第10話 正しいことだけを言う人間が、一番信用できない
最初に気づいたのは、
視線だった。
帰り道。
夕方の住宅街。
誰かに見られている。
でも、敵意はない。
――観察。
『来たな』
アローンが、低く言う。
『集める側だ』
ユウキは、立ち止まった。
「……出てくるなら、今出て」
影が、電柱から剥がれる。
拍子抜けするほど、普通の少年。
制服。
穏やかな表情。
――サイト。
「こんばんは、ユウキ」
まるで、
前から友達だったみたいに。
「……名前、呼ばないで」
「じゃあ、なんて呼べばいい?」
サイトは、首を傾げる。
「“中心人物”?
それとも――」
視線が、ユウキの奥を刺す。
「アローン?」
空気が、張り詰めた。
『……やはり、分かっている』
アローンが、笑う。
「何の用」
ユウキは、声を低くした。
逃げなかった。
それだけで、手が震えている。
「簡単だよ」
サイトは、両手をポケットに入れたまま言う。
「君を、仲間に欲しい」
「……は?」
「正確には」
少し、訂正。
「君の中の“彼”を」
ユウキの胸が、嫌な音を立てる。
「断る」
即答だった。
サイトは、驚いた顔すらしない。
「理由は?」
「管理とか、整理とか……」
ユウキは、歯を食いしばる。
「そういう言葉、
いじめてた奴らと同じだ」
サイトは、少しだけ目を細めた。
「ああ……なるほど」
でも、否定しない。
「似てるよ」
はっきり言った。
「方法が違うだけで、本質は同じ」
「……っ」
「でもね」
サイトは、一歩近づく。
「彼らは“遊び”だった」
声が、冷える。
「僕は“必要”だからやってる」
『危険だ』
アローンが、囁く。
『彼は、自分を疑っていない』
ユウキは、拳を握った。
「必要って、誰にとってだよ」
「世界にとって」
即答。
「能力者が増えれば、
事故は起きる」
「隠せない」
「暴走する」
淡々と、事実だけ。
「だったら、
集めて、管理して、
最小限の被害で済ませる」
サイトは、ユウキを見る。
「合理的だろ?」
……正しい。
少なくとも、
理屈としては。
「でもさ」
ユウキは、声を震わせながら言った。
「その“被害”の中に、
俺みたいなのが含まれてるんだろ」
サイトは、少しだけ黙った。
「……含まれるね」
否定しない。
「それが、嫌?」
「当たり前だろ!」
ユウキの声が、割れた。
「俺は……
選びたくて、こうなったわけじゃない!」
沈黙。
夕焼けが、二人の影を伸ばす。
サイトは、静かに言った。
「選べないから、
選ばれるんだ」
「……何、それ」
「世界は、そういう風にできてる」
残酷なほど、穏やかに。
『面白い』
アローンが、笑う。
『彼は、嘘をついていない』
ユウキは、叫びたくなった。
(だから、嫌なんだよ……!)
「俺は――」
ユウキは、一歩踏み出す。
「駒にならない」
サイトは、微笑んだ。
「いいね」
本当に楽しそうに。
「その反応が欲しかった」
「……は?」
「従順な中心人物なんて、
つまらない」
サイトの目が、
初めて――歪む。
「抵抗して。
足掻いて」
「それでも、
盤上に残れるか試してみて」
その瞬間。
ユウキの視界が、反転した。
『交渉決裂だ』
アローンが、前に出る。
でも――
完全には出ない。
半分だけ。
「忠告だ、サイト」
ユウキの口から、
低い声が漏れる。
「君は、集める側に向いている」
一歩、近づく。
「だが――
私は、管理される気はない」
サイトの口角が、上がる。
「最高だ」
心の奥で、
サイコキラーが、笑った。
『殺すには、まだ早い』
二人は、すれ違う。
戦わなかった。
でも――
宣戦布告は、終わった。
ユウキは、背中で感じていた。
これから先、
逃げ道はない。
そして、アローンは、静かに告げる。
『ようやく、対等な敵だ』
夕焼けが、
夜に変わっていった。
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