第4話 僕の知らない僕が、何かを終わらせていた
ユウキは、朝起きた瞬間に違和感を覚えた。
体が、痛い。
全身が、鈍く重い。
特に腕と背中がひどい。
「……っ」
起き上がろうとして、うまくいかず、ベッドに沈み込む。
天井が、知らない模様に見えた。
いや、知っているはずだ。
毎日見ている、自分の部屋の天井なのに。
でも、なぜか――
昨日の記憶が、途中からない。
「……?」
頭の中を探っても、最後に思い出せるのは、
裏校舎に連れて行かれたところまでだった。
そこから先が、真っ白だ。
「ユウキ」
母の声がした。
「今日は学校、無理しなくていいからね」
「……え?」
返事をした自分の声が、少し遅れて聞こえた。
「先生から連絡があったの。しばらく様子を見るって」
「……なんで?」
母は、少しだけ困った顔をした。
「詳しくは言えないって。でも……」
言葉を探している。
「ユウキは、何も悪くないから」
その言い方が、胸に刺さった。
何かが起きた。
それだけは、分かる。
でも、その中心にいたはずの自分が、
肝心な部分をごっそり失くしている。
三日後。
ユウキは、学校に戻った。
校門をくぐった瞬間、空気が違った。
視線。
ひそひそ声。
でも、それは今までのものとは、質が違う。
前は、刺すような視線だった。
今は――避ける視線。
(……なんで?)
教室に入ると、さらに分からなくなった。
誰も、何も言ってこない。
ゴトウの席は、空いていた。
代わりに、担任が言った。
「ゴトウくんは、しばらくお休みです」
それだけ。
理由は説明されなかった。
席に着くと、前の席の女子が、ちらっと振り返った。
「……ユウキ」
「な、なに?」
「その……大丈夫?」
その一言で、頭が混乱する。
今まで、そんな言葉をかけられたことはなかった。
「……うん」
そう答えるしかなかった。
休み時間、誰も近づいてこない。
でも、完全に無視されているわけでもない。
腫れ物を見るような距離感。
それが、逆に怖かった。
昼休み、トイレに行こうとして、足が止まった。
裏校舎の方向。
理由もなく、心臓が早くなる。
行きたくない。
でも、何かを確かめなきゃいけない気がした。
使われていない三階のトイレ。
ドアを開けると、
かすかに、焦げた匂いが残っていた。
(……ここで、何かあった)
頭の奥が、ずきりと痛む。
映像が浮かびそうで、浮かばない。
代わりに――
知らない声が、耳の奥で笑った気がした。
『まだ早い』
心臓が跳ねる。
「……誰?」
もちろん、返事はない。
教室に戻る途中、サイトと目が合った。
いつも通りの笑顔。
クラスの王様の顔。
「おはよう、ユウキ」
「……おはよう」
その瞬間。
サイトの目の奥で、
何かが、わずかに揺れた。
嫌な予感。
理由のない確信。
この人は、知っている。
僕が知らない“昨日”を。
その日の帰り道。
ユウキは、ふと気づいた。
怖いはずなのに、
胸の奥に、妙な余裕がある。
逃げ場がないはずなのに、
どこかで――
「大丈夫だ」と思っている自分がいる。
それが、一番怖かった。
(……僕、何をしたんだろう)
答えは出ない。
でも、確実に言えることが一つだけあった。
もう、前と同じ場所には戻れない。
そして。
僕の中には――
僕じゃない何かが、確かにいる。
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