第7話

まだ名を持たないもの


惑星を観測していて、最初に違和感を覚えたのは、数だった。


風の種族は集団で動く。

大地の種族は決まった場所を守る。

影の種族は、現れては消える。


それぞれに、一定の“型”がある。


なのに――

そのどれにも当てはまらない動きが、森の縁にあった。


《未分類生命反応》


表示は簡素だった。


俺は、視点を近づける。


そこにいたのは、群れだった。

二足で立つが、背中は丸く、歩き方も不安定。

体毛が多く、顔つきはどこか幼い。


獣、と呼ぶには妙に落ち着きがない。

常に周囲を見回し、何かを探すように動いている。


一体が、地面の石を拾った。

叩く。

音が鳴る。


驚いて手を離し、しばらく固まる。

だが、すぐにまた拾い、今度は力を変えて叩いた。


「……学習してる?」


誰に聞かせるでもなく、そう呟いていた。


別の個体は、風の種族の動きを遠くから見ていた。

耳を伏せ、合図のような身振りを、ぎこちなく真似る。


意味は理解していない。

でも――模倣している。


《知性判定:未到達》


表示が出る。


未到達。

まだ、だ。


俺は、無意識に息を止めていた。


もし、この存在に火を与えたら?

言葉を与えたら?

魔法を理解させたら?


そう考えた瞬間、背筋が冷えた。


それは“育成”じゃない。

“進化の誘導”だ。


画面の端で、群れの一体が転んだ。

仲間が寄ってきて、引き起こす。


助ける、という行動。

本能以上の、選択。


「……やばいな」


そう思ったのに、目が離せなかった。


このまま、何もせずに見ていたら。

時間だけが進めば。


きっとこの存在は――

人間に、近づく。


《注意》


通知が割り込む。


《当該生命群は、管理優先度が低く設定されています》


低い。

つまり、守られない。


俺は、視点を引いた。


これ以上見続けたら、

何かを決めてしまいそうだったから。


引き出しを閉め、惑星ボールから手を離す。

心臓の音が、やけに大きい。


「……今は」


今は、まだ。


名も与えない。

手も出さない。


ただ、覚えておく。


この星のどこかに、

“なろうとしている存在”がいることを。


それだけで十分だと、

自分に言い聞かせた。

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