第1話
惑星ボールを拾った日
俺がそれを手に入れたのは、偶然と言うには出来すぎていて、必然と言うにはあまりにも雑だった。
大学の講義を終え、駅前の安い定食屋で昼を済ませた帰り道。
スマホに表示された通知を、俺は何度も見返していた。
――落札が確定しました。
闇オークション。
自分でも、なんでそんなものを覗いたのか覚えていない。
、、まじでなんで買ったんだ?
ただ「返品不可」「招待制」「正体不明」という単語が、やけに目に引いた。それだけだ。
落札した商品の受け取り方法は簡単だった。
駅のコインロッカー。番号と暗証番号が送られてきただけ。
正直、拍子抜けするほどあっさりしていた。
ロッカーを開けると、中には黒い緩衝材に包まれた小箱がひとつ。
重さはほとんど感じない。
壊れ物注意のシールもなければ、送り主の情報もない。
部屋に戻り、ドアを閉めてから、俺はようやく箱を開けた。
中にあったのは、球体だった。
手のひらサイズで、ガラスのように透明。
中では、淡い光の雲がゆっくりと流れ、小さな大陸らしき影が見える。
「……なにこれ」
思わず声が漏れた。
ゲーム?
これが?
電源ボタンらしきものはない。
説明書もない。
ただ、触れれば壊れてしまいそうなほど、静かで、脆そうだった。
――なのに。
指先が、自然と伸びていた。
触れた瞬間、微かな震えが伝わる。
錯覚かと思ったが、確かに内部の光が、わずかに脈打った。
そのとき、胸の奥がざわついた。
嫌な予感じゃない。
懐かしいとも違う。
ただ、「見てしまった」という感覚。
《環境解析中》
声が聞こえた。
部屋の中に誰かがいるわけじゃない。
イヤホンもつけていない。
それなのに、声は頭の中に直接響いた。
《管理対象:未成熟惑星》
《文明レベル:未発生》
俺は、言葉を失った。
視界の端で、球体の内部が拡大される。
雲が晴れ、地表がはっきりと見えた。
荒れた大地。
海は浅く、空は暗い。
けれど、その中央で――
ほんの小さな光が、瞬いていた。
なぜだか分からない。
なのに、確信した。
「あれ……生きてる」
次の瞬間、選択肢が浮かぶ。
――介入しますか?
YES / NO
ゲームなら、YESを押すべきなんだろう。
でも、俺は指を止めた。
介入って、なんだ。
これが失敗したら?
壊れたら?
消えたら?
胸の奥で、何かが訴えてくる。
放っておいたら、きっとこの星は――
俺は、深く息を吸った。
「……大丈夫だ」
誰に言ったのか、自分でも分からない。
ただ、逃げたくなかった。
指が、YESに触れる。
その瞬間、星が――
ほんの一瞬だけ、強く輝いた。
俺は知らなかった。
この選択が、
ただのゲーム開始じゃないことを。
そして、
この小さな星が、
俺の人生を壊すほど、重たい存在になることを。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます