第12話:新たな訓練法

 訓練場で、俺とリリアナは床に座り、向かい合っていた。


 昨日発見した魔力共鳴を、さらに深く理解するための訓練だ。『創造神の叡智』によれば、魔力共鳴は単なる能力の増幅だけでなく、もっと深い可能性を秘めているという。


「では、もう一度やってみよう」


「うん」


 俺たちは目を閉じ、呼吸を整える。


 深く、ゆっくりと。


 吸って、吐いて。


 意識を内側に向け、体内の魔力の流れを感じ取る。


 心臓から流れ出る魔力が、血管に乗って全身を巡る。指先、足先、頭の先まで。全ての魔力の流れを、一つ一つ丁寧に追いかけていく。


 そして——


 リリアナの魔力を感じた。


 彼女の体内を流れる魔力が、まるで自分のもののように分かる。温かく、優しく、そして力強い。


「見えた...」


 目を開けると、昨日と同じように光の糸が俺たちを繋いでいた。


 だが、今日は昨日よりも多い。無数の光の糸が、複雑に絡み合いながら、俺たちを結んでいる。


「ユート、昨日よりも強く感じるわ」


 リリアナも目を開け、光の糸を見つめる。


「ああ。魔力共鳴が、より深くなっている」


 俺は手を伸ばし、光の糸に触れる。


 瞬間、リリアナの感情が流れ込んでくる。


 愛情、信頼、喜び、そして少しの不安。


 全てが、手に取るように分かる。


「リリアナ、お前の感情が分かる」


「え?」


「不安なんだろ? 俺についていけるか、心配してる」


 リリアナは驚いた顔をする。


「どうして分かるの...?」


「魔力共鳴を通じて、お前の感情が伝わってくるんだ」


「そんな...恥ずかしい...」


 彼女は顔を赤らめる。


「でも、心配する必要はない」


 俺は彼女の手を握る。


「お前は十分強い。それに、俺たちは一緒だ。二人なら、どんな困難も乗り越えられる」


「ユート...」


 リリアナの瞳が潤む。


「ありがとう...そう言ってくれて、嬉しい」


「これが、俺の本心だ」


 俺たちは見つめ合う。


 光の糸が、さらに輝きを増す。


 魔力共鳴が、より一層深まっていく。


***


 それから数時間、俺たちは魔力共鳴の訓練を続けた。


 互いの魔力を感じ取り、それを制御する。そして、共鳴させることで能力を増幅させる。


 何度も繰り返すうちに、徐々にコツを掴んできた。


「よし、次は実戦形式でやってみよう」


 俺は立ち上がる。


「実戦形式?」


「ああ。魔力共鳴を使いながら、模擬戦闘をする」


 リリアナも立ち上がり、杖を構える。


「分かったわ。やってみましょう」


 俺たちは少し距離を取り、向かい合う。


「じゃあ、始めるぞ」


 俺が合図すると同時に、リリアナが動く。


「【光剣召喚】!」


 空中に、光の剣が5本生成される。


 それが、俺に向かって飛んでくる。


「【絶対防御】」


 俺は手のひらを前に突き出し、光の膜を展開する。


 光の剣が膜に激突するが、全て防がれる。


 だが——


「今よ!」


 リリアナが叫ぶ。


 光の剣の陰から、彼女自身が飛び出してくる。


 手には、訓練用の木剣。


「はあっ!」


 木剣が、俺の脇腹を狙う。


「くっ...!」


 俺は咄嗟に体を捻り、攻撃を避ける。


 そして、カウンターで手刀を放つ。


 だが、リリアナも避ける。


「やるな」


「えへへ、毎日ユートと訓練してるもの」


 彼女は嬉しそうに微笑む。


「じゃあ、次は俺の番だ」


 俺は地面を蹴り、リリアナに向かって走る。


 拳を振るう。


 リリアナは木剣で防ぐ。


 カツン、と軽い音。


 俺はすぐに次の攻撃を放つ。


 蹴り、肘打ち、膝蹴り。


 父グランディオスから教わった、体術を駆使する。


 リリアナは必死に防御する。


 だが——


「今だ、魔力共鳴!」


 俺が叫んだ瞬間、リリアナの目が輝く。


「分かったわ!」


 互いの魔力が共鳴する。


 光の糸が、俺たちを包み込む。


 そして——


 リリアナの動きが、劇的に速くなった。


「えいっ!」


 彼女の木剣が、信じられない速度で俺を襲う。


「なっ...!」


 俺は慌てて防御する。


 だが、攻撃の速度が速すぎる。


 カツン、カツン、カツン!


 連続で木剣が俺の防御を叩く。


 そして——


 俺の防御が破られた。


 木剣が、俺の胸に当たる。


「...やったわ!」


 リリアナが嬉しそうに叫ぶ。


「魔力共鳴で、私の能力が増幅された!」


「ああ...すごいな」


 俺は胸を撫でる。


 痛いが、これは訓練用の木剣だから大したことはない。


「魔力共鳴の可能性は、予想以上だ」


「うん。これなら、もっと強い敵とも戦えそうね」


 リリアナは自信に満ちた表情だ。


 この一週間で、彼女は確実に成長している。


 戦闘技術だけでなく、精神面でも。


(頼もしいな...)


 俺は心の中で微笑む。


 彼女は、本当に俺の最高のパートナーだ。


***


 訓練を終えた後、俺たちは中庭で休憩していた。


 噴水の縁に座り、水を飲む。


 汗が流れ、体は疲れているが、心地よい疲労感だ。


「ねぇ、ユート」


 リリアナが話しかけてくる。


「魔力共鳴って、どこまで強くなれるのかしら」


「分かならない。『創造神の叡智』にも、詳しくは書いてなかった」


 俺は本のことを思い出す。


「ただ、深い絆を持つ者ほど、強力な共鳴ができるらしい」


「深い絆...」


 リリアナは俺を見つめる。


「じゃあ、私たちの絆が深まれば深まるほど、もっと強くなれるってこと?」


「そうだな」


「なら、もっともっと仲良くならないとね」


 彼女は微笑む。


 その笑顔が、とても可愛い。


「リリアナ、お前...」


「何?」


「可愛いな」


 俺は正直に言う。


 リリアナの顔が、一瞬で真っ赤になる。


「な、何言ってるの...急に...」


「思ったことを言っただけだ」


「もう...恥ずかしいじゃない」


 彼女は俺の肩を軽く叩く。


 だが、嫌そうではない。


 むしろ、嬉しそうだ。


「でも...ありがとう」


 彼女は小さく呟く。


「そう言ってもらえると、嬉しい」


「これからも、毎日言うぞ」


「え...毎日?」


「ああ。お前は可愛いからな」


「もう...やめてよ...」


 リリアナは顔を隠す。


 だが、その指の隙間から、嬉しそうな笑顔が見える。


***


 午後になり、俺たちは再び訓練を始めた。


 今度は、魔力制御の訓練だ。


 魔法陣の部屋で、俺は床に描かれた魔法陣の中央に立つ。


 魔法陣が光り始め、俺の体内の魔力の流れが視覚化される。


「まだ、少し乱れているな...」


 暗黒神の呪いの影響で、魔力の流れは完全には整っていない。


 黒い靄が、所々に混ざっている。


「でも、以前よりはマシだ」


 タルタロスの魔力環境と、日々の修行のおかげで、呪いの影響は確実に弱まっている。


「もう少しだ...」


 俺は目を閉じ、呼吸を整える。


 魔力の流れに意識を集中させる。


 黒い靄を、少しずつ押し出していく。


 時間をかけて、丁寧に。


 そして——


 黒い靄が、少し減った。


「よし...」


 目を開けると、魔力の流れが以前よりも綺麗になっている。


「ユート、すごい。また綺麗になってる」


 リリアナが横で見守っていた。


「ああ。でも、まだ完璧じゃない」


「でも、確実に良くなってるわ。その調子よ」


 彼女は励ましてくれる。


「次は、私の番ね」


 リリアナが魔法陣の中央に立つ。


 魔法陣が光り、彼女の魔力の流れが視覚化される。


 彼女の魔力は、とても綺麗だ。


 乱れもなく、滑らかに流れている。


「リリアナ、完璧だな」


「そうかしら? でも、もっと上手くなりたいの」


 彼女は真剣な顔で、自分の魔力を見つめる。


「戦闘中に乱れることがあるから、それを防ぎたいわ」


「なら、実戦形式でやってみるか」


「実戦形式?」


「ああ。俺が攻撃する。お前は防御しながら、魔力の流れを安定させる」


「...分かったわ。やってみる」


 リリアナは魔法陣の中で、杖を構える。


 俺は魔法陣の外から、魔法を放つ。


「【神域創造】— 石弾」


 手のひらに、小さな石の弾が生成される。


 それを、リリアナに向かって投げる。


 速度は遅め。まだ訓練だから。


「【光盾展開】!」


 リリアナの前に、光の盾が展開される。


 石弾が盾に当たり、弾かれる。


「いいぞ。その調子だ」


 俺は次々と石弾を投げる。


 リリアナは全て防ぐ。


 だが——


「はぁ...はぁ...」


 徐々に息が上がってくる。


 魔力の流れも、少しずつ乱れ始める。


「リリアナ、呼吸を整えろ。焦るな」


「う、うん...」


 彼女は深呼吸をする。


 すると、魔力の流れが再び安定する。


「そうだ、その調子だ」


 俺は攻撃を続ける。


 リリアナは、徐々に防御に慣れてくる。


 呼吸を整え、魔力を制御し、完璧に防御する。


「できた...!」


 彼女は嬉しそうに叫ぶ。


「魔力の流れ、安定したままよ!」


「すごいな。よく頑張った」


 俺は攻撃をやめ、リリアナに近づく。


「お前、本当に成長が早いな」


「えへへ、ユートが良い先生だからよ」


 彼女は嬉しそうに微笑む。


***


 夕方になり、俺たちは訓練を終えた。


 今日も、充実した一日だった。


「さて、夕食の準備をしようか」


「うん。今日は何にする?」


「お前に任せる」


「じゃあ...シチューにしようかな」


 リリアナは嬉しそうに厨房に向かう。


 俺も手伝いながら、彼女の料理を見守る。


 野菜を切り、肉を炒め、煮込んでいく。


 手際が良く、見ていて楽しい。


「はい、できたわよ」


 テーブルには、美味しそうなシチューが並んでいる。


「いただきます」


 俺たちは一緒に食事を始める。


 シチューは、野菜の甘みと肉の旨味が絶妙だ。


「美味しい」


「良かった」


 リリアナは嬉しそうに微笑む。


 こうして、二人で食事をする時間が、俺は一番好きだ。


 平和で、温かくて、幸せ。


(この時間が、ずっと続けばいいのに...)


 だが、俺は知っている。


 この平和は、永遠には続かない。


 いつか、もっと強い敵が現れる。


 だから——


 今のうちに、もっと強くならなければならない。


***


 夕食後、俺たちは温泉に向かった。


 今日も疲れた体を癒すため。


「ふぅ...やっぱり温泉は最高ね」


 リリアナが湯船に浸かりながら、幸せそうに呟く。


「ああ。魔力を含んだ湯だから、疲労回復に最適だ」


 俺も隣に座る。


 温かい湯が、体の芯まで温めてくれる。


「ねぇ、ユート」


 リリアナが話しかけてくる。


「今日の訓練、楽しかったわ」


「俺も」


「毎日、あなたと一緒に訓練できて...幸せ」


 彼女は俺を見つめる。


「私、あなたと出会えて本当に良かった」


「...俺も」


 俺は彼女の手を握る。


「お前がいなければ、俺はここまで来れなかった」


「そんなことない。あなたは強いもの」


「いや、お前がいたから強くなれたんだ」


 俺は彼女を見つめる。


「お前は、俺の支えだ。俺の光だ」


「ユート...」


 リリアナの瞳が潤む。


 そして——


 俺たちは抱き合った。


 裸の体が触れ合う。


 温かい。


 柔らかい。


 そして——


 愛おしい。


「リリアナ...」


「ユート...」


 俺たちは唇を重ねる。


 温泉の中でのキス。


 湯気に包まれて、時間が止まったように感じる。


 舌が絡み合い、唾液が混ざる。


 お互いの体を撫で合う。


 リリアナの小さな胸の膨らみに、俺の手が触れる。


「んっ...」


 彼女が小さく喘ぐ。


 その声が、俺の欲望を刺激する。


 だが——


「リリアナ...これ以上は...」


「...分かってる」


 彼女も理性を保っている。


「まだ...早いわよね」


「ああ。でも、いつか...」


「うん...いつか...」


 俺たちは抱き合ったまま、しばらく湯に浸かっていた。


 その時が来るまで、待とう。


 二人で、共に。


***


 その夜、俺たちはリリアナの部屋で抱き合って眠っていた。


 彼女の温もりが、心地よい。


 安心できる。


 このまま、ずっと...


 だが、俺の意識は、ゆっくりと夢の世界へと沈んでいった。


 そして——


 夢の中で、俺は神界にいた。


 祖父アルティメア、祖母メルシア、父グランディオス、母エリディア。


 そして、アルティナ。


 みんなが、俺を見つめている。


「ユート、よく頑張っているな」


 祖父が微笑む。


「もう少しだ。もう少しで、全ての能力が覚醒する」


「祖父様...」


「諦めるな。お前なら、必ずできる」


 祖父の言葉が、俺の心に響く。


 そして——


 夢から覚めた。


「...夢か」


 だが、不思議と体が軽い。


 まるで、本当に祖父と会ったかのような感覚。


「ユート...?」


 リリアナが目を覚ます。


「どうしたの?」


「いや、何でもない。また寝よう」


「うん...」


 彼女は再び俺の胸に顔を埋める。


 俺は彼女を抱きしめながら、再び眠りについた。


 明日も、頑張ろう。


 二人で、共に。

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