第7話 不届者

 青年は恭しく右手を左胸にあて礼をする。

「魔王様から派遣されました案内役です。勇者様と聖女様をご案内すべく参りました。」

 ジロリと護衛のはずの男を見る。そして平手打ちされたアリスを見て一言。

「聖女様が怪我をされているようですが、これはどういう事ですか?ご説明していただけますよね?」

 男は一瞬鼻白んだが、青年の姿を見て態度を変えた。

「ハッ!テメェにゃ関係ねーよ。オレ様が女の悦びってやつを教えてやろうというのに逆らったから教育してただけだ。言うこと聞かねえやつには、殴ってわからせるってだけ。奴隷躾けるのと同じようなもんだろ。」

「奴隷?…失礼ですが、貴方の名前を知らないのですが、奴隷をお持ちで?」

 内心の怒りを隠し、そう問う。

「うるせえ!このガッソ様はなあ、王太子殿下に奴隷供給してるから、その辺にゃ詳しいんだよ。」

「ほぉ、ではガッソ様とおっしゃいましたか。奴隷商なのでしょうか?」

 ガッソは鼻で笑いながら

「バカか、そんなもん、帝国にちょっと入りゃいくらでも捕まえられんだろ。簡単なもんさ。」

「それは違法に奴隷としている、と言うことですかな?」

 部屋の空気が変わる。青年の後ろ、壊れた扉の向こうで、何人かの護衛騎士たちが叫んでいるようだが、この部屋の中には聞こえてこない。防壁を作らせてもらった。ガッソはその事実に気づいていないようだ。

「違法だろうが、証拠も証人もいなけりゃ問題ねえさ。テメェも黙ってりゃいいんだよ。」

「おや、それは国王も認めてると言うことですかね?」

「あぁ!?んなもん知るか!ここではオレ様が王の代理だ!テメェはオレ様の言うこと聞いてりゃ良いんだ!」

「ふむ。魔王様から遣わされたワタシに対する態度からして、魔王様に対する宣戦布告と捉えて良いのですね?しかも国王の代理だと言う…それで合ってますか?アルミナ国王よ。」

「ハァッ!?」

『誰もそんなことは認めていない。』

 アルミナ国王の声が響く。

「な、なにが…」

 ガッソが青い顔をして呆然と立ち尽くす。

「では、ミッドガル帝国への不法侵入と帝国民の拉致、不当な奴隷化に、その奴隷化した帝国民への虐待については、どのようにお考えで?少なくとも王太子殿下は主体的に関わっているようですが?国家ぐるみで行っていると捉えてよろしいか?」

『い、いや、それは…』

「では、そちらに関しては後日、事実関係を過去に遡って明確にしていただきましょう。隠蔽工作などするようであれば、国家ぐるみで行っているものとして、国王に責任を取っていただかないといけませんので。

 ちょうど良いところに、証人もいるようですし、ね。」

 青年はガッソに目をやる。

「あ、そうそう。このガッソという男には、勇者と聖女に対して不当な扱いをしようとしていたようなので、それ相応の罰を与える事になりますが、アルミナ国としては問題ありますかな?」

『いや、問題ない。』

「では、遠慮なく…」

 ボンッ!

「ギャー!!」

 何かが破裂するような音と共にガッソが悲鳴を上げ、泡を吹きつつ白目になって気絶した。

 見ると、股間の辺りが血だらけになっている。

「このままでは女性の貞操危機だと判断し、完全に去勢させていただきました。命に別状はありませんので、証言は引き出せるはずです。重要な証人ですから、安易に死なせたりして証拠隠滅とならないように気をつけてくださいね。

 次にご連絡させていただく時に、事実関係が明確になっていることを期待しますよ、アルミナ国王。」

『わ、わかった。約束する。』

 結界が解除され、廊下にいた護衛騎士たちが雪崩れ込んだ。隊長らしき男が青年に対し敬礼し

「護衛騎士隊、隊長のサムソンと申します。私が責任を持ってこの男を護送し、経緯含めて明確にさせていただきます。お手数をおかけして申し訳ありませんでした。」

 と頭を下げた。

「サムソン殿、お願いいたします。ワタシはこのまま、勇者様と聖女様をご案内させていただきます。」

 そして、震えて蹲っていた勇者と聖女に跪き小瓶を二つ取り出した。

「お迎えが遅くなり申し訳ありません。お二人ともお怪我をされているようなので、こちらの回復薬をご使用ください。」

 アリスの頬だけでなく、カオルの掴まれていた手首も痣になっていた。二人に小瓶を渡すと

「申し遅れました。ワタシは案内役に選ばれましたノーマと申します。よろしくお願いいたします。」

 そう言って、二人にだけわかるようニコリと笑ってウインクして見せた。

 

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