第11話 正しい実験は、悲鳴を必要としない(はずだった)
サイトは、
人が多い場所を選んだ。
駅前。
夕方のラッシュ。
理由は単純だ。
――データが取りやすい。
「能力者だけを隔離しても、意味がない」
イヤホン越しに、誰かに話す。
「一般人が混じった時、
どれくらい“事故”が起きるか」
淡々とした声。
「それを測らないと、
管理の基準が作れない」
隣にいるのは、
以前から接触していた能力者――
感情増幅型の女。
二十代。
目が、少し虚ろ。
「……人、倒れるよ?」
「死ななければいい」
即答。
「救急が来るまで、
七分以内に収束させる」
まるで、
避難訓練の計画みたいに。
「開始」
その一言で、
空気が、変わった。
女の能力が、解放される。
――怒り。
不安。
焦燥。
感情が、周囲に流れ込む。
「……え?」
最初に声を上げたのは、
サラリーマンだった。
「なんだ……急に……」
次々と、人が立ち止まる。
胸を押さえる。
叫ぶ。
誰かを睨む。
「邪魔だよ!!」
ぶつかっただけで、
殴り合いが始まる。
泣き出す子供。
怒鳴る大人。
駅前が、
一瞬で地獄になる。
「想定通り」
サイトは、
少し離れた場所から観察していた。
スマホの画面に、
心拍数と行動パターン。
「暴力に発展する確率、
約三十二パーセント」
メモを取る。
「思ったより、低いな」
その時。
「――助けて!」
女の声。
押し倒されたのか、
地面に倒れている。
誰も、気づかない。
感情の波に飲まれて、
他人の悲鳴が雑音になる。
サイトは、少しだけ眉をひそめた。
「……想定外」
だが、
止めない。
止める理由が、ない。
その頃。
『……始めたな』
アローンの声。
ユウキは、
胸騒ぎで立ち止まっていた。
駅の方向。
ざわつく空気。
遠くから、悲鳴。
「……これ」
『実験だ』
即答。
『彼は、正しさを証明したい』
ユウキは、
歯を噛みしめる。
「一般人、巻き込んで……?」
『だからこそ、価値があると考えている』
怒りが、込み上げる。
(正しいとか……
ふざけるな……!)
駅前。
倒れた人が、増えていく。
誰かが、ガラスを割った。
パニック。
その時。
「――やめろ」
低い声が、
空気を切った。
人の流れが、
一瞬だけ、止まる。
サイトが、顔を上げる。
「……来たか」
人混みの中。
ユウキが、立っていた。
いや――
半分、アローン。
「これが、お前の管理か」
言葉が、刺さる。
「……結果は出てる」
サイトは、静かに答える。
「被害は限定的」
「制御可能」
「成功だ」
ユウキの拳が、震える。
「倒れてる人間は、
数字じゃない」
サイトは、少しだけ首を傾げた。
「感情論だ」
「――でも」
ユウキは、一歩踏み出す。
「それを切り捨てた瞬間、
お前は――」
アローンの声が、
完全に重なる。
「俺と同じ側に来る」
一瞬。
サイトの目が、
揺れた。
ほんの一瞬だけ。
だが――
すぐに、戻る。
「……それでも、やる」
静かな宣言。
その背後で、
救急車のサイレンが鳴り始めた。
実験は、終了した。
被害者は出た。
死者はいない。
だから――
サイトの中では、成功。
だが。
ユウキの世界で、
何かが、はっきり壊れた。
(もう……
見てるだけは、無理だ)
アローンが、低く言う。
『次は、こちらが動く番だ』
夕焼けのない夜が、
始まった。
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