第九章 かぐや姫、月を見て涙す

かぐや姫昇天から一か月前の夜———竹取の翁の屋敷にて


 月を見上げては泣いているかぐや姫の揺れる小さな背中を見て、田人は己の無力さを痛感していた。

かぐや姫は田人の足音に気付き、気恥ずかしそうに涙を拭う。

「ああ・・・つい感傷的になってしまって」

「かぐや様、これまで準備してきたのは、この時のためだったではありませんか」

「・・・この地にたどり着き、二十年もの時がありながら力及ばず。そなた達まで巻き込んでおきながら」

「巻き込んだなどと!そのような!」


激高する田人に向き直り、優しく諭すような微笑みを浮かべるかぐや姫。

「今の力では、反攻どころか彼らの機嫌を損ねる程度。そうなれば、この地は気まぐれに焼き払われてしまうでしょう」

「心は決めております。命じてください」

「できません」

かぐや姫は田人の悲壮な決意に満ちた目を、真剣な目で見つめ返した。


危うい。


田人は本心で言っているのだと、おのずとわかってしまう。


その、もの悲し気な表情を浮かべるかぐや姫を見て、田人は語気を強める。


「希望を捨てたのですか!?」


 その言葉を聞いて、驚く顔をするかぐや姫。

絶望的な状況がそうさせていたのか、自身の無力さに打ちひしがれていたためか。

いつの間にか意志まで萎えていたことに気付いたのであった。


「・・・希望・・・」

その言葉一つ、それだけで、全身に力が戻ってくるのを感じる。


「そうですね・・・嘆いている時間など・・・ない」

 かぐや姫の顔に、以前のような柔らかな笑みが戻っていく。

「もう、大丈夫。希望は絶対に捨てません。だからこそ、タビトも命を粗末にするようなことを言わないでください。必ず機会は訪れますから」

「では・・・その機会とは・・・いつ・・・いつだとおっしゃるのですか・・・」

 田人の固く握られた手が震えている。

かぐや姫と同じく、いやそれ以上に、田人は自身の力不足を悔やんでいた。


思わずあふれた涙が田人の頬を伝う。かぐや姫は優しく声をかけた。

「・・・あなた達だけでも、守ってみせます・・・」

かぐや姫のか細い指が、田人の頬に触れる。



———あのように無様に泣いて、慰められて、嬉しかったか?

思い出すたびに、田人は身悶える。



 この記憶こそが田人の心に刻まれた呪いとなっていた・・・

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