第十二章 工匠、力を盡す
現在、資源の採掘や輸送、工匠への技術的な指導などはウタが担当し、都々弥が補助をする、という形で受け持っている。月の技術と帝から提供を受けた工匠や
「地形図の分析によると、ここに大規模な資源の可能性があると」
「輸送船の動力に月の技術を応用できないか?」
「現地である程度素材を
一年が経つ頃には、採集範囲は今や国外にまで広がっていた。そうなると新たな問題も発生してくる。効率と危険性、希少性と困難さ、これらをどう判断し、限られた人員をどのように配分していくか。海を渡ってしまえば言葉も違い、帝の
その日はウタと都々弥が、海を渡った場所にある新たな
「・・・残念だったね」
「仕方ありません。現地の人々から神聖視されている山のようですから」
「神様を信じる気持ちも分かるんだ」
「信仰心はないので理解はできませんが、人々にとって大事なものだと把握しています。不要な摩擦は効率的要素ではありません」
「なんかウタ、話し方がもう変じゃなくなった」
「これはツヅミのおかげです。学習の成果が出ているようです」
「ふふ、ウタが頑張ったからだと思うよ」
「ありがとうございます。かぐやの調査結果によれば、まだまだ候補地はあります。次に期待しましょう」
「そうだね。頑張ろう!」
「変と言えばもう一つ、これは学習の成果かどうか分かりませんが、最近は夢を見るようになりました」
「えっ!?ウタ、夢を見るの!?」
「はい、力を蓄える際に休止しているのですが、その時に」
「ど、どんな夢!?」
「はい。理想的な男性と出会い結ばれる、という夢です」
「すごいすごい!えーっ!ウタが!?聞きたい!聞きたい!」
「では・・・」
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母なる星に別れを告げる時が来た。我々の船は新天地に向かう。眼下に広がるヴィスペラの姿もこれが見納め。私の研究が完成していれば防げたのか・・・悔いが残る。
もうじき着くという。人々の不安そうな顔が少しだけ晴れる。それにしても月の技術力は興味深い。このような形で月に訪れることとなるとは。そんなことを考える私はまだ、研究に未練がある。艦内で諍いが起こった。あの者たちは何者だ。星の者ではない。粗暴なふるまいが目に余る。
月に到着する。移民管理官として歓待の席に出席したが役人が賄賂を要求してきた。これは一体どういうことであろうか。話が違う。我々にもう帰る場所は無いというのに・・・我々を臣民として受け入れるのではなかったのか。下船が一向に進まない。選択を誤ったか。いや、我々に、選択肢などなかった・・・
ノクトーが捕まった!下船の際、役人ともみ合いになったらしい。無事を祈るしかない。下船は遅々として進まなかった。子供の泣き声がやまない。人々が説明を求めてくる。しかし、私自身も事態を把握していない。申し訳が無い。
全員が下船できた。収容所へ赴くが、弟の姿は無い。故郷の宝石も接収されてしまった。一つ、今日は役人たちの立ち話を盗み聞ぎしてしまった。私の疑念は確信へと変わった。賄賂の要求や家族の引き離し、それに、あの粗忽者共は、星間逃亡犯である可能性が出てきた。収集した情報を克明に記録しておく。他の星にこの有様を伝えるために。この日記は厳重に秘匿しなければならない・・・
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「待って?」
「何でしょうか?」
「今のは?」
「夢です」
「・・・思っていたのと全然違う・・・」
「違ったのですね」
「理想の相手との出会いがどうとかって」
「続きがありますので」
「・・・ここからそんな話になる・・・?」
「装置にも解析してもらいましたが、これはウタの部品の中に込められた開発者の記録が休息中に出現しているのではないかと」
「ってことは、ウタ自身の夢でもない・・・知らない人の手記を勝手に覗き見ているみたいで悪い気が・・・」
「ではやめておきましょう」
「いや、今のは無し。折角だからもう少し聞かせて」
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初めて月の都の表層にでる。上空の黒い天幕。あれが結界。明日から役務だと言い渡された。我々は奴隷としてこの星に来たのではない。弟は、人々は、無事なのか。空を見上げても、無機質な闇が覆うばかり。
移民の入管において不正を指示していた人物が捕らえられたらしい。今日は親衛隊を名乗る人々が我々の護送や給仕にあたっていた。彼らは非常に親しみやすく、敬意にあふれている。ここに来て初めて、人として扱われた心地だ。温かい食事は何日ぶりであったか・・・
新たな住居に案内される。月の住居事情はなかなか大変なようで、しばらくは相部屋とのこと。係の人に頭を下げられる。引き離されていた家族たちが再会を喜んでいた。こちらまで心が温まるようだった。これで移民管理の仕事はひと段落である。しかし、ノクトーが帰ってこない。生きていて欲しい。
今日から働き先を探し始めたが、移民にはまだまだ、就ける職種が少ないと言われる。月の民ですら、仕事がない人々がいるようだ。住居、働き口。これだけ進んだ文明でも、このような問題があるとは。
図書館の管理員の仕事に就く。管理員と言っても、庭園や装飾の生花の世話と清掃が主であるとのことであり、蔵書は月の民しか閲覧できないそうだ。
図書館はとても素晴らしい場所であった。月の民の子供に見つめられた。やはりヴィスペラ人は珍しいのだろうか。会釈をしたが逃げられてしまった。月の言葉ももっと勉強しなくては。
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「・・・あの、ウタ」
「はい」
「出会いの場面から話してもらえるかな・・・」
「わかりました」
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ついにやってしまった・・・月の都の研究所の論文。あの論文自体が引力を持っていたのだ。足が勝手に近寄り、手が勝手に資料を開き、目が勝手に見て、脳が勝手に没頭した。ああ、おしまいだ。いくつか尋問をされた。彼は私をどうするつもりだろうか。気が重い。
誰が決めたのかは知らないが、日記はその日の始まりに書いてはいけないらしい。しかし、私は今日、戻ってこれないだろう。ああ、ノクトーよ、先立つ姉を許して。あなたが先に死んでいたら許しませんが。この日記はルクスに預ける。迷惑がかかるようなら廃棄してほしいと。
私は今日を生きることが出来た。いや、重要なのはそこではない。この胸の高鳴り、もしかして・・・ああ!日記は前日に書いてもよいこととした。なぜなら、この気持ち、明日の夜まで綴らないなど、耐えられる気がしない。少しでも吐き出しておかないと、頭が破裂してしまう。
ああ、眉月の君。私がどれほど感動したか、あなたに伝わっているのでしょうか。
彼は私を誰もいない部屋へ連れ込みささやいた。「ここでなら、誰にもはばかられず、思う存分」花開く、私の研究成果。めくるめく、月の研究資料。彼の鋭い指摘に、私の理論は慌てふためく。ああ、こんな幸せでいいのだろうか。ヴィスペラの夢が月の技術ととけ合う。彼は私の研究動機を聞いて、優しく微笑む。そう、私は、質量を失い崩壊する、母なる星を救いたかったのだ。
彼の研究動機も聞かせてくれた。結界は、前文明の遺構であり、既に失われた技術であると。その技術を解析するために、彼は研究をしているという。あれは月のレガリアと、皆が思い込んでいる。私が見ていい資料ではないはずだ。発覚して彼が責めらるようなことがあれば、私は耐えられない。
宇宙の収束と展開。圧倒的な重力の嵐に耐えた彼らが、この宇宙に多様性を生み出している。
いかにして乗り越えたのか。それこそが彼の研究に役立つのではないか。
私たちの楽園は暴かれた。甘き日々は終わりを告げた。幼き姫は、私たちの研究を素晴らしいと、私を臣民だと言ってくれた。ああ、私はどうなってもいいのです。彼に災厄が及びませんように・・・
仕事を辞めた。彼に迷惑はかけられない。
眉月の君が現われる。幼き姫の働きかけにより、移民の権利が認められることとなったと。そして・・・彼は私の手を取り言った「そのためには月の民の保証人が要る。私はあなたを、妻として迎えたい」と・・・ああ、幼き姫、貴方へのご恩は生涯忘れることはありません。
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「・・・これは結ばれた・・・ってことでいいの?」
「はい、いかがでしたか」
「・・・結ばれて良かったとは思うんだけど・・・もっと、わかりやすく話してもらえると・・・」
「わかりました。続きを見たらそのように試みてみます。ツヅミにはまだ、早かったいうことですね」
「・・・うん、まぁ・・・楽しみにしておくよ・・・」
「はい、この話は是非、かぐやにも聞かせてあげたいと思っています。きっと喜ばれると思いますので」
「・・・前から思ってたんだけど・・・」
「なんでしょうか?」
「何でウタって、かぐや様を呼び捨てにするの?まぁ、イロハは前からそうだけど・・・」
「ツヅミがそのようにしろと」
「え・・・?そんなこと言ったっけ・・・?」
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