第2話

屋敷の廊下は、埃にまみれ、時折軋む古い木の音が響く。

15歳の体はまだ軽く揺れるようで、倒れた過去の記憶が胸に重くのしかかる。

元々、この体を持つ少年――南東島の当主――は虚弱で、決断もできない無能だった。

小さな判断ですらストレスとなり、精神的に消耗しやすい体質だ。長時間の不安や緊張が、体に直接影響して倒れることも少なくなかった。


「ああ……これが、あいつの体か」

俺は呟く。

乗っ取った今の自分は、行動力と決断力を持つハッスル系。

でも、この体はまだ元人格の影響を受けている。眩暈が走り、息が詰まりそうになることもある。


ベッドの上で俺は倒れた日のことを思い出す。

港に向かう途中、階段で足を踏み外し、視界が揺れ、意識が薄れる感覚。

恐怖に押しつぶされる前人格――あいつなら、そこで諦めていた。

だが今の俺は違う。守るべき家族の顔を思い浮かべるだけで、体の力は少しずつ戻る。


「……妹たちの顔、守る」

胸の奥で決意が生まれる。


扉の先、薄暗い光の向こうから、小さな足音が聞こえてきた。

「……兄さま?」

声は確かにリリィだ。12歳の妹が、階段の隙間から顔をのぞかせる。

その後ろに、7歳のミナが小さく身を揺らしている。


「……リリィ、ミナ……」

声が震える。だが、一歩踏み出すたびに体のふらつきは収まっていく。


「……兄さま、どうして寝てたの?」

リリィの瞳には心配と不安が浮かぶ。


「体が弱くて、少し倒れてた」

正直に答える。倒れた原因は元人格の虚弱さだが、妹たちには安心してもらうため簡潔に伝える。


ミナは手を握り、声を小さく震わせながら訊く。

「兄さま、もう大丈夫?」


「うん、大丈夫だ」

拳を握る。倒れた元人格の無能さはもう関係ない。

今の俺は、この島と妹たちを守るために、行動するしかない。


屋敷内を歩き回る。埃をかぶった家具、割れた床板、無数の窓から差し込む光――全てが島再生の材料になる。


「兄さま、これも直すの?」

リリィが小さな声でつぶやく。


「そうだ。少しずつ、手を入れて生活できる状態にする」

妹たちはうなずき、覚悟を決めた表情を見せる。


屋敷の裏庭へ出る。

小さな畑には雑草が生い茂り、古びた農具が散らばっている。


「兄さま、ここも……?」

リリィは戸惑いながら訊く。


「もちろんだ。食料も確保しないといけない。小さなことから始める」

ミナも力強くうなずく。


俺たちは港へ向かうことにした。

荒れ果てた港を目にする。

老朽化した船、崩れかけの倉庫、波に揺れる小舟。

島民たちの視線には、疑念と不安、そしてわずかな希望が入り混じる。


「兄さま、あれも直せるの?」

リリィが指差す造船所に、俺は答える。


「できる……まずは船を動かすことから。少しずつ、手を加えていく」

方法はまだ手探りだが、行動するしかない。


ミナが手を叩き、笑顔を見せる。

「よーし!兄さま、がんばろう!」


俺も笑ってうなずく。

倒れた元人格の体質や無能さはもう過去だ。

「おう、まずはここからだ」


港の波を見つめ、深く息を吸う。

小さな一歩だが、この一歩が島の未来を変える。



その夜、屋敷に戻ると、月明かりが港と島を淡く照らしていた。

海風が窓を揺らすたび、遠くの波音が屋敷内に入り込む。

リリィが窓辺に立ち、つぶやく。


「兄さま……私、怖い。でも……兄さまがいるから大丈夫」


ミナも小さくうなずき、手を握る。


俺は二人を見て、深く息を吐いた。

「俺も怖い。でも、絶対に守る」


耳元で、淡く冷たい声が響く。

「……前の人格は何もしなかった。あなたはどうするのかしらね」


俺は拳を握りしめ、決意を新たにする。

「任せろ。絶対に、この島を立て直す」

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2026年1月12日 20:00

異世界島国、どの道をゆく?ーそりゃ王道だろっ!? @tantan284

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