第4話

2495年7月3日


-月面上空-


「10時の方向に反応。識別信号からして、連合の哨戒部隊でしょう。このままこちらへ向かってきます。」


レーダーに3つのブリップが写り、ブルーノ・デーン中尉が報告する


「このままやり過ごそう。交戦は極力避けろと言われている。」


後席の仮設シートに同乗するコリィ大尉が指示を送る


「了解。サイクロプス2から3へ、左へ回避、クレーターに隠れる。」


『ラジャ』


ブルーノ機がゲオルク機に無線通信で伝達、ゼクト改は左へ回避機動を行い、月面のクレーターに機体を隠す


しばらくの間無言の緊張がその場に漂う


ここで見つかってしまっては、蜂起計画自体が頓挫する可能性が高い


彼らは失敗するわけにはいかなかった


右に5km先では、敵機がたった今哨戒中なのだ


コリィ大尉が唾を飲み込み、コクピットのレーダーを覗き込む


そしてそのブリップを注視するブルーノ中尉の額には汗が滴っていた


ゲオルク中尉は大きく深呼吸をして、祈るように手を握った


そして敵機が後方20kmまで移動したことを、レーダーから確認すると


「よし、行こう」


大尉が再び指示を出す


『「了解」』


2機がスラスターをふかすと、砂煙が月面に舞う


真空空間のはずなのに、まるで轟音が聞こえてくるかのような迫力をもって


コクピットでは出力、エンジンの正常を伝えるAIシステムの音声が鳴り響く


そのまま上昇し、月面から離脱、AI姿勢制御システムによる補助で、サブスラスターをふかしながら、機体を前傾姿勢にし、前方に向かって加速してゆく


「やり過ごせたみたいですね」


緊張感の残る硬い声でブルーノが話す


「なんとかな。受け渡し時刻まであと1時間、30分あればポイントには到着するだろう。長居は無用だからな。」


コリィが時計を見て、落ち着いたように述べた


彼に新たなる宿命の出会いが、訪れることなど知らずに


月面上空、国際宙域を航行する戦艦ギャラルホルンは、整備のため月面都市のドッグへ向かっていた


「月か.......久々だな。1年前の演習以来か。」


オットー少佐が口にする


「10ヶ月前ですよ、少佐」


それを彼の部下、マリウス大尉が指摘すると、


「老耄にその指摘は野暮ってもんさ、大尉」


自分を嘲るかのように返した


そんな少佐に、


「まだ37でしょう。先は長いですよ。」


大尉はまた言葉を刺す


「励ましてくれると思ったんだが......」


少佐のその言葉を聞いて二人は、先までの空気がぷつんと切れたように笑い出す


その様子は、彼らが深い信頼関係にある、歴戦の戦友であることを示しているようだった


「いつも通りだな、大尉。親父さんは元気にしてるか」


硬さや威圧感の一切ない、親しみを込めた声で問いかける少佐に、


「ええ、バリバリ現役ですよ。まだまだ現場で働くつもりだそうで」


笑みを浮かべながら、彼は答えた


「この部隊のことだ、実家に帰る機会も少ないだろう。」


両親を案ずるその問いにも、


「仕方のないことですよ。それに、少佐にお供できるなら何よりです。」


少しの寂しさと心配を隠せない目で、大尉は返答した


「そうか。ありがとう。」


それを察したかのように、少佐は優しい顔で大尉に礼を述べた


少佐にとって彼はただの部下の一人ではなく、戦場を共にした仲であり、家族ぐるみでの交流のある、友人であった


彼らの所属するヴェルト軍宇宙機動打撃軍は、即応部隊としての性質が強く、艦上での勤務が主となる。

そのためAMSパイロットの練度は高く、宇宙のみならず、地上、水中などのあらゆる環境での作戦を遂行可能な能力を持つ。

長期間の航海や演習を行うことも多いため、パイロットやクルーが家族と過ごせる時間は限られる。


____________


月面、静かの海


ゼクト改2機は、上空からAI補正システムによる降下シークエンスを開始し、スラスターをふかし、砂煙を上げて月面へ着地した



「ポイントへ到着。受け渡しまであと28分か。ExA側に受け渡し準備はできていると送れ」


大尉が指示を送る


「了解、送信します」


指示を受けたブルーノは、網膜投影システムで、視線によりチャンネル選択、切り替え、AI通信システムによって文章を送る


3分後、ExA側の返答を受信


「時間通りに受け渡しを行う、その場で待機されたり、とのこと」


ブルーノ中尉が読み上げると、


「分かった。そのまま待機。照準システムのロックは解除しておけ」


と命令する。


コリィ大尉は、前に感じた違和感を恐れていた。

自分はいずれ死ぬだろう、しかしこの段階で計画が失敗してしまえば、全てが水の泡で、政府は火星への弾圧を強めるだろうと


「了解」


ブルーノはコクピットレバーを操作し、照準システムの安全装置を解除する


『unlock』


投影システムに表示され、武器システムの照準が可能となった


「見えました。ExA社の輸送船が接近中。護衛機などは見当たりません。」


レーダーに輸送船が表示され、ゲオルクが報告する


「無線通信が入りました。繋ぎます」


ブルーノが通信を繋ぐ


『こちらExA、受け渡し準備は完了。輸送コンテナをポイントに射出する。』


「了解した。」


大尉が返答すると、間もなく輸送船から円筒形のコンテナが射出され、月面へ降下していく


側面の多数の制御スラスターが噴出し、減速しながら横向きにポイントへと着地する


『幸運を祈る』


と告げると、エンジンを吹かしてExAの輸送船は宙域から離脱していった


「コンテナ、ロック解除します。」


ブルーノ機がコンテナのハンドルを掴み、横へとスライドさせると、コンテナ上面が解放され、新鋭機、FSR-31G3 センチネル3型が姿を表した


濃紺のボディに、ツインカメラ、頭部のアンテナ


それを見た大尉は、


「悪人顔だな」


と漏らした


ブルーノ機はコクピットを開け、コリィ大尉は酸素ボンベとスラスターパックを背負って機体へと向かう


暗証番号を入力し、コクピットハッチを解放、シートに座りハッチ閉め、システムを起動する


『welcome to FSR-31G3 sentinel model3』


ディスプレイに表示され、AIのアナウンスが流れる


大尉はコクピットレバーを握り、機体を引き起こし、ペダル操作で月面へと立ち上がる


「新型の悦に浸ってみたいものだが、遊んでる暇はないな。」


二人に通信システムを繋ぎ、


『受領完了、離脱する。』


と命じるが、


『12時方向からブリップ3!識別信号は友軍ですが......恐らく......』


ゲオルクが切迫した声で報告する


運命は、すでに動き出していた

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