第8話 戦場は、日常の顔をして始まった
最初に異変が起きたのは、
放課後のコンビニだった。
ユウキは、何も考えずに立ち読みをしていた。
週刊誌。
どうでもいい芸能ゴシップ。
なのに――
ページが、同じ場所から進まない。
(……あれ?)
指は確かに動いている。
でも、内容が頭に入らない。
背後で、誰かが咳払いをした。
「そこ、俺も見たいんだけど」
振り返る。
見知らぬ男。
二十代前半くらい。
パーカーに、眠そうな目。
「……すみません」
雑誌を戻そうとした、その瞬間。
「――今、君は動かない」
男が、ぽつりと言った。
世界が、止まった。
正確には、
ユウキだけが止まった。
指が、宙で固まる。
息が、詰まる。
(な、に……)
『能力者』
アローンの声。
『時間停止系。
いや――“行動制限”か』
男が、ゆっくり近づいてくる。
「安心して。
十秒もすれば解ける」
ユウキの耳元で囁いた。
「その前に、確認したいだけだ」
男の目が、光る。
「君の中、
何人いる?」
次の瞬間。
「――動け」
別の声。
空気が、弾けた。
ユウキの体が、解放される。
「……っ!」
よろけたユウキを支えたのは、
制服姿の少女だった。
「大丈夫?」
肩までの黒髪。
表情が、薄い。
コンビニの床が、きしんだ。
「な……?」
パーカーの男が、目を見開く。
「制限が、上書きされた……?」
少女が、静かに言った。
「私の能力は、
優先順位の上書き」
淡々と。
「あなたの“止まれ”より、
私の“守れ”が上だった」
アローンが、低く息を吐く。
『来たな……』
「チッ」
パーカーの男が、舌打ちする。
「一人じゃないのかよ」
そう言った瞬間。
コンビニの自動ドアが、勝手に開いた。
「――全員、動くな」
今度は、店の奥。
レジに立っていた店員が、
いつの間にか銃を持っていた。
でも、銃口は――
誰にも向いていない。
天井だ。
「ここから先、
“敵意を持った行動”を取った人間は、
即座に気絶します」
事務的な声。
「安心してください。
死にはしません」
ユウキの頭が、追いつかない。
(なにこれ……
どういう状況……)
「三人目、か」
パーカーの男が、笑う。
「今日は当たり日だな」
「四人目」
少女が、即座に訂正した。
その瞬間。
「――五人、だよ」
軽い声。
天井の梁の上に、
いつの間にか少年が座っていた。
学生服。
ガムを噛んでいる。
「数えるなら、ちゃんと数えな」
少年は、にやっと笑う。
「俺は――
確率操作」
指を鳴らす。
次の瞬間。
銃が、暴発した。
天井に穴が空く。
「なっ……!」
店員が、バランスを崩す。
「ほら」
少年は言う。
「“たまたま”だろ?」
『……完全に戦場だ』
アローンが、ユウキに告げる。
『選べ』
(選ぶ……?)
『誰を信じるか、
誰を切るか』
少女が、ユウキを見る。
「あなた、
このままだと巻き込まれる」
パーカーの男が、笑う。
「もう巻き込まれてるって」
梁の上の少年が、手を振る。
「ねえねえ、
君が中心人物でしょ?」
全員の視線が、集まる。
逃げ場は、ない。
ユウキは、震える手で口を開いた。
「……俺は、戦わない」
一瞬、静寂。
「は?」
パーカーの男。
「正気?」
ユウキは、続けた。
「でも……
利用されるのも、嫌だ」
その瞬間。
アローンが、完全に前に出た。
「いい宣言だ」
低く、はっきりした声。
「なら、交渉しよう」
視線が、全員を貫く。
「ここは戦場じゃない」
言葉が、重なる。
「――見本市だ」
能力が、空気を歪めた。
「互いの手札を見せ合うだけで、
今日は終わりにしよう」
沈黙。
数秒後。
少年が、吹き出した。
「はは……
やっぱ面白いわ、君」
少女が、頷く。
「合理的」
パーカーの男が、肩をすくめる。
「……今日は、退く」
店員は、銃を下ろした。
コンビニは、元に戻った。
何事もなかったように。
でも、ユウキの世界は――
完全に変わっていた。
「……なあ」
ユウキが、心の中で聞く。
「俺、これからどうなる」
アローンは、少しだけ間を置いて答えた。
『中心だ』
『望まなくてもな』
外に出ると、夕焼けが滲んでいた。
日常は、続いている。
ただし――
裏側で、戦争が始まった。
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