第5話 玄関の鍵と、残された半分の重み

家の最寄り駅で降りる。改札を出ると、人は少ない。夜ではないが、昼とも言い切れない時間帯の明るさが残っている。外に出ると、空気は朝よりも重い。重いかどうかを確かめる理由はないが、歩き出すとそう感じる。道はいつもの順番で続いている。順番を確認しなくても、足は勝手に進む。


住宅街の道は静かで、音は遠くにある。車が通る音、どこかで閉まるドアの音。どれもこちらに近づいてはこない。私は一定の速度で歩く。途中の角を曲がると、家の外壁の色が少し違って見える。前からこうだったかどうかは思い出さない。門の位置や表札は変わっていない。


玄関の前で立ち止まる。鍵を鞄から出す。指に触れた金属は冷たいが、長くは感じない。鍵穴に差し込み、回す。音は一度だけ鳴る。回転は途中で止まらず、最後まで行く。ドアを開け、靴を脱ぐ。揃えるかどうかは迷わず、揃えないまま中に入る。


部屋の中は静かで、何も動いていない。カーテンは閉まっているが、完全ではない。隙間から光が入る。鞄を床に置き、上着を脱ぐ。動作は普段と同じだと思うが、比べる対象がない。鞄を開け、包みを取り出す。紙は少し潰れている。


包みを開くと、大福が半分残っている。形は最初より崩れているが、崩れきってはいない。私はそれを手に取らず、しばらく見ている。重さは、見た目から想像できる範囲に収まっている。軽くも重くもない。ただ、持てば分かる重さだということは分かる。


包みをそのまま机の上に置く。置いた位置を調整しない。机の端から少し離れたところで止まる。時計を見る。時間は進んでいる。進んでいること以外は分からない。私は椅子に座り、手を膝の上に置く。何かをする必要はない。


しばらくして、玄関の方から音がする。気のせいかもしれないが、確認には行かない。音は続かない。部屋の中の空気は変わらない。大福は半分のまま、紙の上にある。私はそれを食べるかどうか決めない。決めないまま、座り続ける。


鍵は内側から掛かっているはずだが、確かめない。確かめなくても、問題は起きていない。起きていないことを確認する必要もない。光は少しずつ傾く。包みの影が、机の上で形を変える。私はそれを見ている。見ているだけで、終わりは決めない。

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春は桜と大福がよく映える zakuro @zakuro_1230

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