第13話:森の奥への探索

 神殿での修行を始めてから、二週間が経った。


 俺とリリアナは、毎日休むことなく訓練を続けている。その成果は確実に現れていた。俺の能力は着実に覚醒し、リリアナの魔法と剣術も飛躍的に向上している。


 だが——問題があった。


「最近、神殿周辺に魔物がいなくなったな」


 朝食を取りながら、俺は呟く。


「そうね。この一週間、ほとんど遭遇してないわ」


 リリアナも同意する。


 神殿周辺の魔物は、俺たちが倒し尽くしてしまったのだ。C級やB級の魔物では、もはや修行相手にならない。


「このままじゃ、実戦経験が積めない」


 俺は窓の外を見る。


 遠くに見える、黒い森。


 タルタロスの最深部だ。


「森の奥に行くしかないな」


「森の奥...」


 リリアナは少し不安そうな顔をする。


「危険じゃない?」


「ああ、危険だ。でも、俺たちはもっと強くならないといけない」


 俺は彼女の手を握る。


「大丈夫。俺たちなら、乗り越えられる」


「...うん。あなたを信じるわ」


 リリアナは決意を込めて頷いた。


***


 出発の準備を整える。


 武器、防具、食料、そして魔力回復の薬。


 全てを空間収納の指輪に入れる。


「よし、準備完了だ」


「私も大丈夫よ」


 リリアナも新しい杖を握りしめる。


 地下で見つけた、魔力増幅の杖だ。


「じゃあ、行こう」


 俺たちは神殿を出て、森の奥へと向かう。


 結界を越えると、空気が変わる。


 濃密な魔力が、肌に纏わりつく。


 そして——何か、禍々しい気配も感じる。


「ユート、何か嫌な予感がするわ」


 リリアナが俺の腕を掴む。


「ああ、俺もだ。でも、進むしかない」


 俺たちは慎重に森を進む。


 木々は神殿周辺よりもさらに太く、高い。


 幹は黒ずみ、枝は不自然に絡み合っている。


 地面には、奇妙な植物が生い茂っている。


 赤い蔦、紫色の苔、そして発光するキノコ。


「気をつけろ。ここの植物も、危険かもしれない」


「分かったわ」


 俺たちは植物を避けながら、さらに奥へと進む。


***


 森に入って一時間ほど経った頃、最初の魔物と遭遇した。


 ガサガサ。


 茂みが揺れる。


「来るぞ」


 俺は剣を抜く。


 リリアナも杖を構える。


 茂みから飛び出してきたのは——


「魔熊か」


 全長3メートルほどの、巨大な熊。


 毛は黒く、鋭い爪を持っている。


 ランクはB級。


「リリアナ、俺が行く」


「うん、気をつけて」


 俺は魔熊に向かって走る。


 魔熊も咆哮を上げて、襲いかかってくる。


「ガアアアッ!」


 巨大な爪が、俺を襲う。


 だが——


「遅い」


 俺は最小限の動きで避け、その懐に潜り込む。


「はあっ!」


 剣を一閃する。


 シュッ。


 魔熊の首が、切断される。


 血が噴き出し、巨体が地面に崩れ落ちる。


「...終わった」


 一撃だった。


 B級の魔物が、一撃で倒せるようになっている。


 確実に、強くなっている。


「ユート、すごい」


 リリアナが駆け寄ってくる。


「前よりも、もっと速くなってるわ」


「ああ。毎日の修行の成果だ」


 俺は魔熊の死骸から、魔核を取り出す。


 B級の魔核。以前ならそれなりに価値があったが、今では物足りない。


「もっと強い魔物を探そう」


「うん」


 俺たちは、さらに森の奥へと進んだ。


***


 それから数時間、俺たちは様々な魔物と遭遇した。


 魔狼、魔蛇、魔鳥。


 ランクはB級からA級。


 だが、全て俺とリリアナの連携で倒していった。


 俺の剣技と【万物破壊】。


 リリアナの【聖光魔法】と【光剣召喚】。


 そして、魔力共鳴による能力増幅。


 完璧な連携だった。


「この調子なら、もっと奥まで行けそうね」


 リリアナが嬉しそうに言う。


「ああ。でも、油断は禁物だ」


 俺は周囲を警戒する。


 魔力の濃度が、どんどん高くなっている。


 それは、より強い魔物がいる証拠だ。


「そろそろ、休憩するか」


「そうね。少し疲れたわ」


 俺たちは適当な岩陰を見つけ、そこで休憩することにした。


 水を飲み、保存食を食べる。


「ユート、見て」


 リリアナが空を指差す。


 雲の隙間から、わずかに光が差し込んでいる。


「珍しいな。タルタロスで太陽の光が見えるなんて」


「綺麗...」


 リリアナは光を見つめる。


 その横顔が、とても美しい。


「リリアナ」


「何?」


「お前、本当に綺麗だな」


 俺は正直に言う。


 リリアナの顔が赤くなる。


「も、もう...また急に...」


「思ったことを言っただけだ」


「恥ずかしいじゃない...」


 彼女は俺の肩に頭を預ける。


「でも...嬉しい」


 俺は彼女を抱きしめる。


 こうして、二人で休憩する時間も大切だ。


 戦闘だけじゃなく、こういう時間も。


***


 休憩を終えた後、俺たちは再び森を進んだ。


 だが——


 突然、強大な魔力を感じた。


「!」


 俺は立ち止まる。


「ユート?」


「リリアナ、何か来る。強い」


 周囲を警戒する。


 木々が揺れる。


 地面が振動する。


 そして——


 ガサガサガサ。


 周囲の茂みが、一斉に揺れた。


「まさか...」


 茂みから、次々と魔狼が現れた。


 5匹、10匹、15匹。


 いや、もっといる。


「群れだ...!」


 魔狼の群れが、俺たちを囲んでいた。


 その数、30匹以上。


 そして、群れの中心には——


「あれは...」


 銀色の毛並みをした、一際大きな魔狼。


 体長は4メートル以上。


 赤く光る瞳が、俺たちを見つめている。


「魔狼王...フェンガロ...!」


 以前、神殿を見つける前に遭遇した魔物だ。


 あの時は逃げた。


 だが、今回は——


「リリアナ、逃げるぞ!」


「待って、ユート」


 リリアナが俺の腕を掴む。


「逃げられないわ。完全に囲まれてる」


 確かに、その通りだ。


 前後左右、全て魔狼で囲まれている。


「なら...戦うしかない」


 俺は剣を構える。


 リリアナも杖を握りしめる。


「ユート、魔力共鳴を使いましょう」


「ああ」


 俺たちは背中合わせになる。


 互いの魔力を感じ取り、共鳴させる。


 光の糸が、俺たちを繋ぐ。


 魔力が増幅される。


「行くぞ」


「うん」


 魔狼王が咆哮を上げる。


「ガアアアッ!」


 その合図と共に、群れが一斉に襲いかかってきた。


***


 最初に襲ってきたのは、前方の5匹だった。


「【光剣召喚】!」


 リリアナの声が響く。


 空中に、光の剣が10本生成される。


 魔力共鳴により、通常の倍の数だ。


「行きなさい!」


 光の剣が、魔狼たちに向かって飛んでいく。


「ギャアアン!」


 数匹の魔狼が倒れる。


 だが、すぐに次の魔狼が襲ってくる。


「【万物破壊】!」


 俺は右腕に魔力を集中させる。


 黒いオーラが腕を包む。


「はあああっ!」


 拳を振るう。


 黒いオーラが放たれ、魔狼を包み込む。


 ドガァン!


 魔狼が粉々に砕け散る。


「まだまだ!」


 次々と襲ってくる魔狼を、俺とリリアナは連携して倒していく。


 俺の剣技と【万物破壊】。


 リリアナの【聖光魔法】と【光剣召喚】。


 そして、魔力共鳴による能力増幅。


 10分で、群れの半分以上を倒した。


「はぁ...はぁ...」


 だが、体力と魔力が削られている。


 そして——


 魔狼王が動いた。


「グルォォォッ!」


 魔狼王の咆哮が、森に響き渡る。


 その巨体が、俺に向かって突進してくる。


 圧倒的な速度。


 以前よりも、遥かに速い。


「くっ...!」


 俺は剣を構える。


 だが、魔狼王の速度は速すぎる。


 避けられない。


(なら...!)


「【絶対防御】!」


 光の膜が、俺の前に展開される。


 魔狼王の巨大な爪が、膜に激突する。


 ドガァァァン!


 凄まじい衝撃。


 光の膜が激しく揺れる。


「ぐっ...!」


 足が地面にめり込む。


 魔力が、急速に消耗していく。


(強い...以前よりも、遥かに強くなっている)


 魔狼王も、成長していたのだ。


「ユート!」


 リリアナの叫び声。


「【聖光魔法】!」


 彼女の杖から、眩い光が放たれる。


 光が、魔狼王を包み込む。


「グルォォッ!?」


 魔狼王が怯む。


 その隙に、俺は膜を解除し、地面を転がる。


「ありがとう、リリアナ!」


「どういたしまして!」


 俺は立ち上がり、再び剣を構える。


 魔狼王が、再びこちらを見る。


 その瞳には、怒りが燃えている。


(このままじゃ、不利だ)


 体力も魔力も、限界に近い。


 リリアナも、相当消耗している。


(どうする...)


 その時——


 閃いた。


「リリアナ、俺に魔力を送れ!」


「え?」


「魔力共鳴を最大限に使う。お前の魔力を、俺に集中させるんだ!」


「分かったわ!」


 リリアナが杖を掲げる。


 魔力共鳴が、さらに強まる。


 光の糸が、俺たちを強く結ぶ。


 そして——


 リリアナの魔力が、俺に流れ込んでくる。


「うおおおっ!」


 体中に、力が満ちる。


 魔力が、限界を超えて溢れ出る。


 右腕が、黒と金のオーラに包まれる。


「【万物破壊】と【創世再生】の融合!」


 俺は魔狼王に向かって走る。


 魔狼王も、俺に向かって突進してくる。


 互いに、全力の一撃を放つ。


「はあああああっ!」


「グルォォォォッ!」


 拳と爪が激突する——


 ドガァァァァァン!


 凄まじい衝撃波が、周囲に広がる。


 木々が倒れ、地面が抉れる。


 そして——


 魔狼王の巨体が、吹き飛ばされる。


 地面に叩きつけられ、動かなくなる。


「...やった」


 俺は膝をつく。


 全身の力が、抜けていく。


「ユート!」


 リリアナが駆け寄ってくる。


「大丈夫...?」


「ああ...何とか」


 俺は彼女に支えられながら、立ち上がる。


 魔狼王の死骸を見る。


 胸から、大きな赤い結晶が出ている。


「A級の魔核...」


 リリアナが魔核を拾い上げる。


「これ、すごい魔力を感じるわ」


「ああ。これがあれば、武器をさらに強化できる」


 俺たちは魔核を回収し、その場を後にした。


 残りの魔狼たちは、ボスが倒されたことで逃げ出していた。


***


 戦闘から少し離れた場所で、俺たちは休憩した。


 岩陰に座り、魔力回復の薬を飲む。


「はぁ...疲れた」


 リリアナが呟く。


「ああ。魔力共鳴を最大限に使ったからな」


 俺も疲労困憊だ。


 だが、勝てた。


 魔狼王を、倒すことができた。


「ユート、あなた本当にすごいわ」


 リリアナが俺を見つめる。


「あんな強い魔物を、倒せるなんて」


「お前がいたからだ」


 俺は彼女の手を握る。


「お前の魔力がなければ、勝てなかった」


「そんな...私は、魔力を送っただけよ」


「それが重要なんだ。俺たち、本当に良いパートナーだな」


「...うん」


 リリアナは微笑む。


 そして——


 俺に抱きつく。


「怖かった...」


 彼女の声は震えている。


「あなたが、死ぬんじゃないかって...」


「大丈夫だ。俺は死なない」


 俺は彼女を抱きしめる。


「お前との約束を、守るために」


「約束...」


「ああ。一緒に生きる、という約束だ」


 リリアナは俺の胸に顔を埋める。


 その体は、小刻みに震えている。


「ありがとう...」


 小さく呟く彼女の声が、俺の心に響く。


 俺は、彼女を守る。


 どんなことがあっても。


***


 休憩を終えた後、俺たちは神殿に戻ることにした。


 今日は、十分すぎるほど戦った。


 これ以上無理をすると、危険だ。


「帰ろう」


「うん」


 俺たちは森を引き返す。


 疲れた体を引きずりながら、一歩一歩進む。


 だが——


 不思議と、心は満たされていた。


 今日、俺たちは確実に成長した。


 戦闘技術だけでなく、絆も深まった。


「ユート、手を繋いでもいい?」


「ああ」


 俺たちは手を繋ぎながら、森を歩く。


 夕日が、木々の隙間から差し込んでいる。


 その光が、俺たちを優しく照らす。


「今日は、良い一日だったわね」


「ああ」


「明日も、一緒に頑張ろうね」


「ああ、もちろん」


 俺たちは、希望に満ちた笑顔で前を向く。


 明日も、二人で。


 共に、強くなる。

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創造神の孫、最強国家を建国す ~いつかスローライフを送ってみせる~ グリゴリ @yokaranumono

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