第八章 翁、大いに喜ぶ

 さて、田人が竹取の屋敷まで送られてきた頃には、既に日が高く昇っていた。田人は従者一人一人に丁寧に頭を下げ、礼を言っている。

「どうかお気をつけて・・・」

 皆、満面の笑みで、大きく手を振り来た道を戻っていく。なんとも気持ちの良い人々であった。


 振り向くと、屋敷の門前になまめかしい少年の姿があった。この少年は、かぐや姫が作成した機械人形、その名をイロハという。見た目は少年だが、その顔は、どこかかぐや姫の面影がある。

 それもそのはず、かぐや姫は自分の顔を元に機械人形のかたちを造形をしたため、まさに幼き日のかぐや姫という面持ちをしている。とは言え、瞬く間に成長してしまったかぐや姫であったから、翁や媼ですら、その当時の面影として記憶にとどめてはいるものではない。

 なぜ少年の姿をしているかと言えば、当初、かぐや姫は田人の姿を元に機械人形を作成しようとしていたのだが、造型の段階において田人に顔の型を取らせてほしいとお願いしたところ、言葉ではとても言い表せないような嫌な顔をされてしまったので、急遽自分の幼き頃を思い出しながら造型することにしたのだ。


「おう、どこぞの大臣の御成りかと思ったぞ。随分と立派な、分不相応な装束だな」

「イロハか。昨日は長引いたため、貴人の屋敷に泊めさせていただいた。この装束はその、御子みこの衣をお借りしたものだ」

「どうでもいいが、じじいが首を長くして待ってるぞ」


 かぐや姫が昇天した日以降、娘を失った翁と媼は目を真っ赤に腫らし、食事もとらず、嘆き暮れていた。そんな時、田人は家の者を集め、かぐや姫の奪還計画を伝えた。最初は翁も媼も単なる気慰きなぐさみと捉えていたが、制作中であるという飛車を見せられると、すわ、本当の事かと信じるようになった。

 娘にまた会えるかもしれない・・・そんな希望が芽生えると、二人はまた、元気を取り戻していった。そんな折に、翁の元へ、帝からの招集の書状が届いたのであった。

「これは思し召しじゃな。帝の力をお借りできれば心強いだろう」

「はい!」

 

 翁は田人のために、帝の前に出ても失礼のないようにと着物を整えてくれた。そして、過去の自分と同じような恥をかかないよう、参集の日まで熱心に、高貴な方々の礼儀作法を教え込んでいたのであった。


 その翁、昨晩は田人の帰りをまだかまだかと、やきもきして待っていた。今朝も早くから田人を待ちわびていたので、田人の姿を見て元気に駆け寄ってくる。

「田人、無事であったか」

「はい。帝から、かぐや様奪還への協力も取り次いでまいりました」

「おお!そうか、これはめでたいぞ!・・・帝はどうであったか?」

「習いました通り、並みの人間だと思うことで、平静に話すことができました」

「ふふ、よくぞ。帝の御前で子が堂々と具申するなど、実に痛快」

 なによりこの協力を取り付けられたのは、かぐや姫がかつて懸命に、文で帝に協力を要請し続けていた賜物だと、皆で喜び合った。

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