第4話 帰路、平行する視線

ベンチから立ち上がる。包みは畳んだまま、鞄に入れる。入れた位置は確認しない。公園を出るまでの道は、来たときと同じはずだが、桜の並びが少し違う。違うと思ったところで、修正はしない。足元の土は乾いていて、靴底に何も残らない。


駅までの道で、何人かとすれ違う。視線が合うことはないが、同じ高さで並走する瞬間がある。横断歩道の白線の上で、隣に立つ人の靴先が見える。信号を待つあいだ、その靴先と自分の靴先が、少しずつ位置を変える。前に出たり、後ろに下がったりするが、間隔は保たれる。


電車が来る。乗り込む。席は空いていない。私はドアの近くに立ち、窓に映る自分を見る。映りははっきりせず、外の景色と重なる。窓の向こうで、同じ車両に乗った人の顔が、私の位置と重なって見える。目線は合っていない。だが、同じ方向を向いている感じが続く。


揺れは行きと同じようで、少し違う。吊り革を持つ人の腕が、一定の角度で動く。その動きと、私の体の揺れが噛み合わない。噛み合わないまま、次の駅を過ぎる。車内放送が流れるが、内容は聞き取らない。聞き取らないことに問題はない。


途中の駅で、隣に立っていた人が降りる。代わりに別の人が立つ。視線の高さはほぼ同じだが、向きが少し違う。その違いが、車内の反射にずれを作る。私はそれを見ている。見ているだけで、調整はしない。


藤枝駅が近づく。車内の人の数が減り、空間が広がる。広がった分、揺れが目立つ。足元が前後に動くが、倒れるほどではない。改札を出る準備として、鞄の位置を変える。包みの感触が、指に触れる。半分しか残っていないことを思い出すが、確認はしない。


改札を抜け、北口へ向かう。タイルが再び現れる。数えない。視線は前に向けたまま、足元だけを意識する。すれ違う人の視線が、一定の高さで平行に流れる。交差することはない。そのまま、駅の外へ出る。

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