第2章:覚醒への道

第11話:恋人たちの日常

 朝日が窓から差し込み、俺の顔を照らす。


 目を開けると、最初に見えたのは金色の髪だった。


 リリアナが、俺の腕の中で静かに眠っている。


 彼女の寝顔は、とても穏やかだ。長い睫毛、小さな鼻、そして柔らかそうな唇。見ているだけで、心が安らぐ。


 俺たちが恋人になってから、一週間が経った。


 毎晩、こうして一緒に眠っている。最初は恥ずかしかったが、今では当たり前になった。むしろ、彼女がいないと眠れない体になってしまった。


「んん...」


 リリアナが小さく呟き、目を覚ます。


 サファイアブルーの瞳が、ゆっくりと開く。


「おはよう、ユート」


「おはよう、リリアナ」


 俺は彼女の額に軽くキスをする。


 彼女は嬉しそうに微笑み、俺の首に腕を回す。


「今日も、良い朝ね」


「ああ。お前がいるからな」


「もう...そういうこと、さらっと言うんだから」


 彼女は頬を赤らめる。


 その反応が可愛くて、俺はもう一度キスをした。


 今度は、唇に。


 柔らかい感触。


 温かい息遣い。


 朝のキスは、一日の始まりを特別なものにしてくれる。


「ん...ユート...」


 リリアナが小さく喘ぐ。


 だが、俺はすぐに離れる。


 これ以上続けると、朝食の準備が遅れてしまう。


「さて、朝食を作ろうか」


「うん。今日は何にする?」


「お前に任せる。お前の料理、美味しいからな」


「えへへ、ありがとう」


 リリアナは嬉しそうに微笑み、ベッドから起き上がる。


***


 厨房では、リリアナが手際よく朝食を作っている。


 野菜のスープ、焼きたてのパン、そしてベーコンエッグ。


 俺は彼女の横で、皿を並べたり、水を注いだりと手伝っている。


「ユート、お皿そっちに置いて」


「分かった」


「あ、それと塩取ってくれる?」


「これか?」


「うん、ありがとう」


 二人で料理を作るのは、とても楽しい。


 リリアナは料理が本当に上手で、教わったことをすぐに実践できる。母マルグリットから、しっかりと仕込まれているのだろう。


「はい、できたわよ」


 リリアナが嬉しそうに言う。


 テーブルには、美味しそうな朝食が並んでいる。


「いただきます」


 俺たちは一緒に手を合わせる。


 スープを一口飲む。


 温かくて、野菜の旨味が染み出ている。


「美味しい」


「本当? 良かった」


 リリアナは嬉しそうに微笑む。


 パンも、外はカリッと中はふわふわ。完璧だ。


「リリアナ、本当に料理上手だな」


「ありがとう。でも、まだまだよ。お母様には敵わないわ」


「そうか? 俺は、お前の料理が一番好きだぞ」


「ユート...」


 彼女の顔が赤くなる。


「そんなこと言われたら...嬉しすぎて、どうにかなっちゃいそう」


「どうにかなってもいいぞ」


 俺は笑う。


 リリアナも笑い、俺たちは楽しく朝食を取った。


***


 朝食後、俺たちは中庭に出た。


 噴水の縁に座り、お茶を飲みながら話す。


 空は青く、雲一つない。神殿の結界の中だけは、こんなに天気が良い。


「ねぇ、ユート」


 リリアナがお茶を飲みながら話しかけてくる。


「これからの予定、どうする?」


「そうだな...」


 俺は少し考える。


「まずは、能力の完全覚醒を目指したい。今は四つの能力が部分的に使えるだけだから」


「【絶対防御】、【万物破壊】、【創世再生】、【神域創造】の四つね」


「ああ。残りは【時空転移】と【次元跳躍】だ」


 リリアナは真剣な顔で頷く。


「私も、もっと強くならないと。あなたの隣で戦えるように」


「お前は十分強いよ」


「ううん、まだ足りない」


 彼女は拳を握りしめる。


「この前の戦闘でも、あなたに守られてばかりだった。次は、一緒に戦いたいの」


「...分かった」


 俺は彼女の決意を尊重する。


「じゃあ、今日は新しい訓練法を試してみるか」


「新しい訓練法?」


「ああ。『創造神の叡智』に書いてあった、『精神と肉体の同調』という技術だ」


 リリアナは興味深そうに目を輝かせる。


「どんな訓練なの?」


「簡単に言えば、瞑想を通じて体内の魔力を完璧に制御する訓練だ」


「面白そうね。やってみたいわ」


「よし、じゃあ午後からやろう」


 俺たちは、午後の訓練を楽しみにしながら、お茶を飲み続けた。


***


 午後になり、俺たちは訓練場に来ていた。


 広い空間の中央に、俺とリリアナが向かい合って座る。


「じゃあ、始めるぞ」


「うん」


 俺たちは目を閉じ、呼吸を整える。


 深呼吸。


 吸って、吐いて。


 体の力を抜き、意識を内側に向ける。


 体内を流れる魔力を感じ取る。


 心臓から流れ出る魔力。それが全身を巡り、また心臓に戻っていく。


 その流れを、一つ一つ追いかける。


 指先まで、足先まで、髪の毛の一本一本まで。


 全ての魔力の流れを把握する。


 そして——


 不思議なことが起きた。


 リリアナの魔力を感じる。


 彼女の体内を流れる魔力が、まるで自分のもののように分かる。


「これは...」


 目を開けると、俺とリリアナの間に、光の糸が見えた。


 無数の光の糸が、俺たちを繋いでいる。


「ユート、これ...」


 リリアナも目を開け、驚いた顔をする。


「魔力共鳴だ」


 俺は『創造神の叡智』で読んだ知識を思い出す。


「深い絆を持つ者同士でしか起きない現象。お互いの魔力が共鳴し、能力を増幅させることができる」


「すごい...」


 リリアナは光の糸を見つめる。


「こんなこと、初めて」


「俺もだ」


 俺は手を伸ばし、光の糸に触れる。


 温かい。


 そして、リリアナの想いが伝わってくる。


 愛情、信頼、そして少しの不安。


 全てが、手に取るように分かる。


「リリアナ...」


「ユート...」


 俺たちは立ち上がり、抱き合う。


 光の糸が、俺たちを包み込む。


 魔力が共鳴し、体中に力が満ちていく。


「これなら...もっと強くなれる」


「うん...一緒に、強くなろう」


 俺たちは、しばらく抱き合っていた。


 この感覚を、忘れたくない。


 この絆を、永遠に保ち続けたい。


***


 夕方になり、俺たちは訓練を終えた。


 疲れた体を休めるため、神殿の地下にある温泉に向かう。


 この温泉は、数日前に発見したものだ。魔力を含んだ湯で、疲労回復に最適だ。


「ふぅ...気持ちいい...」


 リリアナが湯船に浸かりながら、幸せそうに呟く。


 俺も隣に座り、湯に浸かる。


 温かい湯が、体の芯まで温めてくれる。


「今日の訓練、すごかったわね」


 リリアナが話しかけてくる。


「ああ。魔力共鳴は、予想以上だった」


「これを使えば、もっと強い敵とも戦えるわね」


「ああ。でも、使いすぎには注意しないと」


 俺は『創造神の叡智』の警告を思い出す。


「魔力共鳴は、お互いの魔力を消耗する。使いすぎると、二人とも倒れる危険がある」


「そうなのね...気をつけないと」


 リリアナは真剣な顔で頷く。


 その横顔を見て、俺は改めて思う。


 彼女は、本当に美しい。


 12歳という年齢だが、既に美しい女性の片鱗を見せている。


 金色の髪は湯気で少し湿り、サファイアブルーの瞳は湯の熱で潤んでいる。


 そして——


 裸の体。


 まだ成長途中だが、確かに女性の体つきになり始めている。


 小さな胸の膨らみ。


 滑らかな肌。


 細い腰。


「ユート...じっと見ないで...」


 リリアナが恥ずかしそうに体を隠す。


「ご、ごめん」


 俺は慌てて目を逸らす。


 だが、視線は自然と彼女に戻ってしまう。


「でも...綺麗だなって思って」


「もう...」


 リリアナは顔を真っ赤にする。


 だが、嫌そうではない。


 むしろ、嬉しそうだ。


「じゃあ...私も、見てもいい?」


「え?」


「だって、ユートだけ見るのはずるいわ」


 彼女は恥ずかしそうに、でも好奇心に満ちた目で俺を見る。


「...いいぞ」


 俺は覚悟を決める。


 リリアナは、ゆっくりと俺の体を見つめる。


 俺の体も、修行のおかげで筋肉がついてきている。


 まだ子供の体だが、確実に成長している。


「ユート...かっこいい...」


 リリアナが小さく呟く。


「そ、そうか?」


「うん...すごく」


 彼女は俺に近づく。


 そして——


 俺の胸に手を当てる。


「ドキドキしてる...」


「お前がいるからな」


「私も...ドキドキしてる」


 彼女は俺の手を取り、自分の胸に当てる。


 小さな膨らみの下で、心臓が激しく鼓動しているのが分かる。


「リリアナ...」


「ユート...」


 俺たちは見つめ合う。


 そして——


 唇が触れ合った。


 温泉の中でのキス。


 湯気に包まれて、時間が止まったように感じる。


 舌が絡み合い、唾液が混ざる。


 お互いの体を、優しく撫で合う。


「んっ...ふぅ...」


 リリアナが甘い吐息を漏らす。


 その声が、俺の理性を揺さぶる。


 このまま、もっと...


 だが——


「リリアナ...これ以上は...」


「...そうね」


 彼女も分かっている。


 俺たちはまだ12歳だ。


 これ以上進むのは、早すぎる。


「でも...いつか...」


 リリアナが恥ずかしそうに俺の胸に顔を埋める。


「いつか、全部...あなたに...」


 その言葉の意味を理解して、俺の顔も熱くなる。


「...ああ。その時を、楽しみにしてる」


「私も」


 俺たちは抱き合ったまま、しばらく湯に浸かっていた。


***


 温泉から上がった後、俺たちはリリアナの部屋に戻った。


 体を拭き、服を着る。


 だが、まだ体は火照っている。


 温泉のせいだけではない。


 お互いへの想いが、体を熱くしている。


「ユート...」


 リリアナがベッドに座り、俺を見つめる。


「今夜も...一緒に寝てくれる?」


「ああ、もちろん」


 俺も隣に座る。


 リリアナは俺の腕に抱きつく。


「あなたの隣だと...安心して眠れるの」


「俺も同じだ」


 俺は彼女を抱きしめる。


 柔らかい体。


 甘い香り。


 全てが、愛おしい。


「リリアナ、愛してる」


「私も...愛してる、ユート」


 俺たちはキスを交わし、そのままベッドに横になる。


 抱き合ったまま、眠りにつく。


 幸せな一日が、静かに終わっていく。


***


 遠く離れた神界では——


 武の女神アルティナが、水晶球を覗き込んでいた。


 そこには、ユートとリリアナが抱き合って眠る姿が映っている。


「ユート様...」


 彼女の瞳から、涙が零れる。


「お幸せそうで...良かった...」


 だが、その心は複雑だった。


 嬉しさと、嫉妬と、寂しさが入り混じっている。


「私は...ずっと待っています」


 彼女は水晶球に手を当てる。


「何千年でも...何万年でも...」


「いつか必ず、あなたは戻ってくる」


「その時まで...私は待ち続けます」


 彼女の想いは、誰にも届かない。


 ただ静かに、愛する人の帰りを待ち続ける。


 それが、彼女の選んだ道だった。


***


 一方、ウォーカー侯爵家では——


 母エリザベスが、自室で祈りを捧げていた。


「慈愛の女神メルシア様...どうか、息子ユートをお守りください...」


 彼女の頬には、涙が伝っている。


「私は...弱い母親でした...」


「息子を守れなかった...」


「でも、どうか...どうか...」


「彼が幸せでありますように...」


 彼女の祈りは、夜空に溶けていった。


 だが、その想いは確かに、遠く離れた息子に届いているのかもしれない。


***


 朝日が昇り、新しい一日が始まる。


 ユートとリリアナは、今日も一緒に目覚め、一緒に朝食を取り、一緒に修行をする。


 幸せな日々。


 だが、この平和がいつまで続くかは分からない。


 だからこそ——


 今を大切に生きる。


 二人で、共に。


「さあ、今日も頑張ろう」


「うん!」


 俺たちは手を繋ぎ、訓練場に向かった。


 希望に満ちた笑顔で。

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