第11話 冒険者コウ、魔法使いと出会う
再び冒険者ギルドの門をくぐった。
昨日の騒動が嘘のように、朝のギルドは静かだった。
スムーズに受付へとたどりついた。
「冒険者登録をしたいんですが」
俺の異世界知識によれば、まずはこれが正しいはずだ。
「はい。ではこちらに…」
受付の女性に従って俺は書類を整えることになった。
言葉が何故か通じるように、文字も何故か読める。自分が書くべき文字もイメージできる。
「そんなの当たり前でしょ。コウくんは異世界に転生して、チート能力も手に入れたのよ。言葉と文字の変換能力もその一部よ。言わなかった?」
(聞いてねえよ。質問もしなかったけどな)
俺はサティアにだけ聞こえるように、心の中でつぶやいた。
名前を書く欄には「コウ」とだけ書いた。それについてはもう自分でも納得している。問題はその後だ。
俺は能力とスキルの項目を睨みつける。
「コウくん、そこにスピリチュアルって書きなさいよ。格好いいわよ?」
断る。そんな怪しい単語を書いた瞬間、俺の社会的信用はゼロになる。
それより、何か俺に言い忘れているスキルとかないのか? 実は俺も魔法が使えたり……
「ないわ」
サティアの言葉に希望をへし折られた俺は項目を空欄のまま提出した。
そして俺は冒険者登録証を手にした。
俺の名前と、F級という印、そして「イケリア冒険者ギルド」と書かれている。
この街の名前は「イケリア」というようだ。
「ありがとうございます。ところで実際に冒険者が魔法を使った練習をしているのを見ることはできますか?」
俺は受付の女性にそう尋ねた。
「魔法の練習? 演習場に行けばやってる人がいるんじゃないかしら。いいわ、暇だし案内してあげる」
その女性にに連れられてギルドの裏手にある演習場へと向かう。
広々とした土のグラウンドでは、数人の男女が訓練をしていた。
「ちょうどあそこに魔法使いの方々がいますね」
案内人が指差した先では、一人の男と一人の女が杖を構えていた。
どちらも杖の先には、親指ほどの大きさの宝石が嵌め込まれている。
「ハッ!」
男の掛け声と共に、杖の先から水が吹き出した。
それは水道の蛇口につないだホースから水を吐き出したように、放物線を描いて的に当たった。
水の圧力を受けた木の的がブルブルと震えている。
続いて、隣にいた女が「火よ!」と叫ぶと、数メートル先の的に向かって、火の玉が飛んだ。
火の玉は的に当たると、的に絡みつき、的を燃やし始めた。
的の表面が少しずつ黒く焦げていく。
「…………」
俺は、呆然とした。
「なんか……イメージと違うんですが。もっと、こう、ドカンと爆発したり、的を吹き飛ばしたりするような派手なやつはないんでしょうか?」
「ははは、派手じゃなくても十分役に立つんですよ。実戦でいきなり服に火がついたら、それだけで戦えなくなるでしょう?」
「まあ、それはそうなんですが……」
ハリウッド映画やアニメのような、ド派手な光景を期待していた俺には、あまりにも地味すぎた。
これなら、高圧洗浄機や火炎放射器の方がよっぽど威力がある。
「あ、あそこの彼。彼の魔法は派手ですよ。見ていてください」
案内人が指差した先に、薄汚れた白のローブを着た男が立っていた。
その男が杖を掲げると、バチバチ、と激しい音が響き渡った。
杖の先から青白い火花が周囲に散り、空気中に焦げたような匂いが漂う。
俺の期待が高まった、その瞬間。
パシッ。
的に向かって小さな電撃が走り、的を一瞬震わせた。電撃が当たった場所には黒く焦げ後がついていた。
「えっ、今ので終わりですか?」
「ええ。今の雷魔法が当たると、しばらく動けなくなりますよ」
「もっと、こう、的が粉々に砕け散るようなのはないんですか?」
「もちろん、A級冒険者や騎士団の方ならできますけど……単に的を吹き飛ばしたいだけなら、弓とか剣とか、物理的な武器を使えばいいんじゃないですか?」
「それはそうですけど、ロマンが……」
期待していた魔法という名のチートが、意外にしょぼい。
このしょぼさは何が原因だ? そもそも魔力量が小さいのか? それとも魔石デバイスが安物なのか? それぞれがイメージしている魔法陣が非効率なのか? 最後のやつなんかは無駄に火花が飛んでたし、絶対魔法陣がバグってるんだな。くそーっ俺も魔法スキルがあればもっといい魔法陣を描いてみせるのに…
俺が落胆していると、背後から下卑た笑い声が聞こえてきた。
「おいおい、にいちゃん。魔法がしょぼくて使いもんにならねえと思ってんのか? とんだ素人が迷い込んできたもんだな」
振り返ると、そこには二人の冒険者が立っていた。
「俺たちの仲間の魔法使いを侮辱されたのを聞かなかったふりはできないぜ。おいブラン」
彼らは先ほど「派手な」雷撃魔法を撃っていた魔法使いを呼んだ。
「一度魔法使いと戦ってみればいい。その余裕が、恐怖に変わるまで一秒もかからないぜ。ほら、ブランに教育してもらえ」
ブランと呼ばれた男が近づいてきたのと裏腹に、先程まで隣にいた受付の女性は知らない間に数メートルは離れていた。瞬間移動の魔法でもつかったのだろうか?
「……いえ、俺はただの見学で」
「いいから持てよ。ほら、練習用の木剣だ」
無理やり手に握らされたのは、ずっしりと重い木剣だった。
断る間もなく、周囲には野次馬が集まり始める。
名字を捨てても、やっぱりトラブルは俺を離してくれないらしい。
「一発当てるだけでいい。当たれば俺の負けでいいぜ、無能力者のにいちゃん?」
ブランという雷魔法の男は余裕たっぷりに杖を構えた。
俺は、この場をなんとか凌ぐために、この後に起こる最悪の出来事のシミュレーションを開始しなければならなかった。
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