第9話 ああ、やっぱり集めなきゃいけない

 ――面白い。

 サイトは、心の底からそう思っていた。


 放課後の屋上。

 フェンスにもたれ、街を見下ろす。


 人は、下に集まっている。

 動物と同じだ。


「……やっぱりな」

 ポケットからスマホを取り出す。

 画面には、いくつもの名前。


 能力者。

 人格者。

 “ズレた存在”。


 彼らは、必ず――

 引き寄せ合う。


 最初に気づいたのは、

 自分自身だった。


 サイトは、生まれつき

 人の感情に興味がなかった。


 悲しみも、喜びも、

 「へえ」で終わる。


 なのに。

 人が壊れる瞬間だけは、

 どうしようもなく、楽しい。


「……ああ」

 初めて誰かを“壊した”日のことを、

 サイトは覚えている。


 怒鳴ったわけでも、殴ったわけでもない。

 ただ、

 一番効く言葉を選んだだけ。


 相手は、勝手に崩れた。


 その時、確信した。

 ――これは、才能だ。


 そして、気づいた。

 自分の中にも、声がある。


 殺せ、とも

 壊せ、とも言わない。


『選べ』

 それだけ。


 冷たい声。

 感情のない、刃物みたいな声。


『無駄な駒は捨てろ』

『使える駒は、生かせ』

 それが、前世の人格。


 サイコキラー。


 殺すことに、意味を見出さない。

 ただ、効率だけを見る存在。


「……ほんと、相性いい」

 サイトは、笑った。


 集める理由?

 簡単だ。

 管理しないと、世界が壊れる。


 能力者は、野放しにすれば事故を起こす。

 感情で動く。


 自分が特別だと思い始める。


「ユウキも、その一人」


 思い出す。

 あの目。

 雷の夜。

 立ち上がった時の、

 “別の誰か”の目。


「……やっと見つけた」

 探していたピース。


 詐術。

 話術。

 人心掌握。


 集団を動かすには、

 ああいうのが必要だ。


「支配じゃない」

 サイトは、誰にともなく言う。


「整理だ」

 強いものを、正しい位置へ。


 弱いものを、壊れない場所へ。


 壊れるなら、

 壊れても問題ないように。


 それだけ。


「優しいだろ?」

 誰も答えない。


 スマホが震える。

 新しい情報。


 ――複数能力者、接触。

 ――中心人物、ユウキ。


「やっぱり」

 サイトは、静かに息を吐く。


「勝手に集まるんだ」

 人も、能力も、狂気も。


 だから――

 集める側が必要になる。


「次は、直接行くか」

 フェンスから体を離す。


 夕焼けの中、

 影が長く伸びる。


「逃げてもいい」

 サイトは、楽しそうに言った。


「でもね」

 目が、細くなる。


「――選ばない自由は、ない」

 心の奥で、

 サイコキラーが、静かに肯定した。


『正しい』

『駒は、盤上にあってこそ意味がある』

 サイトは、歩き出す。


 集めるために。


 世界を、壊さないために。


 ――あるいは、

 壊す権利を独占するために。

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