第9話

火星、イシス基地


兵舎は普段と変わらず人が行き交っている


しかし、この男はどこか違和感を感じていたのだった


コリィは司令室の中、基地司令、グリム中佐を待つ


扉が開き、後眼に人影が映る


しかしそこに居たのは、中佐ではなく、拳銃をこちらに向ける、下士官の制服を着た男だった


「手を頭の後ろに回して跪け。」


男が銃を背中に突きつけ、指示する


と、


コリィは振り返り、男の腕を掴んで地面に組み伏せ、拳銃を奪い取る


「ぐ....クソっ......」


男の吐き捨てた言葉も気にせず、手錠をかけ、奪った拳銃を頭に突きつけ尋問する


「誰の命令だ。」


その問いに男は、


「フッ....命令?違うな。俺達の意思だ。」


と薄ら笑いを浮かべて答える。


「何が目的だ。」


威圧的な声で問う


「目的....?決まってるだろ。反逆者を拘束し、引き渡すんだよ。これで俺達は昇進し、給料も増えるってわけだ。」


この男もまた、困窮していた

厳しい状況の中、家族を養うために出た行動

しかしそれはあっさりと、失敗したかに見えた


「無駄だよ....今頃司令を拘束した俺の仲間たちが、輸送船でこの基地を離脱している.....」


その言葉を聞き、今日のこの時間、この基地から輸送船を出す予定があることを思い出した

コリィは血相を変え、男の首後ろを殴って気絶させ、AMSハンガーへと走る


「どけ!」


ハンガー内、整備員をどかし、戦闘可能状態であったゼクト改に懸架ワイヤーを使って乗り込む


機体を起動、1つ目が赤色に輝き、ペダルを踏み込んで前進させると、


「乗ってるのは誰だ!止めさせろ!」


と整備班長が声を上げる


『ゼクト改のパイロット、止まりなさい!出撃命令は出ていません!』


管制官がスピーカーで警告するが、コリィは


『非常事態だ!早くゲートを開けろ!』


自機のスピーカーで命令する


『しかし.....』


ゲートを開けない管制官にしびれを切らし、


『いいから開けろ!撃たれたいのか!』


機体に装備されていたロングレンジ・レールガンを管制塔に向けて脅す


それに屈したのか、メインゲートが開くと、コクピットから基地のカタパルトをAI制御に切り替える


そして3秒のカウント後、射出され、機体が加速、振動がシートに伝わる


地表に上がると、


スラスター出力を100%に上げ、上空まで飛翔、


「どこにいるんだ....?あそこか!」


レーダーで目標の輸送船を探知、補足後、スラスターを更かし、近くの崖の上に移動、着地する


「クソっ......でもここでやらないと......」


照準装置のロックを解除し、カメラを輸送船にズーム、単眼の頭部カメラが収縮する


コクピットレバーのジョイスティックを操作、輸送船のエンジンにレールガンの狙いを合わせた、その時、


グリム中佐の姿が脳裏に浮かぶ。


しかし、


「撃ってくれ、コリィ」


そんな声が、彼の耳の中で聞こえた気がした


「そうだな....きっと、そう言うさ......」


ひとり呟いたコリィは、トリガーに指をかけ、それを押し込んだ


レールガンの重厚な発射音が火星大気内に響き渡り、放たれた弾丸は輸送船のエンジンへと命中、爆発、炎上して墜落していくのが、カメラ越しに見えた


彼の目の端からは、一滴の涙がこぼれ落ちていた


コリィ大尉が墜落した現場に向かうも、そこには焼け焦げた匂いと、5つの焼死体があるだけで、そこに中佐の姿はなかった


そして、基地に戻った彼は、AMSハンガーに基地の軍人たちを集め、亡くなった中佐の計画、そして意思を受け継ぐため、壇上へ立った


「諸君!最初に言っておく。これは私が、基地司令であるグリム中佐の計画を、本人の承諾を得ずに受け継いだものである。私についていけないというものがいるなら、この場から離れてもらって構わない。」


そのやや不慣れな演説、その言葉に、彼らは困惑していた


しかし、AMSパイロットは誰一人、その場から動かなかった


「そしてその計画自体、内通者の存在が露呈した今、他部隊に察知されていると考えたほうが自然だ。じきにここにも鎮圧部隊がやってくるだろう。まだ計画の途上ではあったが_________


「こうなってしまっては今ここで!我々は立ち上がらねばならない!火星の民のため、そして火星の未来のために!」


その強弁に、指導者としての頭角を、彼は著し始めていた


そして、その場から動くものは整備員や食料、補給班も含め、誰ひとり居なかった


これが、後の歴史に名を残す、8月9日事件の序幕であった



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