第五章 求婚者、大いに戸惑う

 日が暮れる頃、相も変わらず五人の公達が集まってきた。彼らはかぐや姫の興味を引こうと、それぞれ笛を吹き、歌をうたい、扇を鳴らすなどしている。


 翁は手控えを読み返しながら、伝えるべき内容を心の中で繰り返した。不安でしかない。しかし、これまでの音沙汰の無い状況よりはましではないか?

 そう思うと、心に勇気が湧いてきた。その勢いのまま、公達の前に姿を現した翁。恭しく礼をし、話しを始める。

「恐れ入ります。このような見苦しい所に、長年通っていただき、心からお礼申し上げます・・・娘に、我の命あるうちにお相手を決めるようにとお願いしましたところ、皆様の中で珍しい品をお持ちいただいた方にお会いする。どなたにお仕えするかは、それで決めましょうと申しております」

「おお!」

「その珍しいものを持ってきたものと、婚姻すると」

「なるほど、試そうというのだな」

「望むところだ」

「それでは、姫は、一体何をご所望かな?」

 

 翁はまず、一人目の求婚者に伝えた。

「石の粉を熱い炉で焼き固めたもので、美しく光り輝くという・・・」

「ん?石を・・・炉で焼いた・・・宝物・・・?」

「とてもありがたきものと・・・」

「・・・ありがたきもの?焼き物、もしや、『仏の御石みいしはち』のことであるか?」

「おお・・・」

 これには他の四人も驚いた。仏の御石の鉢と言えば、釈迦しゃか様が用いたとされる、そもそも実在するのかもわからない程の有難ありがたい宝物。・・・もしかすると、このような難しい宝物を要求されるのかと、四人は身構えた。


 一方の翁、やはり教養のある方には伝わるものなのだなと感心している。これなら行けるぞと、安心して二人目に話しかけた。

「二つ目は、東の海、そこでとれます、銀色の宝物です」

「東の海、銀色の宝物・・・」

「え、ええ・・・朽ちることない銀の・・・ほら」

「朽ちない・・・不老不死・・・蓬莱ほうらいの玉の枝のことか?」

「おお!それです、きっと」

「きっと・・・?」

「あ、いえ、何でもありません」

 深く追及されては困る。考え込む求婚者を尻目に、そそくさと次へと説明を進めていく翁。

「三つめは、軽くとも丈夫で、火でも燃えない布、と」

「布の宝物・・・火でも燃えない・・・となると『火鼠ひねずみかわぎぬ』のことであろうか?」

「ひねずみ・・・?」

「ん?」

「いえ、流石でございます」

 かぐや姫が欲しているのは、伝説的な宝物ばかり。そして、いかにも怪しい翁の言動。これは単純に、ていの良いお断りなのではと皆が思い始めていた。


 そのように、次第に険しくなっていく公達の表情を見て、翁は肝を冷やす。 かぐや姫が、この方々ですら手に入れることが難しい、珍しい物を要求しているのではなかろうか。いや、それとも、自分の説明があまりにもまずいのか・・・

 恐る恐る次の求婚者を見てみると、こちらを鋭くにらんでいるではないか。翁は思わず目をらしてしまった。

「次は・・・海にてとれる、五色の玉・・・」

「・・・」

沈黙する翁。求婚者はいぶかしげな表情で翁を見据えている。

「その手控え、見せてもらえるか」

「あっ、これはっ・・・いえ、どうぞ・・・」

 断ろうとした翁であったが、気迫きはくに押され、差し出してしまう。

「なんだこれは・・・黒、白、赤、青、黄。五色の球・・・となると『たつの首のたま』のことであろうか・・・海の底とは龍の寝床か?」

手控えを取り上げられてしまった翁は、冷や汗をかきながら顔色を窺っている。

「さてさて、残るは・・・これを見るに・・・難しいな・・・なにをお持ちすればよいということか」

最後となる求婚者が、手控えを覗きこむ。

「どれどれ、失礼・・・お守り、燕・・・これだけでは。もう少し詳しくは、何かないだろうか?」

「いえ、教えてしまっては他の方たちに公平ではなくなってしまうので」


 神代じんだいから今日に至るまで、これ以上苦しい言い訳もなかなかない。しかしこの求婚者は、翁を追求しようともせず真剣に考え込んでいる。どうやらこの推測自体も、試練なのではと勝手に思いこんでいるようだ。

やがて、はっとした顔をして、

「『燕の子安貝』のことではないか!?」

と言う。

「お気づきになられましたか」

翁ももう、やけくそになっていた。


公達たちはその後、円を組み何やら相談をしている。

翁は耳をそばだてた。

「どのように考える?やはりていの良いお断りか?」」

「全員お断り、ということだろうな。誰かに肩入れしているようにも思えん」

「これなら、もう来るなと言ってくれれば話が早いものを」

「振られたと思う他ない・・・まぁこれで区切りがついた」

「それが賢明でしょう。世の女はかぐや姫だけではありません」

などと慰め合いながら、肩を落とし、仲良く都へ帰っていくではないか・・・


 ところが・・・公達たちは自分の屋敷へ帰戻ると、思い思いに宝物探しの支度を始める。口裏を合わせはしたが心は裏腹、抜け駆けしてやろうという魂胆だったのだ。

 年中屋敷に通い詰めた執念は、容易く散華さんげするものではなかったらしい。


「どのようになりました?」

かぐやが期待に満ちた表情で、あっけらかんと聞いてくる。

 翁はてっきり、かぐや姫は無理難題を吹っ掛けて断りたいだけだと思っていたが、このように駆け寄り結果を知りたがるかぐや姫を見て、本心がいよいよわからなくなってしまう。

「・・・はい、伝えておきました。皆、とぼとぼと帰っていきましたが」

「・・・そうでしたか・・・」

「それにしても人が悪い」

「え?」

「伝説の物ばかりお求めになったでしょう。」

「伝説の物?」

「仏の御石の鉢、蓬莱の玉の枝、火鼠の皮衣、龍の首の玉、燕の子安貝。これらはすべて、伝説級の代物しろものと聞きましたが・・・」

「あの・・・何でしょうかそれは・・・」

「あっ・・・違ったのですか?」

「いえ・・・あの素材たちをそのように呼んでいるのでしょうか・・・風情があるというかなんというか・・・」

「やんごとなき方たちのこと、思い違いはないはず。しかし、そう易く手に入るものではない物のような様子で・・・」

「確かに・・・難しいものかもしれません。ただ、大切なのは、どのように課題に立ち向かおうとするのか、その熱意だけでも見せていただければ」

困ったような表情をするかぐや姫に、翁は懇願こんがんするように言う。

「もし宝物を持ってくる方がおられば、その深き心にお応えすべきです」

「ええ、そのつもりです!こちらこそ、是非ともお願いしたい」

「おお!」

その言葉を聞いて、翁はこれで少なくとも公達との約束を違えることはなくなったと、胸をなでおろすのであった・・・

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