任せに割り開いた。


「……男という生き物は、ここを、こんなふうに汚そうとするのね。……醜い欲望を、力任せに突き立てて……っ。……ああ、想像しただけで、指先まで凍りつきそうに不快だわ……っ!」


 リアの指が、ハナの最も秘められた場所へと、一切の躊躇なく突き立てられた。


「ひ、あ、あぁぁぁぁっ!? ……や、やだ、そこ……っ、だめぇ……っ!!」


 ハナは絶叫し、腰を浮かせて逃げようとした。だが、リアの指は、洗練された愛撫のテクニックなど微塵も持ち合わせていなかった。そこにあるのは、未経験ゆえの加減のなさと、男性への嫌悪をハナへの「侵食」で払拭しようとする、剥き出しの加虐心だけだった。


「……っ、ぐ……ハナ……っ、お前……っ、どうしてこんなに、……熱いのよ……っ!」


 リアの指が、ハナの奥底を執拗に掻き回し、肉壁を抉り取るように激しく動く。  リア自身、自分の指が何に触れ、何を感じているのかすら分かっていないのかもしれない。ただ、自分の指先から伝わってくる、ハナの「命の震え」だけが、彼女を襲う男性嫌悪という毒の解毒剤になっていた。


「あ、ぅ、ぁ……っ、りあ……さま……っ、こわれちゃう……っ、そこ、だめ、おかしく……っ」


「壊れればいいわ! 私と一緒に、めちゃくちゃに壊れてしまいなさい!! ……私が男に汚される前に、私自身の手で、私の『玩具』を徹底的に汚し抜いてやる……っ!!」


 リアは、ハナの反応を無視し、さらに深く、さらに暴力的に指を突き入れた。ハナの身体は、鞭の痛みと、未経験ゆえの荒々しい指の刺激という、二重の地獄に投げ込まれていた。


 嫌だ。怖い。やめてほしい。心はそう叫び、必死に抵抗の声を上げているのに、ハナの身体は、リアの放つ圧倒的な「情念」の熱に当てられ、自身の意志とは無関係に、蜜を溢れさせ、リアの指を締め付けてしまう。


(……あ、ああああ……っ!! リア様の、……リア様の指が……っ。……めちゃくちゃに、かき回されて……っ。……頭の中が、真っ白に……っ!!)


 ハナの脳内では、例によってオタクとしての理性が、最期の叫びを上げていた。


(これだ……。これこそが、……『公式』では描けなかった、リア様の真の闇。男性嫌悪という絶望の果てに、……たった一人のモブ(私)を、獣みたいに犯すことでしか、自分の純潔を証明できない、……悲しき公爵令嬢の……ドSな狂乱……っ! ……尊、い……。……死ぬほど怖いけど、……尊すぎて、……もう、どうにでもなっちゃいたい……っ!!)



 ◆



 リアの攻めは、次第に秩序を失い、純粋な「暴力的なまでの情欲」へと変質していった。彼女はハナの首筋に何度も、吸い付くというよりは「噛みちぎる」ような勢いでキスマークを刻み、ハナの胸元を自身の掌で握りつぶさんばかりに加圧する。


「……ハナ……っ、ハナ……っ!! ……見て……私の指が、お前の不浄な部分で、こんなに……っ!!」


 リアの声が、興奮で掠れていく。彼女はハナの耳元に唇を寄せ、自身の「初めて」となる、剥き出しの独占欲を吐き出した。


「……お前だけよ。……お前だけは、私を裏切らない。……男の汚れなんて、私たちが、……こうして汚し合っていれば、……何も怖くないわ……っ」


 リアの指が、一点、ハナが最も恐れていた——そして最も待ち望んでいた——場所を、鋭く、深く突いた。


「ひ、あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」


 ハナの背中が、見たこともない角度で反り上がった。視界が、火花の散るような白濁に染まる。リアの鞭の痛み。リアの指の蹂躙。リアの吐息の熱。それらすべてが、ひとつの巨大な「絶頂」という名の津波となって、ハナの細い理性を根こそぎ押し流していった。


 ハナの脳内では、もはや悦楽すら意味をなさないほどに感覚が飽和していた。彼女は、リアの首に必死に縋り付き、自分を壊し続ける主君の肩に、自身の涙と唾液を塗り付けた。


「あ、は……っ、あぁぁぁ……っ、りあ……さま……だい、すき……っ、もっと、もっと……っ!!」


 全力で拒絶していたはずの少女は、今や、リアの暴力的な愛なしには一秒も耐えられない、完璧な「廃人」へと作り替えられていた。リアは、ハナの身体が絶頂で激しく震えるのを、この上なく満足げな、そしてこの上なく狂おしい瞳で見つめていた。


「……ええ。……それでいいわ、ハナ。……壊れて、私の中に溶けてしまいなさい。……今夜、私はお前を、一千万回だって殺してあげるわ」


 夜の帳はまだ下りたばかり。密室の中で、令嬢の「狂乱」と、特待生の「堕落」は、終わりのない螺旋を描きながら、さらに深い闇へと堕ちていった。



 ◆



 夜は、残酷なほどに長く、そして濃密だった。リアの私室に響き渡っていたハナの絶叫は、やがて掠れた喘ぎになり、最後には、命の灯火が消えかかるような微かな嗚咽へと変わっていった。


 リアは、文字通り「獣」だった。男性に触れられることへの恐怖、家門から押し付けられる不浄な未来。それらから逃れる唯一の手段として、彼女はハナを徹底的に、再起不能なまでに「汚し抜く」ことを選んだ。


 ハナの背中に刻まれた無数の鞭の跡は、リアの怒りの火照りを宿して赤黒く腫れ上がり、彼女が動くたびに鋭い痛みを脳に送る。だが、その痛みさえも、リアが与え続ける「未経験ゆえの乱暴な絶頂」の前では、快楽を増幅させるためのスパイスでしかなかった。


「……はぁ、……はぁ、……ハナ……っ、……まだよ、……まだ終わらせない……っ」


 リアの銀髪は乱れ、頬は上気し、高潔な令嬢の面影はどこにもない。彼女は、ぐったりと横たわるハナの身体の上に覆い被さり、その首筋に顔を埋めた。ハナの肌から立ち上る、汗と涙、そして石鹸の香りが混ざり合った「自分だけの獲物」の匂い。それを肺いっぱいに吸い込むことで、リアは辛うじて、自身の中に巣食う「男」への嫌悪感を抑え込んでいた。


「……私の、……私のハナ……っ。……お前の中を、……今、私だけが、……支配している……。……そうでしょう……?」


「あ、ぅ……っ、りあ、……さま……。……はい……。……もう、……なにも、……わからない、です……っ」


 ハナの瞳は完全に虚空を彷徨っていた。一晩中、リアの「代理の去勢」の対象として犯され続けた彼女の精神は、もはや正常な思考を放棄していた。


 嫌だ。怖い。帰りたい。そんな当たり前の拒絶反応は、リアの指が奥底を掻き回すたびに、リアの鞭が肌を打つたびに、強制的に「もっと、壊して」という悦楽へと変換されてしまった。


 リアは、ハナの震える指先を一本ずつ、自身の唇で食むようにして愛でた。その仕草は、先ほどまでの暴力的な蹂躙とは対照的な、壊れ物を扱うような繊細さに満ちていた。そのギャップこそが、ハナの心を最も深く、修復不能にまで叩き割る毒だった。


「……明日になれば、また、……あの不潔な男たちの影が、私を追ってくる。……でも、……ハナ。……お前のこの傷が、……お前のこの、……私を呼ぶ声がある限り、……私は、……私でいられるわ……っ」


 リアは、ハナの細い腰を再び強く抱き寄せた。そこには、昨夜までの「四人での共有」という余裕は微塵もなかった。リア・ド・ラ・ヴァリエールにとって、今やハナは、自分の精神を保つための唯一の「聖域」であり、誰にも渡したくない「薬」となっていた。



 ◆



 やがて、窓の外が白み始めた。紺碧の空が、ゆっくりと冷たい灰色に染まっていく。一晩中、狂ったようにハナを犯し続けていたリアも、ようやくその昂ぶりを鎮め、ハナの胸元に頭を預けて微かな寝息を立て始めた。


 だが、安息は訪れない。


 夜明けの冷気と共に、学園の正門へと続く一本道を、一台の豪華な馬車が近づいてくる音が響いた。それは、漆黒の塗装に金色の装飾が施された、重厚な侯爵家の紋章を戴く馬車だった。


 蹄の音が、静まり返った学園の森に不吉に響き渡る。馬車の中から現れたのは、リアの父である公爵が差し向けた、求婚者からの「使い」の騎士だった。彼の背後には、リアを王都へと、あるいは「男」の待つ場所へと連れ戻そうとする、逃れられない運命の鎖が見え隠れしていた。


 そして。リアの自室の扉のすぐ外では。


「……一晩中、……酷い声がしていたわね」


 ノアが、冷たい微笑を浮かべたまま、微動だにせず扉を見つめていた。彼女の隣には、ルナが苛立ちを隠せずに壁を蹴り、ミナが手帳に「リア様の異常行動」を詳細に記録しながら、琥珀色の瞳を昏く沈ませている。


「リアのやつ、……自分だけ、……あんなに……っ!!」


「……秩序が、乱れましたね。……リア様、あなたは『共有』の掟を、ご自身の私情で踏みにじった。……その代償は、高くつきますよ」


 三人のヒロインたちの視線が、扉を貫き、中のリアと、ボロボロにされたハナへと突き刺さる。リアが「外敵」への嫌悪から引き起こしたこの暴走は、四人の令嬢の間に、修復不能な亀裂と、ハナを巡るさらなる「地獄の競争」の火蓋を切って落とした。


 太陽が昇る。だが、それは希望の朝ではない。ハナ・シュタインベルグにとって、自分という存在が、四人の令嬢の愛憎と、外部からの汚濁という名の渦に完全に呑み込まれる、真の「終焉」の始まりだった。


(……あ、ああ……。……もう、……にげられない。……リア様の、……おねがい……。……あんな、……おとこたちのところに……いかないで……。……私が、……私が、……いくらでも、……身代わりになるから……っ!!)


 ハナは、眠るリアの背中に、自分を縛り付けていたサッシュの残骸を握りしめながら、絶望に満ちた、だが心からの忠誠を誓うように、その瞳を閉じた。


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