第12話
目を離した時間の先で
その日は、特別なことは何もなかった。
講義を受け、コンビニで弁当を買い、
帰宅して、少しだらけてから机に向かう。
「……ちょっとだけ」
本当に、軽い気持ちだった。
引き出しを開ける。
奥にしまっていた、あの球体。
惑星ボール。
触れていない時間は、数日。
意識的に距離を置いていたはずなのに、
指は迷いなく、それを取り出していた。
「確認するだけだ」
言い訳のように呟いて、起動する。
暗転。
視界が、切り替わる。
――違和感は、すぐに来た。
森の配置が、記憶と違う。
木が、整っている。
道のようなものが、いくつも伸びている。
「……は?」
思わず声が漏れた。
視点を下げる。
そこには――集落があった。
粗末だが、明確に“作られた”痕跡。
枝と石を組んだ簡易的な住居。
中心には、焚き火の跡。
火。
誰も、与えていないはずだった。
周囲を見渡す。
あの、名も持たない群れ。
彼らが、役割分担をして動いていた。
食料を集める個体。
見張りのように高所に立つ個体。
幼い個体を囲むように座る者たち。
秩序がある。
言葉は、まだない。
だが、合図と身振りで意思疎通をしている。
《知性判定:進行中》
表示が変わっていた。
「……俺、何もしてないぞ」
干渉ログを確認する。
直接介入――なし。
知識付与――なし。
それでも、文明は進んでいる。
風の種族が、遠巻きに見ていた。
近づかないが、排除もしない。
影の種族は、夜にだけ現れ、
集落の外周をなぞるように動いている。
均衡が、生まれている。
――勝手に。
心臓が、嫌な音を立てた。
これが、自然進化だとしたら?
俺が見ていない間に、
時間だけが進んでいたとしたら?
《時間圧縮率:観測外加速》
表示を見た瞬間、理解した。
俺が日常を生きている間、
この星では、何十倍もの時間が流れていた。
つまり。
目を離した“その間”に、
世界は、次の段階へ行ってしまった。
集落の中央。
一体の個体が、石を掲げる。
周囲が、注目する。
意味のある行動。
象徴。
「……やめろ」
思わず、そう言っていた。
彼らは、まだ“人間”じゃない。
でも、もう――戻れない。
《警告》
《当該文明は、今後急速な発展が予測されます》
《管理方針を選択してください》
選択。
俺は、椅子に深く座り直す。
これは、ゲームじゃない。
でも、現実でもない。
それでも確かに、
“俺が見ている世界”だ。
日常の延長で、
何気なく覗いただけなのに。
画面の向こうでは、
もう、火が灯っていた。
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惑星ボール!?それは星を育てるゲームだった @tantan284
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