第3話:受付嬢は囲う
冒険者ギルドの裏手にある、関係者以外立入禁止の応接室。
俺は今、そこの革張りのソファに座らされていた。
目の前には、一人の女性。
きっちりと結い上げた黒髪、知的な銀縁メガネ、そして隙のないギルド制服。
ギルドの敏腕受付嬢、ミントだ。
「……それで、何の用ですか? 俺、何も悪いことしてないんですけど」
俺は努めて平静を装い、すっとぼけた。
ミントは眼鏡の奥の瞳を光らせ、手元の資料をテーブルに置く。
バサッ。
「単刀直入に言います。――昨日のエンシェントドラゴン討伐、および本日の食堂『満腹亭』での神速の皿洗い。どちらも、貴方の仕業ですね?」
「は? 何の話で――」
「証拠はあります」
ミントは流れるような動作で、一枚の羊皮紙を突きつけてきた。
そこには、ギルドカードのアクセスログ(通信記録)らしき文字列が並んでいる。
「当ギルドの魔導サーバーには、登録者の活動魔力が微弱ながら記録されます。貴方のID『タスク』の魔力波形……昨日のドラゴン討伐現場、そして今日の食堂の厨房。どちらでも、一瞬だけ『計測不能なほどの高出力』が記録され、直後に『一般人レベル』に戻っています」
ミントは一息つき、口元だけで笑った。
「極めつけは、現場に残された『業務完了』の残留ログ。……とぼけても無駄ですよ。貴方が何らかの『スキル』を使って、これらを解決したのは明白です」
……完全にバレている。
俺は内心で舌打ちした。
この世界のギルドシステム、意外と優秀じゃないか。プライバシーポリシーはどうなってるんだ。
「……で? それを暴いてどうするつもりですか。衛兵に突き出しますか?」
俺が開き直ると、ミントは意外な反応を見せた。
彼女はゆっくりと首を横に振り、少しだけ身を乗り出してきたのだ。
「いいえ。逆です。私は貴方を『管理』したい」
「管理?」
「ええ。これほどの能力を持ちながら、貴方は日雇いのフリーターに甘んじている。非常にもったいない。それに、正体不明の英雄として騒がれるのは、貴方も本意ではないでしょう?」
図星だ。
ジャンヌ(あの女騎士)に見つかったら、間違いなく面倒なことになる。
「そこで取引です。私が貴方の正体をギルド内で隠蔽します。その代わり――」
ミントは眼鏡の位置を直し、低い声で告げた。
「今後、貴方が受ける依頼(クエスト)は、全て私が選定します。私の許可なく、勝手に他の依頼を受けないでください」
「……それ、実質的な専属契約ですよね? 俺、特定の組織に縛られるのは嫌なんですけど」
「縛るのではありません。『最適化』です。貴方の能力を最も高く売り、かつ面倒ごとを回避できる案件だけを私が斡旋する。……悪い話ではないはずですよ?」
ミントの提案は、確かに理にかなっていた。
自分で求人を探す手間が省けるし、身バレのリスクも減る。
だが、ただ従うのも癪だ。
「条件があります。延長料金は前払い。それと、俺が『帰る』と言ったら、どんな状況でも定時で上がらせてもらいます」
「……いいでしょう。交渉成立です」
ミントは満足げに頷くと、早速一枚の依頼書を取り出した。
「では、初仕事です。ギルド地下倉庫の清掃。報酬は金貨10枚」
「掃除で金貨10枚? 高すぎません?」
「倉庫内に『擬態魔物(ミミック)』が大量発生していましてね。誰もやりたがらないんです。――さあ、行ってらっしゃいませ、私の最強のフリーターさん」
* * *
俺は端末に表示された倉庫案件を確認し、親指を置いた。
条件は悪くない。
――【応募】確定。
カチッ。
スキル【スポット】、発動。俺は「掃除の達人」へと書き換えられる。
数分後。
ギルド地下倉庫。
「シャァァァァッ!」
襲いかかってくる宝箱の群れ(ミミック)を、俺はモップの一振りで粉砕していた。
バキッ! ドカッ!
次々とミミックをゴミのように処理し、散らばったギルド備品の金銀財宝まで、きっちり整理整頓していく。
小型の群れだったおかげで、数は稼げた。砕けた残骸から核だけを手際よく回収して袋に放り込む。これも納品物だ。
「……ふぅ。こんなもんか」
殲滅完了。
ついでに、棚の裏に落ちていた「未処理の重要書類」を拾い上げ、ミントの机の上に置いておけるよう、分かりやすい場所にまとめておいた。
あいつ、完璧そうに見えて、こういう細かいところは抜けてるんだよな。
「時間なんで、上がります」
俺は誰に言うでもなく呟き、【完了】ボタンを押した。
┏━━━【業務完了報告】━━━┓
■案件名:ギルド倉庫内・害獣駆除および清掃
■稼働時間:00:08:30(残00:51:30)
■依頼主評価:★★★★★
■獲得報酬:
・金貨×10
・ミミックの核×20
・受付嬢ミントの独占管理欲(微増)
┗━━━━━━━━━━━━━━┛
「……管理欲ってなんだよ」
報酬欄の不穏な表記は見なかったことにして、俺は応接室へと戻った。
ミントは報告を受ける前から、完了を察していたようだ。
「お疲れ様です。完璧な仕事ですね。……それに、あの書類も見つけてくれたようで」
ミントは少しだけ頬を緩め、熱っぽい視線で俺を見た。
「やはり、貴方は私の管理下に置くべき人材です。……誰にも、渡しません」
その言葉が、単なる業務上の独占欲には聞こえなかったのは、俺の気のせいだろうか。
とりあえず、今日のバイト代は確保した。
俺が帰ろうと端末を見ると、新たな通知が届いていた。
『【重要】長期契約(正社員)のオファーが届いています』
……ん?
なんだこれ。嫌な予感がする。
────────────────────
【あとがき】
本編のタスクさんは無事に★5評価をもらえました。
もし「続きが気になる!」「ミントさん怖いけど頼れる!」と思っていただけたら、この作品にも★レビュー(求人評価)とフォロー(指名)をいただけると、タスクの次の仕事(更新)のモチベーションになります!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます